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そして骨の髄まで

ナマエに不満があるかだなんて、そんなものがあるはずもない。

ただ、ただひとつだけ挙げるとするならば、

ナマエは魅力的で、俺には到底もったいないほどで、だからこそ時々どうしようもない不安に駆られるんだ。

ナマエはかわいい。
触れると柔らかくて暖かで、俺が少しでも力を加えてしまえば壊れてしまいそうで、

まるで砂糖菓子のような。

そんなナマエだから、俺が側に居ない時に、何か危ない目にでもあってしまうかもしれない、変な男にでもつきまとわれてしまうかも、もしそうなったら一体どうすればいいというんだ。
ナマエには考え過ぎだよ。だなんて笑い飛ばされてしまったけど、どうしても考え出すと止まらないんだ。
離れている間、悪い想像が後から後から湧き出てきて不安に押しつぶされそうになる。

浮気の心配だとか、そういうんじゃないんだ。
ナマエはとても誠実な人だとわかっているから、そこのところだけは安心できるのだけれど。

ナマエに四六時中ついていたい。
そうしたらこんな悪い想像もしないで済むのだろう。
でもそれは無理だとわかっているんだ。
まだナマエにはナマエの生活があるし、悔しいことに俺にも俺の生活がある。

いっそのこと、ナマエを食べてしまおうか、だなんて考えた事は一度や二度じゃない。
だってそうすれば、ナマエは俺の血となり肉となって、俺が死ぬまでずっとずっと一緒に居られるんだ。

それはなんてすてきなことなんだろう。

でも、そこまで考えていつもふと我に帰るんだ。
そうしてしまえば、その後はナマエの声を聞くことができない。抱きしめることも、キスすることも、大好きなあの笑顔を見ることもできなくなってしまう。

そんなことは俺には耐えられない。

だからそんな危ない衝動は俺の中で音も立てずに静かに消し去るんだ。

部分的に食べてしまうのはどうだろうだなんて考えても見た。
どこが欠けてもナマエはナマエ、俺はどんな彼女も好きでいる自信はあるけれど、
ナマエに痛い思いはさせたくないし、痛かったらきっとナマエは泣いてしまう。
それは、うん、嫌だな。

俺を食べてもらうのはどうだろう。
そうすると俺がナマエの一部になるんだ。

ああ、なんてすてき。

でも、それでもダメだ。
幸せなのはその時だけ。

じゃあ、全部は無理だから、やっぱり一部分だけなら。

それもダメだ。
ナマエはとても優しい人だから、俺のどこかが欠けていたらきっと悲しんでくれる。
それはとても嬉しいことだけれど、やっぱり泣いてしまうのは嫌だな。

そこまで考えてまたそんな考えも霧散させる。


板チョコを細かく刻みながら、もはや一日のサイクルとなっている鬱々とした想像に身を任せてしまう。
一人でいるとどうも考えが行きすぎてしまっていけない。とわかってはいるのだけれど……

(……っ!)

夢想にふけりすぎていたのかさくりと指を切ってしまった。
ああ、俺は本当にだめだな。
チョコレートも満足に刻むことができないだなんて。

一拍遅れて滴り落ちてきたまだ鮮やかな色をしている血液に、なにかが閃いた気がした。

この液体も俺の一部なんだから。
それならば、


□□□


「ありがと。すっごく嬉しい!大事に食べるね」

そう言って笑う彼女は本当に眩しくてかわいくて。
ああ、もう俺はきっと彼女を手放すことなんてできないよ。

てっきりすぐに開けてもらえるかと思っていたのだけれどそうは行かなかったみたいで少しだけ落胆してしまう。
本音を言えばその場で食べて欲しかったのだけれど、受け取ってもらえたのだから贅沢は言えないな。
無駄にそわそわしてしまったのはしょうがないと思うんだ。
だってソレには俺の身体に流れていた俺の一部が入っているのだから。

ああ早くソレを君の一部にしてほしい、そうしたら俺のこの不安も少しはマシになると思うんだ。





どうぞ召し上がれ、そして骨の髄まで俺を行き渡らせて


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