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どうぞ召し上がれ

「そ、その、これを受け取って欲しい!!」

そう叫びながら深々と頭を下げつつ絆創膏だらけの酷い手でこれまた酷く歪な包みを徐庶さんが差し出したものだから、会ってすぐに渡そうと鞄を探っていた手を思わず出して受けとってしまった。

「徐庶さんが流行りに乗るだなんて……」

「いや、あの、流行りに乗ったと言うか、……いつも、君には貰ってばかりだったから、こういう機会に少しでも返せたらって思ったんだ。それに、俺の作ったモノを君に食べて欲しくって。うん、結局流行りに乗ったってことになるな」

ラッピングはちょっと残念だけど、中身はちゃんと綺麗なのを選んだんだ!という徐庶さん独特のふにゃりとした笑顔が私にも伝染してくる。

「綺麗なのを選んだってことは、失敗作が一杯あるってこと?」

「えっあっう、……うん、恥ずかしながらね。俺は余り料理は得意じゃないみたいだ」

徐庶さんはガシガシと頭を掻きながら情けなさそうに眉尾を下げた。
きっと夜通し作っていたのだろう。
よくよく見てみれば顔色が青白く、心なしかフラフラしているようにも思える。
そんなになるまで頑張ってくれなくてもいいのに、とほんの少しだけ呆れる気持ちが出てきてもこみ上げる愛おしさに全部塗りつぶされてしまうのだ。

「ありがと。すっごく嬉しい!大事に食べるね」

「喜んでもらえて俺も嬉しいよ。……それで、その……」

「うん。ホワイトデーは期待してね」

「あ、いや、そうじゃ、……いや、うん。楽しみにしているよ……」

そう言って徐庶さんはうつむいてしまう。
きっと耳や尻尾がついていたらしょんぼりと垂れ下がっているのだろう。
そわそわし始めた徐庶さんの言いたいことはわかっているのだけど、少し困らせてやろうという悪戯心が働いた。
この人の困った顔はもう抱きしめたくなるほど可愛くて、ついつい悪いこととはわかっていても揶揄ってしまうのをやめられないのだ。
とは言っても、流石にここまで頑張ってくれた徐庶さんを落胆させたままでいるわけにもいかないので、徐庶さんのプレゼントを鞄に仕舞いながら目当ての物を取り出す。

「なーんてね!ちゃんと用意してるに決まってるじゃないですか。はい!ハッピーバレンタイン」

「……!?えっ?あっ!ありがとう!!」

弾かれた様に顔を上げて私の持つ箱を確認した後の青白かった頬を紅潮させるさまは効果音を付けるなら『パァァッ』といった感じじゃないだろうか。

「よかった……このまま貰えないかと……あ、いや、嬉しいよ。とても嬉しい。夢じゃないんだな」

そう、幸せを噛みしめる様に言われてしまうとなんだか気恥ずかしくなってきて、私まで顔が熱くなってくる。

「あ、味見してないから、味の保証は出来ないし、お腹壊しても知らないからね!」

「え、手作りなのか?君が作ったモノを食べることができるだなんて、どうしよう、幸せ過ぎて俺、ああ、なんだか涙が出てきたよ」

とうとう徐庶さんは感極まって泣き出してしまった。
こんな小さなことで幸せを感じて、泣いてしまうから彼の目はいつも潤んでいるのだろう。
手作りでこんなに喜んで貰えるのなら、

「……よかったら、今度、ご飯つくりに行ってあげようか?」

「……えっ、……」

徐庶さんは驚いた顔のまま固まってしまった。
どうやら処理限界を超えてしまってフリーズしてしまったようだ。

□□□




「料理は苦手って、ウソじゃない」

家に帰って早速めためたなラッピングを開けてみれば出てきたのは雑誌に載せても恥ずかしくない出来の可愛らしいチョコケーキだった。

「しかも中にソースまで入ってるし」

これだけ凝られてしまったら、私の立つ瀬がないじゃない。と若干凹みながらも、ケーキを口に運ぶ。

「あ、おいし……ん?」



なんだか少しだけ錆びたような鉄のにおいが鼻をかすめた気がして



(焦がしちゃったのかな?)

しかしそれも一瞬の事で、ナマエはそのまま気にせずに完食したのだった。







暗闇の中、男はうっそりとわらう


ああ、ああ、今頃は俺の中に流れていたモノが君の中に入って行っているんだね


なんてすてきなことだろう


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