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ぎゅっ

「ね、あの、高虎?」
「どうした」
「高虎ってさ、その、後ろから抱き締めるの、癖なの?」
「……何故そう思う」
「なんでって……」

何故と言われても、今の状況がいい証拠だ。
今、私は高虎のかいた胡座の上に座らされて後ろから抱き締められている。
しかも私の腹の前でがっちりと高虎の腕が組まれている所為で全く身動きが取れないのだ。
私が抵抗できないのを良いことに、高虎は肩口に顔を埋めてみたりはたまた耳を悪戯に食んでみたり(流石にこれには全力で抵抗した)とやりたい放題である。
高虎から抱き締められる時はだいたいいつもこんな感じなのだ。

思いが通じ合う前はてっきり色恋事には興味が薄いのだと思っていた高虎からまさかこの様なことをしてくるとは期待していなかっただけに嬉しいと言えば嬉しいのだが、常とのその真逆の変わりように戸惑いを隠せない。

「嫌か?」
「嫌って言うか、高虎の顔がちゃんと見えないからなんか落ち着かなくて」

ついでに高虎が話す度に息が耳元や首筋に当たってこそばゆいったらない。
すると高虎は何か得心したようにふむ、と一度頷いた。

「なるほど、確かに癖になっているかもしれんな」
「え、やっぱりそうなの?」
「ああ、この方が、俺の顔が見えずに不安がってるあんたの顔を余すことなく堪能できるからな」

普段は敵に狙われやすかったり、色んなとこにぶつけたりと面倒だが、こういう時はこの身の丈に生まれついたことが得に思えるな。なんて、くつくつと笑い混じりに言っているが、内容は全くもって笑えない。

「なんなのその理由!高虎ったら性格悪いんじゃないの!?」
「今更だな、そんな俺にあんたは惚れたんだろう?」

憤慨する私をよそに、それに、と高虎は続ける。

「戦場では勇猛果敢で鬼のようなあんたが俺の腕の中ではそういう可愛い顔をするんだ。癖になって当然だろうが」

くいと顎に手を当てられ、無理やり上を向かされて、上から覗きこむようにしている高虎の青く透き通った瞳と目が合った。

(……首がつりそう)

背後の男の発した言葉とは信じられないような台詞に半ば現実逃避気味にそんなことを考えていたら、そのまま額に接吻を落とされる。

「っな!なななにするの!?」

こんな甘ったるいようなことをする男を私は知らない。
誰だこれ、本当に高虎なの!?

顔に熱が集まっている自覚は有るが、顎を固定されている所為で隠すことも出来ない。

「そうやって、俺の一挙手一投足に真っ赤になってうろたえたり、不安がって怯えたりするあんたが愛おしくてしょうがない」
「――――っ!」

いつの間にか高虎の目は獲物を捕らえた肉食獣のような色を宿していて、うっかり反応して身が竦んでしまう。

そんな私の反応に、ほう、と高虎は満足気なため息をついた。

だから誰なのこれ?!
絶句している私をよそに、いつの間にか高虎は体制を変え、私に覆い被さる形になっていた。
つまり、私は押し倒されているということで……

やっとそこまで頭が回ったところで

「さあナマエ、もっとあんたの色んな顔を見せて見ろよ」

そう言った高虎の酷薄そうな笑みに、私の頭はもう処理することを放棄した。




(こ、こんな!こんなになるなんて聞いてない!!)
(あんたは本当、俺を飽きさせないな)


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