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「か、勝った……なんなの、あの地味に疲れるジム戦は……」

ライモンシティのジム前で精も魂も尽き果てた私は座りこんでいた。
ジャローダが心配そうに横からつついてくれるんだけどごめん、今無理、反応できない。


ジム戦だというのにあたかもファッションショーのようで、まずステージに上がるのに大変な覚悟を決めなければならなかったし、バトルが始まったら始まったで観客が気になって集中出来ないし。
もう体力よりも精神力がガリガリ削られていったんじゃないだろうか。

(そもそもジム戦ってあんなに大勢一般客が入るものなんだっけ……?)

ジムリーダーのカミツレさんがいくらカリスマモデルだからって、あれは無い。無しにしてほしい。



しばらくの間虚ろな目で呆けていると、視界の端に見覚えのあるツンツン頭が横切った。

(あれは、ヒュウ!?)

ヒウンシティで別れたきり、ずっと見ることのできなかった姿に頭が一気に覚醒する。
しかしちらりと見えただけでまた見失ってしまい、ジャローダを急いでボールにしまうと必死にその姿を捜しながらミュージカルホールの方角へと走った。

(確かこっちの方へ行ったはず……なんだけど……)

ヒウンの下水道でプラズマ団を追いつめ、逃がしてしまった後、結局どうしてヒュウはああも執拗にプラズマ団にこだわっているのか聞けずじまいだった。

(アーティさんと会わなかったら、聞けてたのかな……)

あの時の、私を見て一瞬だけど、苦しそうな泣きそうなそんな表情に歪んだヒュウの顔を忘れられない。
どうしてそんな顔をするの。
私に何が重なって見えたの。

どうして何も教えてくれずにひとりで抱えこんでしまおうとするの。

私だって、旅に出てすぐの頃よりもずっと強くなっているはずなのだ。
もっと頼ってくれたっていいじゃないか。
サポートしろ。と言うのなら、向こうだってもっとそれなりの態度をとるべきなのだ。
なんでこんなに必死に走って探し回らなければならないのだろう、と何故か不満がふつふつと湧いてくる。
やっぱり、私はヒュウの背中を追いかけることしかできないのだろうか。
となりに立つなんて、夢のまた夢……なんだろうか。




ライモンスタジアムの前を通りぬければ5番道路へのゲートが見えてくる。
その手前に、ヒュウと、
そしてそれを囲むプラズマ団の姿を見つけた。

会話が聞こえてくる距離まで近づくとヒュウが気づいたのか、ちらりと一瞬だけこちらを見る。
しかしすぐにプラズマ団に視線を戻してしまい、私は足がすくんでしまってそこから近づくことも、離れることもできなくなってしまった。


「……オマエら、ここで何してた?」
「別に、ただここにいただけだ。逆に質問するが、俺達がお前に何かしたか?」
「……何もしていない。だがな、人のポケモンを奪うオマエらは、絶対に許さない」

へえ、許さないとどうなるんだよ。と、プラズマ団の男はニヤニヤと馬鹿にしたように笑った。
……ああ、これ、多分ヒュウキレちゃう。

「……言っておく、オレは、今からいかるぜッ!!」
「やれやれ……近頃のトレーナーは物騒だ。アレか?ポケモンの強さを自分の強さと勘違い、か?」

プラズマ団の男が自分の胸に手を当てて同じことを言ってみたらどうだろうか、と思うようなセリフを放ち嫌な笑みを浮かべる。

「まあ、お前なんかどうでもいいが、ジャマはされたくないのでな!!」

そう言い放つと同時に、周りのプラズマ団もモンスターボールに手をかけた。

「……ナマエ!!!頼りにさせてもらうッ!」
「…!うん、わかった。まかせて!」

さっきちらっと見ただけで終わってたくせに、とか、言いたいことは色々有ったのに、その一言だけですべて忘れてしまえるほど舞い上がってしまうのだから、私もたいがい現金なのだ。

ヒュウが私を頼りにしてると言ってくれるだけで、なんだってできる気がする。そう、例えばこの目の前にいるプラズマ団を全て全滅させてしまうことだって。

ジャローダ、もうちょっと頑張ってね。と、ヒュウの隣に立ちながら、私もモンスターボールに手をかけた。


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