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たんぽぽ武将のつどい


ある人曰く
「仕官先が見つかった今でも無性に食べたくなる時があるんだよねェ。もっと良いもん沢山食えるってのに、癖になっちまったかなァ」

またある人曰わく
「アレは立派な野菜だ、雑草と呼ぶのがそもそも間違いだろう。聞けば南蛮では第一級の薬草だとか。まあ、確かに最近はそう食べる機会もないからな。時々あの味が恋しくなる」





「とまあ、そういう訳で、僭越ながらこの左近が一席設けさせていただいた。と、そういう次第でして」

大阪城下にある島左近の屋敷にその日、柳生宗矩、藤堂高虎の両名は招かれていた。
男三人、しかも体格の良い武将が狭い部屋で竹で編まれた大きめの篭を真ん中にして、膝を突き合わせて密談でも交わすがごとく声を潜めている様は端から見れば異様である。

「なんでも伺ってみるに、お二人さんもコレが恋しいって話じゃないですか。いや、俺もね、コレがたまーに無性に食べたくなるときがあるんですがね」

目の前の篭の蓋に手をかけながら左近は続ける。

「どうもうちの殿はこういうのあんまり好きじゃあないようでしてね。かといってひとりでつつくのは寂しいものがある。そしたらお二人が昔牢人してたって話を聞いたもんで、声をかけてみて正解でしたね。さ、遠慮せずに召し上がってくださいよ」

と言うやいなや、蓋を持ち上げた。

中を覗き込み、宗矩はへェ、と感嘆の声を上げ、高虎も普段はあまり動かない表情が僅かに綻び目を輝かせている。

篭の中に現れたのは
蒲公英を使った様々な料理だった。

「また、随分とたくさん拵えたものだな」

心なしかうずうずとした様子の高虎が弾んだ声で尋ねる。

「お二人がどうやって食べていたのかまでは聞いてませんでしたからね。普通に湯がいたものからてんぷら、胡麻和え、酢の物、きんぴら、使ってる所も花、茎、葉に根となんでもござれですよ」

ついつい張り切って作りすぎちまいました。と左近が頭を掻きながら笑った。
ああちゃあんと酒もありますからね。と付け加えるのも忘れない。

「じゃァどれ、ひとついただきますかねェ 」

と、いち早く小皿と箸を構えた宗矩が料理をつつきだしたのを皮切りに、各々好き好きに食べ始めた。

「あァ、懐かしい味だなァ。食うに困ったときはその辺に出てこうやって野の草花を取って食ってたもんだよォ」
「ええ、本当に、長いことご無沙汰だったんでこういう味をすっかり忘れちまってましたね」
「いつもおんなじ味は嫌だったからなァ、いろいろ試行錯誤してみたもんさァ、中でも胡麻和えにしたのが好きだったねェ」
「俺はもっぱら葉をおひたしにしたり根をきんぴらにしたりしてましたねえ。藤堂殿はどうなんです?」

と、左近が会話に入らずもくもくと蒲公英のてんぷらを咀嚼していた高虎に話を振ると。
こくり、と飲み込んだのちに

「ん、俺は大体生で食っていたな」
「えっ」
「えっ」
「いや、だから生で食っていた」

一瞬の沈黙の後

「……藤堂殿…苦労してらしたんですねぇ」

と左近はしみじみと呟き、

「ああ、えっとォ、ほらほら、まだまだたくさんあるからどんどん食いなよォ」

と宗矩は焦ったようにまだ天ぷらの乗っている高虎の小皿に新しい料理をひょいひょいと乗せていった。


そのような調子で牢人していた時の話に花を咲かせていると、
突然スパァン!と小気味よい音を立て障子が開いたと同時に

「左近、すまないが少々確認したいことが…あって…だな」

左近の主、石田三成が顔を出した。
が、左近と高虎、宗矩、そして三人の中心の蒲公英の料理を見比べ、なんだかとても哀れなものを見た。という顔をしたのちに

「…………」

無言でまた引き返していった。



「行っちまったねェ」
「ああ、行ったな」

その様子を見て宗矩と高虎が呟くと、三成が来たことにより固まっていた左近も我に返り、

「え、え?ちょ、との?なんなんですかさっきの顔は!!!」

と叫びながら主を追いかけて走っていってしまった。

「行っちまったねェ」
「ああ、行ったな。ところでそっちにあるきんぴらを取ってもらえないか」
「あァ、ほら、おじさんもそっちにある酒の徳利とって欲しいなァ」

なんだ、ついでやろうか。いいのかい?なんて会話をしながら
残された二人はその後も何事もなかったように飲み食いしていたのだとか。


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