短編 | ナノ
今日は何の日?
そう!今日はあたしのだいすきな獄寺くんのお誕生日!生まれた日!本当に生まれてきてくれてありがとーーー!
隣のクラスの彼は朝から女の子にいっぱいプレゼントをもらってる。みんなすごい女の子っぽくてかわいい。もうオーラがかわいい。ふわふわしてるよ。なんかほっぺたをピンク色にさせて照れたりしててかわいい。なんであんなに素直に「おめでとう」って言ってプレゼント渡せるんだろう。あたしはそんな風に女の子っぽくできない。心の中ならいくらでも素直になれるんだよ?でも彼と話せば可愛くないあたしばっかり出てきて素直になれないの。
それでもいちようあたしだってプレゼントを用意してきた。クラスが違うからなかなかタイミング合わなくて会えなかったし、もし会ったとしてもみんなの前じゃ恥ずかしくて渡せないからどちらにしても渡せなかったんだけど…。でもさっきツナくんが先生に呼ばれて職員室に行ってたからきっと彼は教室でツナくんを待ってるはず。彼、ツナくんには何故かすっごく忠実だからね。忠犬ハチ公みたいに。こんどハチって呼んでみようかな…。話が脱線したけどとにかく彼はあたしの推理通り、教室にまだいるはず!そう思ってあたしは彼のいるだろう教室に向かった。
教室を覗いてみるとあたしの推理通り彼はそこにいた。
「十代目!お疲れ様でした!」
彼があたしの方をバッと見てそう言った。きっとツナくんだと思ったんだろう。でもその予想は外れて、そこにいたのはあたし。彼はびっくりしたような、不思議そうな顔をしてあたしのことを見た。
「何してんだお前」
「べ、別になにもないけどこの教室に誰かいるみたいだったから覗いてみたただけ。それよりなんかすごいね、それ。今日なんかあるの?」
プレゼントたちに目線を向けて聞いてみる。今日が彼の誕生日って知ってるくせに知らないふり。素直じゃないあたしが誕生日しってるって伝えたら負けだよ!好きだってことバレちゃうよ!って言ってる。
勝ちも負けも何もないんだけど、なんか自分から今日誕生日なんでしょ?みたいに言ったらなんかいかにも!みたいに思われるみたいな思考が反射的に、そう、彼を前にすると反射的にかわいくなくなるのだ。
あ、別にそれは自分がかわいいっていってるんじゃなくて、素直じゃないってこと。
「ああ。今日オレの誕生日なんだよ」
「そ、そうなんだ。今日誕生日なんだ。じゃあまた獄寺は1つオッサンになっていくんだね」
あっさり答えた彼にすこしうろたえながら、あたしはまた可愛くないことを言う。
なんでこんなコト言っちゃったんだろ。普通ここは「おめでとう」じゃんか!いまのこの会話なら違和感もなく普通に、ナチュラルに言えたじゃんか!なんでそんなこと言っちゃうかな自分。しかもオッサンになってくって…。あたしガキか!中学生みたいなこと言いやがって。面白かったらまだあたし的に自分を救うことができるけど面白くも何ともないし、ただただガキまるだしじゃんか…。
「オッサンって…。オレまだ17になったばっかだぞ。お前はおめでとうとかそーゆーかわいいこと言えないのかよ」
「あたしはまだ16だからね。あたしから見たら獄寺はオッサンだね!それにあたし的には獄寺がまた1つ年をとったってだけで全然おめでたくもないし、かわいくないとか余計なお世話!」
「はいはい分かった分かった。もうオッサンでもなんでもいいから。まあお前からしたらそうだよな。オレの誕生日なんて。まあオレにはそれでもいいかもしれねぇが好きなヤツでもできたらお前損するぞ?今のうちから素直になれるように特訓でもしとけ」
獄寺は中学生の時に比べて随分オトナになった。中学の頃がガキすぎたってゆーのもあるかもしれないけど、やっぱりそれを無くしてもオトナだと思う。今じゃ学校の男の子たちよりもオトナっぽくて、なんだかんだ言って紳士的だ。だから中学のトキみたいに2人で言い合いをすることもなくなった。あたしが何か言っても、これがオトナの余裕だ、みたいな感じで流す。そんな獄寺も魅力的だけど、あたしは言い合いをしてた時の彼もだいすきだったから思い出しては少しセンチメンタルな気分になる。それにオトナになった獄寺は、子どもだったトキよりも距離を感じるようになった。なんだか一線置かれてる感じ。
それにしても「オレにはそれでもいい」だなんてなんかもう恋人候補から最初から入ってないみたいじゃないか。まあ入ってないってことなのか。いや、むしろあたしが獄寺のこと好きって気付いてるけどその気持ちには応えられないから、気付いてくれという意図があるのか。きっとそうだ。そうなんだ。アイツ、意外と鋭いからな。そうなのか。そうゆーことだったのか。あれ…?なんだか教室の床の木目がぼやけてきたぞ。涙?いや、こんなところで、獄寺の前で涙なんて見せちゃだめだ。不審な目で見られるに決まってる。急にどうしたんだ?みたいな。よし、そうと決まれば今日はもう撤退だ。
「じゃ、じゃあ帰るね。バイバイ」
早足で、獄寺に顔を見せないようにして下を向きながら教室を出る。
「お、おい!待てよ!」
お、追いかけてきた!ど、どどどどうしよう!そんな選択肢がなかったあたしはもうパニックだ。
「来ないでよ!」
もうどうもできない。パニックに陥りすぎてこんな言葉を発してしまった。せっかく獄寺が気にかけてくれたのに。彼の優しさがもったいない。ごめんなさい。
それでもあたしのかわいくない性格の暴走は止まらない。
「急にどうしたんだよ。オレなんかしたか?」
「もういいの!獄寺の気持ちは分かったから!いままで気付かないでごめんね。傷を癒す時間が欲しいからしばらくはあたしに話しかけないでね。まあ話すこともないだろうけど…」
「オ、オレの気持ちが分かったって…!ちょ、まっ、待ておい!なんでわかったんだよ!」
「だ、だってオレにはそれでもいいけどって…。こ、これ以上あたしの傷を抉らないでよっ!」
「傷を抉る…?(そんなにオレに好かれてることがいやなのか…!?)」
「そうだよ!なにが悲しくて自分から振られた話を振られた本人に詳しく説明しなきゃなんないんだよー!うわーーん!」
「ちょ、まてまて!いろいろなことがめちゃくちゃになって理解できねえぞ。いったん話を全部整理してみるから落ち着け」
そういって獄寺は紙とペンを胸ポケットから取り出した。さすがだ。どんな時でも紙とペンから入るスタンスは変わらないらしい。そんな彼は話を紙に書いて整理しだした。
「まず、お前は誰に振られたんだ?」
「う、ひっく」
「泣いてばっかじゃ分かんねんだろ。話してみろ。な?」
そう言って優しくあたしのことを諭してくれる獄寺。いや、でもね、それを説明するというのは告白をするのと同じなんだよ。そしてもう一度あたしに振られろというのか。何が悲しくてそんなダブルパンチを受けなくてはならないのだ。絶対それだけは避けたい。
「それは言えない」
「なんでだよ。それを言わないと話が進まないんだぞ」
「だ、だって…」
「だってなんだよ。誰にも言ったりしないから話してみろって」
「う、うぅ…」
「言わないんだったら明日からお前のこと振ったやつ、探し回るぞ」
「…!わ、分かった!言うから!言うからそれだけはやめて!」
振ったのは獄寺本人なんだから探したって見つかるわけない。それなのにそんなことされたらあたしが誰か(獄寺なんだけど)に振られたって話が出回ってしまうじゃないか!しかも獄寺はあたしのこと振ったんだからあたしの好きな人が自分って分かってるはずなのに…!なんでわざわざそんなことするんだ!なにゆえあたしの好きな人をあたしの口から言わそうとするんだ!あ…。もしかして自分に告白させて、それから思いっきり振ってやろうという作戦なのか。そこまで徹底してあたしに思い知らせたいのだろうか。そんなにもあたしのことが迷惑だったんだろうか…。もうなんだかどうでもよくなってきた。もう、この際だから思いっきり振ってもらってこの恋にピリオドを打とう。うん、それがあたしにとっても獄寺にとっても1番だ。さよならあたしの長かった片想い。
あたしは意を決して獄寺に告白することにした。
「あ、あたしが振られた人は…、す、好きな人は、ご、獄寺だよっ!」
「っ、!!」
なぜか獄寺はすごくびっくりした顔をして固まってしまった。いちよう今知ったという設定なのだろうか。だからこんなにも固まってしまってるのだろうか。
「ご、獄寺?い、いや。分かってるよ?獄寺があたしの気持ちを迷惑に思ってるの。まあいま、そうは言ってもさっき知ったんだけどね〜。あはは…」
「う、え…。ま、おっ、ちょ、え、ま、おい」
意味のわからない日本語を話しながら獄寺はあたしに近づいてきた。
あたしもなんだかそんな獄寺が不気味に思えてきて後退りをしていた。でも急に目の前が真っ暗になった。あれ?あたしどうしちゃったの?
「希子」
あれ?獄寺の声がすごく近く感じる。それになんかあったかい。もしかしてあたし獄寺に抱きしめられてる?なんで、…なんで?
「お前、オレのことが好きって言ったのは本当なんだな?」
「え、う、うん。本当だよ。本当だけどなんで獄寺あたしのこと抱きしめてんの?そんなことしちゃっていいの?」
「お前はこうされるのイヤか?」
「い、イヤじゃないよ。むしろ嬉しい…です」
「じゃあ問題ないだろ。オレもこうしていたいんだし」
「なんで?獄寺はあたしのこと迷惑だったんじゃないの?」
「は?なんでそうなんだよ。オレはずっとお前のことが好きだったんだ。迷惑なんて思うわけねえだろ」
「え、獄寺あたしのこと好きなの…?」
「そ、そうだ。中学んときからお前のことずっと好きだった。でもガキだったから素直になれなくていつも思ってねえことばっか言ってて…。だから高校に入ったら少しでもお前に優しくできるようにって、これでもいろいろ頑張ってきたんだよ…」
ほっぺたをピンク色にしてそっぽを向いてそう言った獄寺。そんな顔でそんなこと言われたらどうしていいかわかんなくなるじゃんかよ…。
でも獄寺がそう言ってくれたんだ。あたしも素直になってみようじゃないか。
「あ、あたしもずっと獄寺のこと好きだったんだよ!ずっと、ずっと…!大好きだったんだよ!」
あたしも獄寺にくっつきたくなってぎゅって抱き着いてみた。
「っ!かわいいことばっか言ってんじゃねえよ。そんなことばっか言ってどうなるか知らねえぞ?」
「獄寺にならなにされてもいいよ…?」
「んなっ…!」
ボンって音がするくらい真っ赤になった獄寺がかわいくて、思わず笑ってしまったあたし。それに気付いたのか獄寺が少し面白くなさそうな顔をした。
「なに笑ってんだよ」
「別に〜?ただ獄寺がかわいいなって思っただけ!ねえ、それよりもさ、さっきオレにはそれでもいいけど、他に好きな人ができたら…って言ってたじゃん?それってどうゆうこと?あたしに興味ないからそう言ったんじゃないの?」
そーいえば…。と思い、ぎゅっぎゅするのをやめて獄寺の顔を見る。
「か、かわいいってゆうな!あ?あぁ、それはだなぁ…。」
「…」
ドキドキ…。続きはなんなんだろう。
「そんなに見んな!そ、それは…」
「それは…?」
「他のヤツらはかわいげのある女の方が好きだろ?まあ、オレはかわいげがあってもなくてもお前なら関係なく全てが好きだけどな」
「う、す…全て」
予想外の言葉に今度はあたしが真っ赤になる番だった。
「なんだ?照れてんのか?かわいいとこもあんじゃねえか」
そんな真っ赤になったあたしのことを獄寺がニヤニヤしながらからかってきた。それがなんだかすっごく恥ずかしくて、すぐに違う話題に移りたくてもう1つ疑問に思ってたことを問いかけてみた。
「ねえ、でもそれじゃああたしが他の人に取られちゃってもよかったってこと?」
「そーゆーわけじゃねえけどよ、自分の惚れた女には幸せになってほしいだろ?お前の好きなヤツがオレだったら問題ねえけど、オレじゃなかったらソイツにお前のコト好きになってもらう必要があるわけだろ?それだったらかわいげのあるほうがいいんじゃねーかと思ったわけだ」
「そんな風に考えてくれてたんだね。でも、なんかちょっと寂しいかも…。だって獄寺はあたしが誰かに取られちゃっても平気だったってことなんだもんね…。あたしだったら絶対イヤだもん」
「だからそーゆー訳じゃねえって。…まあそう口では言ってても実際に他の男に取られたら我慢できねえと思うけどな」
獄寺はニッと笑ってそう言った。それがなんだかうれしくてまたぎゅって抱き着いてみた。
「うぅ〜!獄寺だいすき!」
「お、おまっ!いろいろ急すぎんだよ…!」
「あ!そーいえば!」
またもや真っ赤になってる獄寺を放ってあたしは獄寺から離れてカバンの中からあるモノを取り出し…。うん。なし。やっぱなし。だって…
「ん?お前なにしてんだ?…なんだそれ」
通常な状態に戻った獄寺がすぐ後ろにいた。気付かなかったぞ!ど、どうしよう。こんなにボロボロになってるだなんて思ってもみなかった。慎重に持ってきて、今日1日丁重に扱ったつもりだったのにぃ…!
「な、なんでもないよ。あはは〜」
「なんだよ。気になんだろ。よこせ」
「あ!だ、ダメだってば!」
そんな声も空しくヒョイっと獄寺に取られてしまう。
「なんだこれ?ケーキか?」
「そうだよ。ケーキ。ケーキには見えないけど元はケーキだった物体だよ」
「誰のための?」
「…獄寺」
「ホントか!?すっげーうれしい!じゃあ遠慮なくもらうぜ」
そう言って獄寺は元ケーキだった物体を食べ始めた。多分味には影響はないと思うんだけど…。怖い。
「うん!めちゃくちゃウマイぜこれ!ありがとな!」
獄寺がすっごい笑顔でお礼を言ってくれた。なんだかそれだけで不安は消し飛んでしまった。
「う、うん!お誕生日おめでとう」
「おお、ありがとな。ケーキも美味くて嬉しかったけど、1番うれしかったのは希子がオレのもんになったことだな。…もう1つわがまま言ってもいいか?」
「あたしにできることなら…」
「オレのこと名前で呼んでくれねえか?」
「な、名前で?」
「あぁ。名前で」
「ずっと名字で呼んでたから改めて名前でって言われると恥ずかしいよ…」
「今日はオレの誕生日なんだ。ワガママ聞いてくれよ。…なっ?」
「うっ。は、隼人…」
「ん…?」
優しい顔で返事をしてくれた。それはいいんだけど、「ん?」って言われたら他にもなんか言わなきゃならない気がしてきちゃうじゃないか。で、でもいつもは素直になれないから今日くらい…!
「は、隼人!お誕生日おめでとう!これからもずっとそばにいてね!だっ、だいすきだよっ!」
「っ!あぁ。これからもオレの側に居てくれな。オレもお前のコトだいすきだ」
一瞬びっくりした顔になったけど、すぐに優しい顔になってあまい甘い言葉をくれた。
次の瞬間…。
チュッ
「愛してる。俺の希子」
もっと甘い言葉と一緒に甘い甘いキスをくれた。
「隼人だいすき!」
ありがちなセリフだけど、来年も、再来年も…ずーっとずうーーーっと隼人のお誕生日をお祝いさせて欲しいな。
ホントに生まれてきてくれてありがと!
バースデー
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