短編 | ナノ
二人並んで歩く帰り道。
「ねえねえ、今日のご飯どうする?」
「適当に出前を取ればいいだろう。それとも何か食べたいものでもあるのか?」
「ううん、大丈夫。…あ!なにかDVD借りてかない?」
「今日はずっと見るのを楽しみにしていたDVDがあってな、それを見るんだ」
「え!そうなの?なになに?どんなの?」
「The Shiningという映画だ」
「…え?」
「だからThe Shiningという映画だ」
「そ、それって怖いやつ?」
「まあそういう部類のものだな」
「や、やだ!」
「嫌と言われてもオレはこれを見るのをずっと心待ちにしていたんだ。今更お前がいるからと言って見るのを止めることは出来ない」
「また今度見ればいいじゃん!」
「それだったらお前がウチに来なければいいだろう?」
「うぅ…」
恐いもの、特にホラー系やオカルト系が大嫌いな希子はどうにか仙蔵を説得しようとしたがそう言われると何も言えなくなってしまった。それを見るよりも一人で夜を明かす方がよっぽど希子にとっては恐ろしいことだった。それを分かっててそう言う仙蔵も十分性格が悪いが。

そして冒頭に戻る。
「ねえ、じゃあせめて明かり点けようよ」
「ダメだ。オレはこの状態にして見るのが好きなんだ。雰囲気だって大事だろ?」
「こんな雰囲気いらないよ!余計怖くなるだけだもん!」
「それがいいんじゃないか」
「…もうヤダ!しらない!」
そのまま掛けていた毛布をすっぽりかぶって身体をぎゅっと丸める。テレビから不気味なBGMと一緒に悲鳴が聞こえたのにまた叫び声を上げそうになるが口を手で覆って塞ぎ仙蔵に身体をくっつける。人肌があれば少しは怖いのが小さくなるのだ。
それでも話が進めば進むほど怖いのに拍車がかかってついにはガン泣きになってしゃっくりを上げながら涙を流した。最初はそれを嬉しそうに眺めていた仙蔵だが段々エスカレートしていく希子の泣き顔に罪悪感を感じ始めたのかDVDを停止して明かりを点けてくれた。
「よしよし、怖かったな」
「ホント、だよ…!怖かったん、だから、ね!うぅ〜」
頭を撫でる仙蔵の胸をポカポカ叩く。
「ほんと、に、このサディスト!ドSやろっ!もんじ君のこと虐めてるんだかっら、ワタシのことまで、虐めるっ、な!」
「すまんすまん」
「この、ばかせん、ぞー!」
小さいこどもを宥めるように眉を下げて希子の頭を撫でる姿は本当に幼い妹と兄に見えた。
少しすると流れていた涙も止まって今まで出っ放しだった鼻をかむ。使命を果たしたティッシュを丸めながら希子は恥ずかしそうな小さな声で仙蔵を呼ぶ。
「せんぞ…」
「なんだ?」
「…トイレ」
ブッと吹き出しそうになるのを堪えて“はいはい”と言いながら希子に着いていってやる。
アイロンでパキッとしていた仙蔵のシャツにいつも1カ所だけくしゃ、と付いていた皺の場所。そこには幼い頃と同じように希子の手があった。