短編 | ナノ
ワタシは完璧主義だ。全てに置いてではないけど、好きなことをする時や大切な時間を過ごす時間に対しては全てお膳立てしてからでないと気が済まない。それには普段からキッチリしているママにも呆れられるくらいだ。
そんなワタシに今、人生最大のピンチが訪れようとしているのです…!
「大袈裟よ」
ワタシがこんなにも悩んでいるというのに友人の花にズバッと一刀両断された。悲しい。
「だって今週の日曜日は隼人の誕生日なんだよ!こんな状態じゃ…!」
そう、今週の日曜日はワタシの彼氏、獄寺隼人の誕生日。今日は木曜日。もうダメだと思った。
「だからニキビくらいで大袈裟だって言ってんのよ」
「大袈裟じゃなーい!」
ワタシにニキビが出来てしまったのだ。それも大きな。この様子を見ると日曜日までに治る確率はとても低い。わたしは普段あまりニキビがでない代わりに時々1つ、大きなニキビができるのだ。でもまあ友人からは肌がキレイだとよく褒められるし、自分でいうのはなんだけどキレイな肌をしていると思う。美白だし。だからその一時だけ我慢すればいいのならそれでいいと思っていた。
しかし、状況は大きく変わった。隼人の誕生日。それは彼がだいすきで愛しているワタシにとって1年で1番大切な日なのだ。冒頭で言った通りワタシは大切な時間は完璧な状態で過ごしたい。よって、完璧であるにはこのニキビはあってはならないのだ!!!
「そんなに熱説してる所悪いけど、気合だけでどうこうできるものじゃないわよ」
「えーん!京子ぉ〜」
厳しいことばかり言う花なんて嫌いだ!そんな彼女と真逆の天使、京子にワタシは泣きついた。
「まあまあ希子。まだ日曜日まで日があるんだし薬塗ったりして頑張ろう」
「京子〜」
「もう、京子は希子に甘いんだから」
京子の優しい言葉に感激しているワタシを見て花が呆れたように苦言を零した。でも気にしないのだ!

しかし今回は本当に変なトコロにニキビができた。鼻の真ん中だ。恥ずかしくて恥ずかしくて隼人に見られたくない。だからまだ残暑が残っているというのにワタシはマスク着用だ。廊下ですれ違う人に奇妙な目で見られる。
マスクを外すのはお昼の時間だけ。体育は見学した。そんな行動をしているから隼人も不審に思ったようだったけど、そんなこと恥ずかしくて言えない訳で、ワタシは逃げた。
毎日一緒に過ごしていたお昼の時間だってマスクを外さなきゃいけないので京子と花と食べると言って逃げていた。

結局金曜日の夜にも治らなくて、次の日の朝に治ってなかったら本当にどうしよう、隼人との約束をキャンセルすることまで考えた。
日曜日が誕生日なので前日の土曜日に隼人のお家に泊まって日付が変わる瞬間を一緒に迎えたいと思ったから隼人に泊まらせてくれと頼んでいたのだ。
でもこのままじゃ…。隼人の誕生日を一緒に祝えないのはイヤだ。だけどこんなニキビのある顔で一緒に迎えるのもイヤだ。どうしよう…。

そして翌日の土曜日…。
「オイ、希子。お前どーゆーつもりだ。こないだからずっとオレのこと避けやがって」
「ちょ、ちょっと用事が出来ちゃって…」
ワタシは土曜日はキャンセルすることにした。今日一日中薬を塗って明日、治ってることを祈ることにしたのだ。まあこれで明日治んなかったら死ぬけどね…。
「ずっと前からしてたオレとの約束を断ってまで優先しなきゃいけない用事ってなんなんだよ。ちゃんとそれなりのものなんだろうな?」
「あ、あれだよ!あの、教会にお祈りにいくんだ!」
「お前ん家、仏教だよな?」
「ち、違うよ!こないだ移教したんだ!」
「…ハァ。分かった。とりあえずオレより宗教ってことだな?」
「そんなこと言ってない!」
「そういうことだろうが!」
「ッ!」
電話越しに聞こえた隼人の怒鳴り声がすごく耳に響いて、鳥肌が立った。いつもすぐ怒る短気な隼人だけど、こんな風に身体が震えるくらいの怒気を孕んだ声は初めてだった。
「もういいわ。日曜も予定キャンセルな。ウチ来んなよ」
その言葉を最後に聞いて切れた電話。そのまま掛け直すことなんて出来ないでワタシは携帯をベッドに放り投げた。…こんな風になるなんて思ってなかった。こんなことを望んでた訳じゃないのに。