短編 | ナノ
「隼人…」

彼の名前を呼んでも返事は返ってこない。
どこに行ってしまったのか、その場所で何をしているのかも分からない。いつも一緒にいるツナくんと山本くん、笹川先輩、風紀委員長の雲雀さんも一緒に行方不明。みんな学校にきていない。

隼人から話は聞いているマフィアのことなのかどうなのか分からないけど、きっとそうなんだろうなと思う。詳しいことは教えてくれないし、あんまり踏み込んじゃいけない感じだからワタシも聞かなかった。
でも、すこしくらい言って欲しかった。どこかに行ってしまうんだったら、一言くらい声を掛けてほしかった。
だって、不安だもん。急にいなくなるだなんてコワイ。



―――1年後

ワタシは高校を卒業した。
隣に隼人はいない。ツナくんも、山本くんもいない。
3人は学校を辞めてしまった。詳しいことは知らない。でも、この学校からはいなくなった。辞めたのは3年生になる4月だった。



―――5年後

ワタシは大学にも、専門にも進学しないで就職した。
同窓会で聞いた。京子ちゃんはいまイタリアにいるらしい。1年前に大学を卒業して、イタリアに行ったらしい。ツナくんにプロポーズされて。
2人はずっと、ちゃんと連絡を取っていたらしい。ワタシの前から隼人が消えてしまってからもずっと。
隼人とツナくんは一緒にいなくなったんだから、ツナくんが京子ちゃんと連絡が取れるように、隼人もワタシと連絡を取ろうと思えばできたはず。それをしなかったのだから、それはきっとそういう意味なんだろう。
いまではこんな冷めた人間になってしまったけれど、隼人がいた時のワタシはこんな人間じゃなかった。
隼人にはうるさい、うざい、落ち着けといつも言われていた。いつも隼人はそんなワタシを見て呆れていた。でも、呆れながらも隼人はいつもかまってくれた。

隼人と初めてのお祭りではしゃいで周りが見えなくて迷子になって、それなのに慣れない下駄のせいで足を挫いて座り込んでた時は一生懸命ワタシを探してくれた。隼人、いっぱい汗かいてた。

隼人にかまってほしくて、話を聞いてほしくて必死になってて気付かなかった階段で転びそうになると隼人が抱きとめてくれた。その後すっごく怒られたけど。

いつも、ツンデレ(だとワタシは思ってた)だけど、意外に記念日とか大切にしててワタシのことを喜ばせてくれてた。ツンデレが記念日は緩和されていっぱい甘えさせてくれた。甘えてくれた。好きだって、だいすきって、愛してるって2人でいっぱいいっぱいイチャイチャした。
だからワタシは1ヶ月の記念日がだいすきだった。隼人といる毎日ももちろんだいすきだったけど、なんだか記念日の日は初めて恋をする女の子みたいに胸をドキドキさせてた。

もうワタシはこれからもずっと隼人しかいないと思ってた。自分の中で隼人のお嫁さんになるんだって、それが決まりみたいになってた。
でも、それはワタシの中でだけだった。隼人は高校の、青春時代のちょっとしたお遊びだったんだろうな。同窓会で聞いた話、ツナくんとの違いでよく分かった。

もう6年も経ってるのに話を聞いて、自分たちと京子ちゃんたちを比べて、落ち込んでるってことは、心がズキズキするってことはワタシがどこかで期待してたってことなんだろうか。
意識している心の中ではそんなことなかったのに、自分でも気付いてなかった場所でそんなことを思ってただなんてそうとう重症らしい。

それでも、隼人からは連絡が来ないんだ。
いままで好意を寄せてくれる人はそれなりにいた。でもなんだかそういう気持ちになれなくて、ずっと1人でいた。それは無意識に隼人と比べてしまってたからなのかもしてない。忘れられてなかったからなのかもしれない。期待していたからなのかもしれない。

でも、もう諦めた方がいい。
隼人のことはだいすきだ。きっといま迎えに来てくれたら何もかもを捨ててワタシは隼人に着いていける。
…まあ、そんなの夢のまた夢なんだろうけども。

こーゆう風に無意識に思ってたことが自分でも分かって、もうダメだよって、そうゆう風に目が覚めたのもいいことだと思う。
こんな風になっちゃったけど隼人からはステキなものを、思い出を、キラキラしてる幸せな気持ちをいっぱいもらえた。それで充分じゃないか。

もうワタシは大人なんだ。17才の少女じゃない。
また、もしもっと大人になって、旦那さんが隣にいて、その真ん中にはこどもがいて、そんなあったかい家族が出来たら、この胸のチクチクするものがなくなったら…。

また隼人に逢えたら、笑ってステキな春をありがとうって云おう。

そんな未来まで、



大人になって
120320