短編 | ナノ
「ただいまー」
「おかえりー。希子ちゃん来てはるよー」
「んー」
オカンが台所で何かしながら俺にそう言ってきた。まあ、幼馴染だし俺のいない間に家に来て母さんやユカリ、姉ちゃんと話してたりすることも珍しくない。今日は何があったのだろうか。まあ、そんな大したことじゃあないだろうけど。
そんなことを思いながら自分の部屋のドアを開けた。
「あ!蔵おかえり!」
「ただいま。今日はどないしたん?」
「え?別に何もないよー。ヒマだったから蔵んとこ来てみただけ!んで蔵がいなかったから部屋で待ってたの」
「オカンと話もしないで、か?」
「…」
「なんかあったんやろ。俺のオカンと話したくないっちゅーこんはおばちゃんとでも喧嘩したんか」
「うん」
「何があったんや」
はー。ため息をつきつつも、何があったのか聞いてみる。コイツはいつも自分の親や兄弟と喧嘩する度ウチにくる。まあ家が隣だってこともあるのだろう。しかし毎回毎回つかれないのだろうか。部屋にこもってればいいものを。…一緒の家にいるのも嫌だってことなのだろうか。
「きいてよ!なんかね、今日朝お腹痛いから学校休もうと思って起きなかったの。そしたらママがまず学校いきなさいってしつこく部屋まできて、弟たちが学校行ったあとにもまた部屋来ていろいろネチネチ言われて。あ、なんか大地が学校行く前にあたしの部屋きて学校いけ!とか偉そうに言ってきてさ!そしたら今度は父親が起きてきて、あたしが学校いってないって知ったら部屋まで来ていろいろ言ってきてさ。…それで挙句のあてにはさ、学校ちゃんと行かないなら専門の金なんて払わない!国立以外は金出さないとか言ってきてさ!もう高校生なんだからいいじゃん。単位取れなくたって自分の責任になるんだからさ!あたしだって計算しながら学校いってるっつーの!なんでいろいろ文句いわれなきゃいけないんだ!」
希子の愚痴はまだまだ続いた。あ、大地ってゆうのはコイツの弟の名前。それに希子はほんとにおじちゃんのこと嫌ってるからおばちゃんのことは「ママ」って呼ぶのにおじちゃんのことは「父親」って呼ぶ。
「まあ、自業自得ちゃうん?やっぱ高校行ってるんやからその分の金は親が払ってるんやし。高校は行くのが当たり前ちゃうんか」
「う、」
「それにお腹痛いだなんて言って本当は仮病なんやろ?」
「うう〜!」
コイツはサボリ癖がすごいからもうきっとおばちゃんたちもコイツが仮病なんだってこと分かってて怒ってるんだと思う。おじちゃんだってそうだ。本当はそんなこと思ってないけど学校に行ってほしいからそう言ってるだけで…
「希子もわかってるんやろ?ホンマはおじちゃんがそないこと本気で思ってないっちゅうコトくらい」
「〜うるさい!絶対そう思ってるんだ!いつもいつもなんか自分の気に入らないことがあると誰のおかげで生活できてるんだ!って。しらねーよ!生んだんだから育てんのは当たり前なんだよ!義務なんだよ!義務!できないならつくんなってんだ!コッチだって別に生まれてきたくて生まれて…」
「希子!」
俺は希子を怒鳴っていた。こーゆう屁理屈を聞かされるのは毎度のことだが自分が生まれてきたこと、ましてや生んでもらったことにこんなことを言うだなんて。聞いてるだけでイライラしてきた。
「そないこと言うもんじゃないで。自分、これまででいっぱい幸せなことあったやろ。生まれてきてよかったって思うこと仰山あったやろうが。なんで腹痛めておばちゃんが生んでくれたんにそないこと言うんや」
「もういい!蔵に言ったのが間違いだったんだ。いつもいつもママみたいにお説教ばっかでさ。今日くらいは分かってくれると思ってきたのに!もう分かった。蔵は絶対あたしの言って欲しいことなんて言ってくれないんだ。もうこれから蔵んとこなんて来ないから!」
バンッ
希子はそれだけ言い残して部屋を出て行った。俺だってアイツの気持ちはわかる。でもそれじゃあダメだと思ったからああいったんだ。でもアイツはそれを望んではいなかった。それでも俺はアイツの為になることをするのが今でも1番だと思っている。
ああ、俺はなんて言えばよかったんだろうか。


世界が未完成だった頃
100929