好きだから





みんなとりあえず気付いてないふりをしてくれていた。
それをいい事に、表面上はにこやかにみんなに挨拶をして屋上から逃げる様に離れて電車に乗った。

ただ、

まじ腹立つ。たまにすごく総一郎が嫌いだと感じる。

ノートに書かれたこれについて、弁明すべきだと思った。

明日は本番なのに、あんな言葉を総一郎に読まれたなんて気が気じゃない。
怒ってるかもしれない。
今日ちゃんと言わないと、また遠くに行ってしまう。
やっぱりそれは耐えられない。

でも、皆の前で総一郎に話すこともできない。
とりあえず総一郎のアパートへと向かう
私のほうが先に出てきたから、待ってたら総一郎もそのうち帰ってくるはずだ。
明日が本番だからみんな今日は寄り道せず帰るって言ってた。

駐輪場で自分の自転車のサドルに手をついてなんて言おうか考える。

えっと、あれは、誤解で?いや、でも誤解って感じじゃないし。なんて言えばいいかわからないけど。
でも何でもいいから伝えないと。別に何も連絡はしてないけどそわそわとスマホの時間を確認する。
もう、1分に一回くらい確認してしまっている。

「○?」

『!?』

予想していたよりもはやくその声が耳に届いて大きく体がはねてしまった。

ゆっくりと総一郎と目を合わせる。
反らしちゃだめだ。ちゃんと、言わないと。


『あの、ノートの。言わないとって…その。』

「ああ……。」

『嫌いって言うのは、その、そういう事じゃなくて。』

じゃあどういう事なんだよ。と自分でツッコむとどうしていいかわからなくて、言葉に詰まる。

「わかってる。」

『……総一郎?』

「言いたいことはわかってる。」

『あの、嫌いじゃないんだよ?』

「○。」

『はい。』

もう、祈るような気持ちで総一郎を見つめる。

「送るわ、バッグだけ置いてくるから待っとき。」

『う、うん。』


身軽になった総一郎が自転車を押しながら歩く。私はその隣を歩く。
話し出すタイミングを失ってしまった。
そんな中総一郎が口を開いた。

「あの時は、なんで○があんな態度取ってきたんかようわからへんかった。」

総一郎の話を黙って聞く。

「せやから、正直苛ついたしなんやねんって思っててん。やけど、トンが隠れて練習してるん知って、○があの時なんであんな顔したんかわかった気がした。俺はずっと………。」

総一郎の言いたい事がわかる。
彼のノートを読んで彼の何が、どうして変わったのか。わかったから

『うん。』

なんだか、涙が溢れそうになった。泣いてばかりだな、私は。
でも今はダメだ。大きく息を吸い込んで、髪を撫でるふりをして涙を拭った。

『総一郎。私ね。』

話しだした私の言葉を総一郎はゆっくり待って聞いてくれた。

『あんなに怒ったの本当に人生で初めてだったの。頭に血が上るって、こんな感じなんだって、びっくりしちゃったくらい。』

隣を歩く総一郎の表情はわからない。私達はお互いに前を向いていた。
あんなに、なんて言えばいいかわからなかったのにスルスルと自分の口から言葉が出てきた。

『なんで、あんなに怒ったのかなって思ったの。なんであんなに総一郎のこと嫌いって思っちゃったのかなって。』

総一郎の足が止まる。

前を見ていた視線を総一郎の方に向ける。

『私ね、総一郎にあんなこと言ってほしくなかったの。私が、総一郎があんなこと言ってるところ聞きたくなかったの。それが嫌だったの。』

総一郎と視線が絡まる。


『だってね、私、総一郎が大好きなの。だからだよ。』


そう、総一郎が好きだから。

大好きだから。

そっか、私は総一郎が大好きなんだ。

総一郎が目を見開いて、固まっている。
あんな表情初めて見た。

自分で言ってて、凄く自分の気持ちに納得してしまった。思わず笑顔が溢れる。

ゆっくりと、総一郎から視線を外して足元を見る。



ああ、好きだ。


『それを伝えたかっただけだから。』


春の穏やかな風が私達2人を撫でる。とても心地いい。
ゆっくり前を向き直してまた私は歩き出す。

「そう、か。」

『うん。』

足音と、カラカラと小さく自転車の車輪が回る音がする。

『明日、頑張ろうね!』

「ああ、頑張ろうな。」

まるで謀ったかのように、私のアパートの前についた。

総一郎から自転車をうけとる。

『総一郎。』

「ん?」

『ありがとう。』

「ん。」

『また明日ね!』

「ああ、また明日。」

なんだかスッキリした。
そんな私を見て、ふっと総一郎が優しく笑った。














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