太陽の涙





やっぱりあの時、臆病者なりにもっと踏み込むべきだったのかもしれない
でも、踏み込んだ所で私にカズが話してくれないことなんて明白だった。
きっとカズは「大丈夫だって。」と少し霞がかった笑顔でそう答えたはずだ。

それでも、その通りになってもあの時踏み込むべきだったのだ。

それをわかっているのに、まだみんなの後についていくだけの私はなにも変われていないただの卑怯者だ。

「俺のことを見てくれる人が、一人もいなくなっちまった。」

カズが言葉を紡ぐたびに、目頭が熱くなって
その一言を聞いて『そんなこと言わないで。』と心が悲鳴を上げた。

カズのこと何も知らない。でも、カズの笑顔が素敵で
みんながカズの事を大好きなのは知っている。
私もカズが大好きだから。


ハルの隣を歩くカズの後姿を、私はボヤケた目で見つめていた。



カズが抱えてるものを、私みたいなやつが理解できるとは思えないし
あの時声をかけてたら、少しは支えになれたのかなとか。鬱々と考えていたけど
考えすぎてだんだん腹が立ってきた。

次の練習で、カズが帰ってきた。

笑顔が戻って、よかったよかった。だ。
でも私の気持ちはおさまらない。だって私はまだカズに何も伝えてないからだ。
嫌なやつでもいいから、卑怯者にはなりたくなかった。

『カズ。』

「○………。」

すこし気まずそうにカズが目線を逸らす。
今日は絶対に離してやらないと決めた。

私はそんなに優しくて、良い子ではない。


「その、ごめんな?○。心配してただろ?」

『………。』

ムッとした顔でカズの目を見つめる。

『心配した。』

「ごめん。」

『私じゃ、カズの力になれないと思ってカズがいつもと違うのに気づいてたのにほっといた。ごめん。』

「○……。」

『カズの力になれない自分も嫌だし、カズが私を全然頼ってくれなかったのも嫌だった。』

「うん…。」

『これはカズの為じゃなくて、自分の為にカズに伝えたかった。ごめん。』

ポロポロと涙が溢れて、鼻をズルズルとすする。

「○、泣くな。な?」

泣きたくない。カズの前で泣きたくない。

『カズ…力入れて。』

「え?なに…。」

『ちょっと、痛み分けにしよう。』

グッと拳を握って腕を上げる。

「え、○?」

カズが驚いて、少し肩が上がる。

『力入れて!!』

「え!?」

ぐっとカズの身体に力が入る。

バチッ

「ツッ!」

カズの左肩に右ストレートをかます
綺麗に腰が入れれたと思う。

『………、よし、これでチャラだから。』

「……。○意外と暴力的なんだな。」

『ん、じゃあ、カズも、なんかやって。』

「えー?」

『ちょっとだけ痛いのでお願いします。カズに肩パンされたら多分私死ぬから。』

「おいおい、女の子は殴れねぇよ。」

『これでチャラなの!!』

「女子の言うことじゃないだろ。」

カズが笑いながら言った。

「あー、じゃあ。」

『で、デコピン程度でお願いします。』

「急にビビリ出したな。○。」

じゃあ、とカズの手が顔の前に来る。
カズの左手が私の前髪を撫で付ける

「いくぞ?」

『は、はい。』

正直、デコピンなんて初めてされるからどのくらい痛いかわからなくて急に怖くなる。こ、この痛みを受け入れるんだ!
ぐっと目をつぶって両手を胸の前で握って痛みに備える。

「ふ、○めっちゃびびってる。」

『は、はやくっ!イッ!!!んー!!』

パチッ!といい音が響いた。

カズがすかさず髪を抑えていた左手で私のおでこを抑える。
その手の上から私もおでこを押さえるように手を添える。

『いっ、た。』

「くく、すげー音なったな。」

涙目になりながら目を開ける。
ああ、カズが笑ってる。

太陽みたいだ。

溢れそうになる涙をぐっとこらえる。

『いつもありがとう。カズ。』

カズの目が少し見開いて、優しく笑った。

「ありがとう、○。」

おでこを押さえながら、二人で笑った。


「うわ、おでこ赤くなってる。」

『えっ!ほんと?』

まだジンジンと痛いわけだ。
でも、この痛みすら嬉しい。

カズがまた笑ってくれてよかった。











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