14:君の瞳が俺を責める

「ここがαになるためにはこっちのβがα±1でなければならないわけ。わかれ」
「わからない」
「だーかーらー今の式のままじゃイコールにならないだろうが!」
「どうして?」
「・・・逆になんで?」

俺はなぜこんなアホナルシスト野郎に勉強を教えているのだろうか。
うんうん言いながら何やら数字を並べているが俺にはなぜその式が出てきたのかが全くわからない。このまま赤点とってしまえとも思うが隣にちょこんと座り、ハラハラしてるミツルを見るとそうも言えなくなる。

「ほら、お前は自分のことしろ」
「・・・うん」

そして俺は仕方なく変な式を書いてるアホナルシスト野郎に向き直った。
あー・・・厄日だ。



「じゃあ高岡君、副委員長とバスケ部頑張ってね」
「・・・はい」

結局ものすごく不本意ながらの副委員長になってしまった俺。西が推薦して、みんなからの投げやりな推薦により副委員長になった。最低だ。でも気分良く朝を迎えたからか気持ちは軽い。
数学科職員室を後にして教室に戻る。
教室に戻ると西が俺の席に座っていた。

「早く部活行けよ」
「冷たいなあ。待ってあげてたんじゃん」
「ハア?何かあった?」
「部活」
「え、行かないけど」

今年も幽霊部員の予定だからな。強化指定じゃなきゃ幽霊部員でも怒られない我が学園、素晴らしい。

「え・・・もしかして高岡知らないの?」
「何が?」
「バスケ部強化指定だけど・・・」

ま、まずったあああああ!!!

「俺バスケ部辞めるわ」
「多分土屋先生が入部届返してくんないよ」
「なんでだよ」
「バスケ部顧問だって。高岡うまいって言っといたから」

おお、極上スマイル。そんな西に目潰しをした俺に罪はないはずだ。

「ぎゃあああ!痛いっ痛いよ、高岡!」
「明日の俺の筋肉痛よりマシだボケ」

きっと強化指定とわかった瞬間に俺を推薦したに違いない西をその場に放置して寮に向かった。バッシュもウェアも何も持ってきていないのだ。だから仕方なくの一時帰宅。むしろそのまま寮にいたい・・・!
どうせ1年はどっかの嫌みなナルシスト野郎とは違いみんな体力づくりなのに!いい気分が台無しだっつーんだよ。
腹いせにドリンクは西に買ってこさせることにしよう。

バッシュとウェアを手に第一体育館へ向かう。案の定体育館を走り回る1年がいてさらにテンションは下がった。

「遅かったね、高岡くん」

灰色のジャージに身を包んだ担任が俺に近づいてきた。このもやしみたいな如何にも文系って奴がバスケ部顧問だなんて笑えてくる。
ドリブルもできなそう。

「まさか今日から練習とは知らずに登校したので。寮に戻ってバッシュとウェアを取ってきました」

ホント強化指定だと知っていたらバドミントン部に入部したぜ。バドミントンとかルール知らないけど強化指定のバスケ部より数段マシだ。

「運動神経いいんだってね、夏木先生がいってたよ」
「・・・はあ、まあそこそこです」
「じゃ遅刻ペナルティーで腹筋50回と腕立て50回追加ね。後は他の生徒と合流するように」
「・・・はい」

湿布あったかな・・・。



「やっぱ体動かすと気持ちいいね」
「・・・限度がある」

西の顔に似合わず見事に割れた腹筋が目につく。綺麗な顔して身体がマッチョとかミスマッチすぎるだろ。そう言う俺はうっすらしか割れてない。

「高岡鍛えなよ、腹筋割れてないとかありえない」
「割れてるだろ!」
「・・・どこが?ケツ?」

真顔で返すなんてなんて奴だ。運動得意でも所詮はバスケ部幽霊部員だった俺。仕方ないだろ、汗かくの嫌いなんだ。

「ま、ドンマイとしか言えないわ。ご愁傷様」
「今に見てろ、マッチョになってみせる」
「高岡がマッチョとかキモい」
「お前だけには言われたくない」

俺はウェアを鞄に放り込む。
体育館にあるシャワールームは混むだろうから寮で入ろう。ベタベタするが仕方ない。ああ・・・ボディローションがほしい。
バッシュと鞄を手にまだ着替え終わらない西をおいてロッカールームを出た。
新入生にはまだロッカーがないので全て持ち帰らなきゃならないのだ。その荷物の重さと運動後の疲れもあり寮につく頃にはシャワーよりも眠気が襲ってきた。朝方少し起きてしまったからな・・・。
部屋の扉を開ければミツルが体育座りで椅子に座り机に向かっていた。
・・・なんつー格好してんだ。

「あっヨシキおかえり!」
「ただいま」
「部活行ったの?バスケも強化指定なんだってね!」
「知ってたのか」
「うん!昨日イッセイに聞いた!」
「ソレできれば教えてほしかったぜ・・・」

俺は西やナルシスト野郎みたいに部活にかけてるような真面目な人間じゃないからな!先生と先輩受けさえよければ学校生活には問題ないのに。

「頑張ってね!ルール知らないけど見に行くからっ」

それだけで少し頑張ろうと思った俺は相当疲れてるに違いない。

「ね、ヨシキ」
「何?」
「ヨシキの得意科目って何?」
「数学と社会、理科は無理」
「ほんと?」
「おう。数学と社会は成績いいからな」

ちなみに理科だけはいつも赤点ギリギリなのだ。
理由としては3年間理科の教科担任が脂を毛穴から出してるような気がするデブだったからだ。先生の口から発せられる言葉が『ブヒブヒ』と聞こえた日から理科が一切わからなくなった。
高校の理科の教科担任は綺麗な先生であることを願いたい。
加虐心を煽るような感じの。

「で、どうした?」
「あのさ、勉強教えてくれない?」

ああ、今度のテストか。高等部からの入学のミツルにはキツいのかもな。

「いいよ」
「やったー!ありがと、ヨシキ!」

両手をあげて喜んでるミツル。これだけでこんなに笑うなら安いもんだなあ。

「じゃあ委員長とイッセイ呼んでくるねっ」
「・・・は?」
「イッセイが今度のテストヤバくてね、僕と委員長文系で理数系苦手だから困ってたんだ!」

ミツルはそれだけ早口で言うと部屋から飛び出していった。
え、ミツルに教えるんじゃなくてナルシスト野郎に教えるの?
どっと疲れが押し寄せるのを感じながらせめてもの抵抗にシャワールームへ向かった。



そして冒頭にいたるわけだ。
ちなみにシャワールームから帰ってくるとミツルと町田が揃って助けて光線を出していたのでナルシスト野郎のノートを見ると理由がわかった。
つまるところナルシスト野郎はとんでもなくアホだったのだ。
俺が教えると言うと嫌な顔をするのかと思ったが意外にもあっさりとお願いしますと言った。余程切羽詰まっているらしい。

「この問題のやり方は証明問題と同じなわけ。だから順番に式を並べてから解くわけ。わかった?」
「うっすらと」
「うっすらとでもわかってくれてよかったぜ」

今度こそ正しい式を並べていくナルシスト野郎。隣のミツルを見るとすらすら問題を解いていた。
ミツル・・・バカなのに頭いいんだな・・・。
町田は頭いいのにひたすら問題を解いていた。是非俺に理科を教えてもらいたい。
町田ならわかりやすく教えてくれるに違いない。

「ヨシキ君、コレであってる?」
「あってるよ」
「はあ・・・よかった」
「てっきり勉強もサッカーぐらいできる完璧野郎かと思ってたぜ」
「そんなわけないじゃない。ちゃんと人間ですから」

どうやら欠点はあると言うことらしい。
実は泳げないとか言う欠点があればプールに沈めてやるのにな。

「お前泳げるの?」
「・・・返り討ちにするよ?」

どうやら意図が伝わってしまったらしい。
チッ。

「ミツル、町田。今日はここまでにしようぜ。俺眠いわ」
「そうだね。高岡くん疲れてるみたいだしまた明日にしようか」
「俺もその方がいい・・・もう公式見たくないから」
「イッセイ平気?」
「なんとかね」

町田はぐだぐだしてるナルシスト野郎の教科書とノートまできびきびと片付けていく。そしてナルシスト野郎は町田に手を引かれて去っていく。
西が見たら発狂しかねない現場を目撃してしまった。

「じゃあまた明日」
「おやすみ間々原、高岡くん」
「おやすみ」
「おやすみ!気をつけてね!」

手を振りながら町田とナルシスト野郎を見送る。
できれば俺は会いたくない。

「イッセイ大丈夫かな」

少なくともテストは無理だろうな。だってアホすぎるからな!
心配そうな顔で俺を見てるミツル。

「ねぇ、俺の心配は?明日筋肉痛になりそうなぐらいバスケ頑張ったんだけど」

正確にはバスケをやる為の基礎体力づくりを。

「湿布あるよ!」
「おお、ありがたいな!」
「体育で筋肉痛になるからたくさんストックしてるんだー」
「お前は運動しろ」

体力なさ過ぎだろ・・・!
有り難く湿布をもらって全身に張ってもらう。冷たいのは我慢だ。

「はい!ヨシキって意外に体力ないんだね!」
「お前にだけは言われたくない!」

ニヤニヤしながら湿布まみれの俺を見てる。
この野郎・・・!

「・・・なあ、勉強教えたお礼は?」
「・・・湿布?」
「そんなんじゃ嫌」

じりじりとミツルに迫って行くと同じペースで逃げていくミツル。壁まで追い詰めて、西ほどじゃないが極上スマイルをしてやる。

「フェラして」
「?」
「フェ・ラ・チ・オ」
「ふぇらちお?」
「ま、まさか知らねぇの?」

広辞苑にだって載ってるのに?

「英単語?」
「まぁ、そんな感じの・・・」
「テスト出るのかな・・・」
「いや、出ないけど」

もしかしなくてもミツルって処女だけじゃなくて童貞なのか?この時代にまさか童貞?

「ミツルって童貞なの?」
「なっなっ・・・わっ悪かったな!女の子が怖いんだよ!」

は、初耳だ。でも悪い情報じゃない。
ミツルの顎をつかんで深いキスをする。

「んっんぅ・・・」
「はっ、フェラは明日にでもオトモダチに聞いとけ」

キスだけで顔真っ赤にして可愛い奴。
いい情報もらったからこれぐらいで勘弁してやろう。

「あ、ファーストキスはいつなわけ?」
「っ!ヨシキだけには教えてやんないっ!」

やっぱ勘弁してやんない。



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