振り袖#

「大晦日に鍋パーティーってベタベタだよな」
「闇鍋だって!むふふ」
「笑い方キモいぞ、時生」
「りっちゃんひどいっ」
「しかし安倍がOK出したってのに俺びっくりなんだけど」
「無視?!でもセリーからのお誘いだし、セリーの家は安倍ちゃんの家でもあるよ?」

でもメールがセリーからだったからちょっと不安だったり。
安倍が闇鍋?
なんだか未だに信じられない。



駅から徒歩10分ぐらいのマンション。
割といい部屋に住んでる。
俺実家だから一人暮らしとか憧れるんだよなあ。
時生も一人暮らしだし、うらやましい。

「ここっぽい」
「何気に安倍とセリーの家初めてだな」
「ドアが普通だ」

何を想像してたのか理解ができない発言を時生がする。
そらドアは普通なんじゃないか?

ピーンポーン・・・

反応がない。
スカされたのか?

ピーンポーン

『鍵開いてるから入って!』
『待て!入るな!』
『入ってー!!!!!』
ブチッ

イ、インターホンがブチッて・・・。
今入ったら安倍に殺される!

「お邪魔しまーす!」
「アレ?!ちょ、時生さん?!」

空気っていうかなんていうかここは安倍の言うこととセリーの言うことだったらどちらを優先するか少し考え

「み、みるなあああ!!!」

ほらみろ、安倍が振り袖着てたじゃないか。
しかもオプションにセリーのセクハラ付きだぜ、HAHAHAHAHA。



結局ピンクの可愛い小花柄の振り袖を着た安倍は諦めたようにそのまま鍋の準備を始めた。
紐で袖を縛って、邪魔そうな髪飾りだけ外した。

「なんで安倍ちゃんは振り袖着てばぶぅ」
「なんてデリカシーがないことを聞くんだ!」

セリーの趣味に決まってるだろうが・・・!
案の定イライラした顔で時生を見る安倍。
ニヤニヤしてるセリーとは正反対に般若みたいな顔してる・・・!

「昨日実家帰ったんだよ」
「みきちゃんの両親とうちの両親仲良くてね。今年はハワイに旅行」
「本当は正月に帰るつもりが今日の昼にはハワイ飛ぶとかいうからさ」

わなわな震え始めた安倍。
じ、実家でも女装させられてたのか?

「うちのババアと大地のおばさんが着てって言うから着ないわけにはいかなくてっ・・着たら着たでもう空港行くとかほざいてっ・・・外に出されて着替えは大地が鞄の底に詰めてるしっ!」

ぎらつく目でセリーを睨んでる安倍。
セリーがデレデレしてるのをみると安倍はハメられたに違いない。
ご愁傷様。

「それに外で着替えるなんて俺にはできなかった・・・!」

顔面蒼白、両手で頭を抱えてしゃがみ込んでいる。
なんだか・・・かわいそうな安倍。
反対に涎でも垂らしそうなセリーは尻尾があれば千切れんばかりに振っていただろう。
幸せそうな顔。

「まあまあ、みきちゃん!鍋はみきちゃん提案の闇鍋なんだから機嫌直して」
「ああ、わかってる」
「えっ安倍の提案なわけ?!」

意外な事実が発覚した。
まさかの安倍の提案。
どんとテーブルに置かれた鍋はベースはキムチスープらしい。
だが目がしぱしぱする程のスープって何なんだ・・・!

「俺は本気でいくからな」

安倍のその言葉を合図に部屋の照明が落ちた。
セリー、時生、俺、安倍の順番で持ってきた材料をぶち込んでいく。
ちなみにルールは1人3品持ってきて、鍋に順番にぶち込み、手をつけたものは必ず食べると言うもの。
オーソドックスルール(?)と何ら変わらない。
しかし、2週した辺りから臭いがおかしくなってきた。
く、くせえ・・・!

「お、おい・・・なんか、生ゴミの臭いがすんぞ」
「律、一歩間違えれば食材はみんな生ゴミだ」
「そうだぞ!りっちゃん!みきちゃんの言うとおり!・・・・・・俺のサワークリームかな」
「ちょ、セリーそれなんかおかしくねえ?!」

サワークリームって鍋に入れて箸で食べれなくね?
俺、鱈と鶏団子入れたのに・・・!
これは唯一の常識人間の安倍の食材に頼ろう。
本気とか行ってたけど無茶はしないのが安倍だ。
だって隣に座る時生の手からなんかバキバキ音がしてるからもうアテにならないし、セリーは問題外だ・・・!

すべて鍋に入れて煮込むことおよそ20分。
食欲は失せた。

「確かに・・・臭いな・・・」
「やべえだろうよ、コレ」

だがここに来てやめるわけにはいかない!

「みんな用意はいいな?・・・いくぞ、せーのっ!」

安倍のかけ声を合図にいっせいに口に運んだ食材。
この、なんかドロドロしてるのなんだ?

「これ・・・シュ、シュークリームか?」
「シュークリーム俺が入れた!俺はーきのこかな?」
「時生のきのこ俺!俺は鶏団子!みきちゃん何だった?」
「・・・ねばねばする」

くちゃくちゃ音を立ててる安倍。
黙り込んでしまった。

「あ、俺の手作りのねばねば餃子だ!」

犯人は時生らしい。
名前だけ聞けば無害だ。

「何入れたんだ?」
「納豆とオクラと山芋とレンコンとキャラメルとガム混ぜたの!」
「・・・あ゛っ!」
「みっみきちゃあああああん!」

安倍脱落。



おそらくまともなものもあるに違いない。
そう思い込み、冷や汗をかきながら闇鍋に箸を入れる。

「大地、だいちぃ・・・気持ち悪いよぉ・・」
「大丈夫!みきちゃんの敵はとるからっ」

あ・・安倍が甘えてる・・・!
すげぇ珍しいものを見た。
っていうか俺シュークリームで胸焼けしてる気がする。

「じゃあ次っ!せーのっ」

・・・甘酸っぱい?

「いちご?」
「ブロッコリー?」
「段ボール?」
「「段ボール?!」」

時生が味覚障害になった。
この後俺も段ボールみたいな食感のものを食べることになるが、段ボール意外にその食感を表せるものがなかった。

さらに3回した頃、さすがに気持ちが悪くなってきた。
俺はシュークリームをまた引き当ててしまい、とんでもなく気持ちが悪かった。
ちなみに起死回生をかけた安倍はまたねばねば餃子を引き当ててセリーの膝で唸ってる。

「らいち・・・も、やだぁ」
「う゛っ!」

舌っ足らずで名前を呼ばれたことに下半身が限界らしいセリー。
いやあ・・・安倍が可愛いなんてないと思ったがコレはやべえな。
うちの可愛い恋人様はどうかというとうきうきして食べ進めてる。

「次っ!せーのっ」

あ、なんだこれ。
食感的にこれは・・・。

「鱈?」
「え、段ボール?」
「・・・か、辛いいいぃぃぃぃぃ」
「「時生?!」」
「み、水っ」

いくら水を飲んでも辛い辛いと叫ぶ時生。
俺は辛いの入れた記憶はないし、セリーも違う。
となれば辛いの好きなあの男しかいない。

「ハバネロの肉詰め」

安倍・・闇鍋本気だ・・・!
ハバネロなんてそんなどんだけマニアな食材探してんだ!

「りっちゃん、口がひりひりするよぉ」
「水をひたすら飲め。敵はうってやる」

セリーとの一騎打ち!
お互いに膝には恋人寝かせて結構幸せな感じ。

「いくよ、りっちゃん!せーのっ」

しかしここから4回、面白食材にも当たらず何一つ面白くなかった。
俺とセリーなんてこんなもん。

そろそろ鍋の具材も尽きかけた頃に時生と安倍が復活した。

「これ、最後な」
「うん」

鍋の火を止めてみんな箸を持つ。
俺、正直もうシュークリームは嫌だ。
じわじわ気持ちが悪い・・・!

「いくぞ、せーのっ」

あ、なんかぶしゅぶしゅ口でいってる・・・!

「・・・シュークリーム」
「もうやだ・・またねばねばするっ」
「からっ辛いいいぃぃぃぃぃ!!!」
「甘い?あんこ?もち?オヴェェェ」

ああ・・・ガス消してて良かった。
俺にはそこからの記憶がない。



生ゴミでなく、出汁のいい香りがして目が覚めた。
ジャージ姿の人たちがお椀を並べてる。

「あけましておめでとう」
「う゛っ」
「ぎゃんっ」

ジャージ姿の安倍があけましておめでとうと言いながら俺と時生の上で仁王立ちをしていた。
苦しい・・・!

「てかあけましておめでとう?」
「もう朝だよ。ほれ雑煮」
「りっちゃん達よく寝てたから起こさなかった」

年越しそばもカウントダウンもしなかったのか・・・。
なんだか胃のむかつきはとれないし最悪な年明けだ。

「ね、安倍ちゃん・・・安倍ちゃんの家は雑煮にそば入れるの?」
「入れないけど?」
「セリーは?」
「入れないよ」
「じゃあなんでそば入ってるの?」
「「年越しそばならぬ年明けそばみたいな」」

なるほど、まとめてしようみたいなそんなノリか。
安倍は振り袖姿から見慣れた格好になっていて、落ち着いた雰囲気を取り戻していた。

「さ、食え。残すなよ」
「これ食べたらさ、初詣いこ!」
「セリーいいこと言うねっ!どこ行くどこ行く?」
「っていうか安倍とセリーのジャージお揃いなんだな」
「アディダスのコラボモデル、格好いいだろ」

お揃いと言うことに疑問を持たない2人。
神経が麻痺してるに違いない。
ホント仲良いよなあ。

「みきちゃんからのクリスマスプレゼントだったの!」
「え、なんで安倍ちゃんまで買ったの?」
「ほしかったから!」

・・・俺、安倍がよくわからん。

「じゃ、改めまして」
「「「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」」



今年は楽しい1年になりますように。



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