渡辺くんの悪知恵

「またしょうもないコトして」

だって寂しかったんだもの。

「何でお金あるのに無銭飲食なんかしたの。あとで払うくらいなら逃げなきゃイイでしょ」

だって人に迷惑はかけたくないの。

「なんか言いなさいよ」

だって口を開けばあなたへの愛の言葉が止まらないの。



初めて補導されたのは未成年飲酒をして意識がトんだ時。
仲間に見捨てられたらしくて目が覚めたら目の前にお巡りさん。

「目が覚めた?まったく・・・未成年飲酒自体あまり咎めはしないけどね、こう限界をわかった上で飲むというかさあ」

説教するお巡りさんはまだ若くて、なんだか困り顔。
調書にサインをして帰宅していいと言われたが足はふらつくしまだ気分が悪い。
その場にへたり込んでたらお巡りさんがくしゃりと笑った。

「送ってあげるから、しばらく寝てていいよ。もうすぐお巡りさんも帰れるからね」

胸焼けしそうな笑顔。
にやける顔を引き締めるためにキュッと口を結んだらお酒のニオイが酷かった。

助手席に乗せられて自宅へ送ってもらう。
お酒のせいなのかなんなのか。
心臓が破裂しちゃいそうで余計に気分が悪かった。

「ここ、でいい」
「ん?この辺なのか?」

コクリと頷けば道の端に車を寄せてドアを開いてくれる。
見た目以上にできた人。
ヘタレかと思ってたのに。
身体を支えられて車から降りる。

「気をつけてね、もうしないように」

またくしゃりと笑って、僕が見えなくなるまでそこにいた。

また会いたいと思うまでさほど時間はかからなかった。
でもどうしたらいいかわかんなくて、万引きをした。
彼が来るまで何度万引きをしただろう。

「ねぇ、どうしていつも万引きするの?お金あるし、そんなにスティックのりなんかがほしそうにも見えないんだけど」

何度目かの万引きで店長さんにきかれた。
今日万引きしたのはスティックのり、もちろんほしくなんかない。

「会いたい人がいるんです」

それだけで察した店長さんは店長さんがいるときだけ万引きを許可してくれた。
もちろん後々お金はきちんと払ってるけど他の従業員からは迷惑な客みたいに思われてる。
ありがとう、お人好しの店長さん。

しばらくして警察が相手にしなくなった頃に彼に会えた。
名前は高峰さん。
今年26歳のまだまだ若いお巡りさん。
僕は度々迷惑行為をして、警察のお世話になる。



今日は無銭飲食のふり。
お金あるのに逃げて、息切れもしないうちに捕まって警察へ。
いつのまにか僕の取り調べは高峰さんの担当になっていた。
ここにいるときだけが高峰さんに会える至福の時。

幸せな取り調べが終わって外に放り出される。
身にしみる寒さで鼻が痛い。
手をすりあわせながら警察署を後にする。

「渡辺くん」

名前を呼ばれて振り返れば高峰さん。
薄い制服で、真っ白い息をはきながら近寄ってくる。

「うあー・・・ホント寒いなぁ」
「・・・うん」

コートぐらい着てくればいいのに。
高峰さんは震える手でポケットから何かを取り出した。

「これあげる」

広げてみるとそれは地図で、上の方に赤い丸がついてる。

「なにこれ」
「地図。そしてこの赤い丸が俺の家」
「・・・え?」

またくしゃりと笑う高峰さん。

「いらない?」
「・・・い、いる」

顔がにやけないようにキュッと口を結んで耐える。
それでもにやけそうで目もぎゅっと瞑る。

「会いたいときにはこっちにおいで。ちなみに明日は休みなんだけど・・・」

ああ、もう限界。
その場にしゃがみ込んで真っ赤な顔を隠すのが精一杯だった。

「喜んでくれたようで何よりだ」

僕と同じように顔を赤くした高峰さんはまたくしゃりと笑った。



ちなみに僕の明日の予定は店長さんにこの顛末を報告することと、高峰さんの家に行くことになった。




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