19枚のアイシングクッキー

お店のお客さん用に焼いたお菓子。
僕の担当はアイシングクッキー。
まどかちゃんはチョコレート、ママはマドレーヌ。

「タカ、つまみ食いだめってゆったでしょ!」
「うまかった」
「もうっ!足りなくなったらタカのせいだからねっ!」

オカマバーで働く僕、ゲイの彼。
女になる夢はタカに会ってから諦めた。
タカは女の僕には興味ないから。
ゴテゴテな化粧もアクセサリーも嫌いなくせに何も言わないタカに僕は甘えてる。

「じゃあ僕お仕事だからっ!」
「今日は何時?」
「また朝かも。タカ寝てていいからね」
「頑張って、ユカちゃん」
「ユカちゃん言わない約束でしょっ」
「ごめんごめん。いってらっしゃい、リョウタ」

家では源氏名は禁止。
やっぱり本名の方が呼ばれてしっくりくるから。

「いってきます!」

憧れだった長い髪にゆるふわウェーブをかけて。
しゃらしゃら鳴るアクセサリー。
ない胸にブラをつけて、身体にフィットするタイトなドレス。
レースの装飾が施されたハイヒールは流行のシャンパンゴールド。
ホルモン注射もやめたから身体は少し堅いし感度も落ちたけど。
それでもタカは僕を愛してくれる。

付き合い始め、ホルモン注射の影響で射精できない僕を見て切なそうな顔してた。
こればっかりはどうにもならなくて。
ようやく射精できた僕を抱き締めてくれた。
でもやっぱり泣きそうな顔してた。
射精できないほどに女に近づいてたのに、ごめんって。
気にしないでいいのにね。
後悔はしてないから。
女になるより男としてタカの側にいることを選んだのは僕だもの。



店は大盛況。
ママなんてぐでんぐでんになるほど飲んでた。
一番人気のマドカちゃんはボディタッチに気分よくしてる。
少し高い声が可愛い。
ぐでんぐでんのママとふらふらのマドカちゃんはソファーに寝かせて他の子と一緒に店じまい。
また来てねと渡すお菓子はみんなの手作り。
20個作ったのにタカが食べちゃったから19個しかない。
テーマはクリスマス、ツリーの形をしたクッキー。

「あら、1個足りない」
「ごめん!アタシのクッキーが足りなくてっ」
「いいわよお、お客さん!アタシのちゅーでいいわよね?」
「えー、俺はミカちゃんのちゅーよりユカちゃんのクッキーがいいなあ」
「なによぅ!藤井さんはアタシのちゅーじゃいやなのお?」

高い笑い声に包まれた店内。
結局藤井さんはミカちゃんのちゅーで満足して帰った。

お客さんがくれたチョコレートボックスがタカへのお土産。
甘いもの嫌いそうな顔して実は甘いものが大好き。
ほろよい気分でふらふら帰宅する。

「ただいまあ」
「お帰り」
「起きてたのお?」
「うん」

玄関まで迎えに来てくれるタカ。
ハイヒールを脱ぎ捨ててタカに抱きつけば抱っこしてくれる。
まるでお姫様のような僕。

「お土産はチョコレートだよ」
「ありがとう」
「トリュフ、好きでしょ?」
「うん」

リビングのソファーに身体を沈めてその場でチョコレートボックスをひろげる。
タカが好きなミルクトリュフを取り出して口に運んであげる。

「はいっあーん」
「あーん」
「おいしい?」
「リョウタのアイシングクッキーのが好き」
「タカが食べちゃうから今日足りなかったんだからねっ!」

リップ音を立ててキスをする。
ほんのり甘いキス。

「リョウタ、目閉じて」
「ん」

耳をくすぐられてくすぐったい。
タカの舌が僕の中を荒らしてる。

「ふあ、あっんんんったかぁっ」
「可愛いリョウタ」

しばらくして耳から離れたタカ。
続きをねだるようにタカに擦り寄れば優しく引き離される。

「少し早いんだけどメリークリスマス」
「え?」
「よく似合ってる」

その言葉に驚いてドレッサーの前に走る。
今まで誕生日もクリスマスもホワイトデーも記念日も絶対にくれなかったアクセサリー。
でも耳についてるのは赤い宝石が綺麗にひかる僕好みのイヤリング。
こんな可愛いイヤリング、買いに行くのも恥ずかしかったろうに。

「たかあ・・・」
「もし、リョウタが女になりたいならなってもいいよ」
「ううぅ・・」
「今まで決心つかなくて、ホルモン注射までやめさせてごめん。でもようやく決心ついたよ。だって女になってもリョウタはリョウタだから」
「うっうああぁぁぁ・・・たか、たかあぁぁ」
「おいで」

マスカラもアイシャドウもどろどろ、服が乱れるのなんか気にしてらんない。
もういいのに。
僕はタカと一緒にいれればよかったのに。
女の僕でも愛してくれるってその気持ちだけで僕は十分。

「タカ・・・イヤリングありがと。大切にする」
「うん」
「でも女にはならないよ」
「えっでもリョウタは女になりたいんじゃ」
「女になりたかったよ。でもタカに会えたから女にはならなくていいの!」

僕は耳に髪をかけて、パンダ目で微笑む。

「男の僕も愛してくれる?」

答えはベッドの中で。
たくさん愛して、マイダーリン。




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