18歳の冬

「芹沢くんって彼女いるのかな」

・・・しまった、固まってしまった。

「あ、いや・・・いないと思うけど」

だって毎日俺といるし、後はなんか最近めっちゃバイトしてるし。
受験ギリギリのくせに何してんだか。

「安倍くんがいないって言うなら絶対だよねっ!」

俺が大地と恋人っぽいことしてるんだけど、そんなこと眞壁さんに言えないしな。

「私、芹沢くんが好きなの。安倍くん協力してね!」

ここで嫌だと言えない俺はなんて臆病者なんだろう。



親に出掛けてくると言って大地のバイト先に。
カラオケボックスで夜10時までバイト、本当は塾に行けよと言いたいがなんか必死だから言わない。
この後は大地の家でお泊まりで勉強会。
数学が苦手な大地は大学合格ラインギリギリなのだ。
別に無理して俺と同じ大学行かなくてもいいのに。
自動販売機でホットのお茶を購入。
店長に中にはいって待てばいいよと言われてるがやたらに俺に触るからいつも外にいる。
しばらくすると大地が出てきた。
お疲れ気味な顔。
週5日働いて、さらに勉強までしてればそうもなるだろう。

「お疲れさま」
「みきちゃん!どれぐらい待った?寒くなかった?」
「みきちゃん言うな。そんな待ってないから平気。お前こそ顔疲れてるよ、平気?」
「幹也見たから元気!」
「アホか」

抱きついてくる大地を引き剥がして大地の家に向かう。
携帯のバイブレーションが鳴り、携帯を開く。
眞壁さんだった。
大地から少し離れて電話に出る。

「もしもし」
『あ、安倍くん?』
「どうかしたの?」
『今度の日曜に芹沢君暇かな?』

今度の日曜は俺と出掛ける予定だから何もなかったはずだ。

「俺と出掛ける予定だからバイトないはずだよ」
『じゃあ日曜私に譲ってよ』

恋する女って強いなあ。

「いいよ。今大地いるし代わろうか?」
『んー・・・サプライズしたいから、安倍くんの代わりに私が行くことにする!』
「そっか。駅前に11時の約束だけどそれで平気?」
『オケー!じゃあよろしくね!』
「うん、おやすみ」

電話を切ってため息。
久々に遊びに行けるから楽しみにしてたんだけどな。
仕方ないか。

「誰からか聞いてもいい?」
「ダメ」
「うぅー・・・浮気したらダメだかんねっ!」

その言葉に顔が歪みそう。
でもいつまでも大地と一緒にいれる訳じゃないし。
大地は優しいし面白いから結構女の子に人気あるの知ってる。
眞壁さんなんて可愛いし、少し気が強いから大地にはちょうどいいかもしんない。

「俺はしないよ」

聞こえるか聞こえないかの小さな声で反論。
本当に俺って臆病者。

大地の家は行き慣れたものでおじさんとおばさんに挨拶。
気さくで優しいおじさんとおばさん。
大地はおばさんにそっくり。

「幹也ごはんは?」
「食べてきた」
「じゃあ俺もってくる!部屋で待ってて」

バタバタとキッチンで作業してる大地をおいて大地の部屋に。
まあ見事にごちゃごちゃした部屋だ。
片付けができてないわけではなく、ただものが多い。
でかいコルクボードには大地と俺の写真、プリクラ。
デザインセンスはなかなかのものでかっこよく仕上がってる。
ベッドサイドにエロ本とローションを見つけたのでクローゼットに放り込んだ。
・・・なんの勉強するつもりだ!

「幹也コーラでいい?」
「ZEROなら」
「もちろんZERO!」

大地が夕飯のしょうが焼きをがっついてる間に参考書の準備をする。
今日は証明問題のおさらいをしてから確率問題をしようかな。
再び見つけたエロ本はゴミ箱へ。

「ちょ、今さらっと俺のコレクション捨てたよね?!」
「気のせいだ」
「その女優みきちゃんに少し似てたんだよ!」

窓を開けて外に投げ捨てる。
大地は部屋を飛び出して外に拾いに行った。



「そうそう、そしたら宝くじのあたる確率がでるだろ?ンで応用が下のやつ」
「あたりくじの数が減るから・・・??」
「考え方は正しいからやってみなよ」

うんうん唸りながら考えてる大地。
俺はその横で化学の勉強中。
モル濃度計算なんて忘れた頃に出てくるよなあ。
カチカチシャーペン鳴らして、実は集中できてない。

「あのさ、今度の日曜なんだけど」
「うんうんっ映画見たいっていってたよね!上映してるとこ調べてきたよ」
「そっか、ありがと」
「いえいえー、・・・できたっ!」
「はい正解」
「終わったー!みきちゃんっこれで寝れるよっ!」
「俺もコレ解けたら寝る」

いつもなら5分もかからない問題に20分もかかった。
よほど上の空だったらしい。

「おやすみ」

未だにベッドに2人並んで寝る。
少し狭いけど暖かい。
っていうか大地が体温高いから暑いぐらいだ。

「ねーねーっみきちゃんっ」
「シない。触るな」
「えー!ちゃんと準備して・・アレ?ローションがな・・・はっ!もしかしてみきちゃっ」
「さあな!!!」

俺は大地に背を向けて寝る。
擦り寄ってくる大地を完全に無視してこの日は寝た。



日曜日、どうせならどしゃぶりになれって思ったんだけどそうもいかなくて快晴。
少し憂鬱になってパンをかじる。
今頃眞壁さんと大地はデートしてんのかな。
ホントなら映画、俺と見るはずだったんだけど。
パンフレット買ってきてくれるかな。
お昼はロコモコ食べたいって大地言ってたな。

「自分が代わったとは言え・・・なんか悔しいってか悲しいってか・・嫌だ」

じんわり滲む涙を拭いてまたパンをかじった。

親がいないのをいいことにリビングでグダグダしていたらインターフォンが鳴る。
なんか本注文してた気がしなくもない。
印鑑を手にとってドアを開けた。

ガチャ、バタン

開けたと思ったらすぐ閉められた。
ドアを閉めた張本人は俺を抱えて俺の部屋に向かってる。

「ちょ、大地!」

手には印鑑、服は部屋着でさらに階段でスリッパは片足落としてしまってなんて間抜けな格好。
その格好で子供を抱えるように俺を持つ大地。
俺の言葉には答えるつもりはないらしく、黙って階段を上っていた。
部屋につくなりベッドに投げられて、上には大地がいた。

「今日、何で来なかったの?」
「いや、眞壁さん来たろ?」
「俺は幹也と約束したんだけど」
「眞壁さんは?」
「知らない」
「ばか、何やってんだよ!眞壁さんおいてきたのかよ!」

まさかこんな寒い日に置き去りだなんて!
携帯を手に取ると大地に取り上げられて投げ捨てられた。

「何すんだよ!」
「眞壁さんには悪いけど今は俺が先だから」
「っ大地!」

ヤバイ、相当キレてる。

「なんで来なかったわけ?」
「・・・眞壁さんと代わったんだよ」
「俺とデートしたくなかったから?」
「デートとか、そんなんじゃないだろ」
「俺はそのつもりなんだけど」

大地の目が見れない。
絶対冷めた目してるから。
いっそ嫌われるなら全部終わらせたい。

「なあ大地。もう、やめようよ」
「は?何言って」
「だからさ、おかしいじゃん。男と男で一緒に、そのデートとかもさ」
「幹也、」
「お前のこと好きだっていってる女の子いっぱいいるんだぜ?な、だからさ・・・もうやめようよ」

言いたくなかったんだけどその方が大地も幸せ。今から眞壁さんのとこ行ってもいいし、他の女の子と遊んできてもいい。

「幹也さ、それマジで言ってんの?」
「大マジ」

必死に顔隠して歯を食いしばって。
せめて涙は流れないでくれ。

「幹也のっう゛ぞづぎ!泣いてんじゃんかあああ゛あ゛あ゛!!!!!」
「うっうるせー!!お前も、泣いてるだろっばかだいぢー!!!」
「だっで、だっで幹也いないのっいやだあああ!」
「俺も大地いないのいやだー!!」

あーあ、台無し。
2人して涙と鼻水と涎にまみれて、高校生にもなって大泣きして。
ホント俺たちバカだなあ。

「幹也は俺と一生一緒にいてくんなきゃ嫌だかんねっ!」
「大地もだからな!」

まだガキだから一生なんて簡単に使う。
でも俺は一生大地と一緒にいるんだと思う。

「大学生になったら一緒に住もう。同棲すんの」
「うん」
「おじさんとおばさんに幹也を嫁にくれって言ったらいいよって言ってくれたし後は父さんに言われたケジメを・・」

ん?
嫁にくれ?

「待て待て、いつそんな話したんだ?そもそも俺カムアウトもしてな・・・」
「ついこの間!だから俺と幹也のことは父さんも母さんもおじさんもおばさんもみんな知ってるよ?」
「は、はは」

俺のカムアウトなんてもうさらさら意味ないな・・・!

「お金貯まってから言うつもりだったんだけどね。俺頑張るからっ」
「だからあんなにバイトしてるわけ?」
「父さんが初期費用ぐらい面倒見るのが旦那のつとめだって言うから、それが俺のケジメ!」

ビシッと胸を張る大地。
やる気は十分らしい。

「なあ、俺にも手伝わせて?」
「で、でもっ」
「だって大地が大学落ちたら元も子もないし・・・俺も大地と一緒にいたい」

一気に顔が熱くなるのがわかって顔を伏せた。
め、女々しいっ恥ずかしい!
大地をちらりと見る。

「だ、大地?」
「ずっと、何があっても一緒だかんねっ」
「うん!」
「とりあえず、一発!」
「はっや、あんっ!ばかあっああっ」

眞壁さんごめんなさい。
やっぱ大地はあげらんない。




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