この恋だけは勘弁してくれ

先週、翔平くんはチクニーをしていることを指摘され、乳首が大きいと言われたのが相当恥ずかしかったのか、ダボダボのセーターにミニスカートで、あり得ないほどおっぱいを盛って来た。

「てっ……天然物の、ダブルAカップはどうしたの……ふっ……」
「今日はシリコンもりもりHカップアーマーの気分だったんです!」

ばいんばいんとおっぱいを揺らしながら、翔平くんは俺に抗議をしてくる。
おっぱいアーマーはよくできていて、下半身の細さを見れば違和感こそあるが、ちゃんとおっぱいがあるようだった。
まぁ、俺はもう、何をされてもあの大きい乳首とおっさんみたいな喘ぎ声が忘れられないけど……。
AVだと男でも乳首弄るから、きっと必死になって触ってたんだろうな……。
だめ、笑う。
初体験もまだなのに、おおよそ素人童貞の俺が見ても大きい乳首になってんの、オナニー好き感が全面に出ててるし、それなのに喘ぎ声がブサイクは本当に笑う。

「ふ、ふふ……ふ、ふ……」
「まだ笑ってる……!」
「いや、だって、自分でオナニー大好きって主張してる乳首だったのに、喘ぎ声がブサイク……」
「そんなにオナニーしてません!」
「いやいや、絶対嘘! 翔平くんオナ顔だもん! 一日と明けなそうだもん!」
「失礼……!」
「じゃあ、昨日しなかったの?」

翔平くんは俺から目を逸らし、唇を尖らせてもごもごしている。

「……………………しましたけど」
「ほらー!」
「ヨ、ヨネさんが! 僕が勃起すると嫌な顔するから、ヨネさんに会う前の日に勃起しなくなるまでヌいてるんです!」
「いやいやいや、俺に会わなくてもヌきまくってる顔してる。俺のAVレビューブログとか読んでるんだから、絶対そう」
「ぐぬぬぬぬ」

Hカップのおっぱいアーマーを揺らしながら、翔平くんはズカズカと俺の家に入った。
恥ずかしさでいっぱいで顔を真っ赤にしていて、ジト目で俺を見ていた。
未成年にセクハラをかます俺もどうかとは思うが、嘘をつけない性格なのか知らないが、なんでも正直に答える翔平くんも悪い。
そんなんだから悪い大人にセクハラされるんだよ。

「お昼ご飯は奢ってあげるから、機嫌直してよ」
「お寿司!」
「回るやつね」
「回らないやつ!」
「ダメダメ。今週はソープとピンサロとおっパブ行って財布が寂しいから」

月曜日のシンディちゃんにはじまり、木曜日に新規オープンのピンサロに行って、金曜日のみかちゃんまで大いに楽しんだ。
シンディちゃんに二発も抜いてもらい、ピンサロで一発、それからみかちゃんの余韻に浸りながら一発ヌくぐらいには楽しんだ。

「僕のHカップでパイズリしてもいいですよ!」
「昨日、生のおっぱいで一発ヌいたから、間に合ってます」
「なっ、ヨネさんだってオナってるじゃん!」
「そらオナニーする時だってあるよ。こんなにAV持っててオナニーしないわけないでしょ」
「た、確かに」

二十三年連れ添った右手が、俺のことを大変よくわかってるから、勃起したのに萎えさせるなんてことはしないんだ、俺は。

「…………猪の鳴き声みたいだったな」
「…………まさか、それは僕のことを言ってるんですかね?」
「フッ……」
「もー! 忘れてください! 可愛くアンアン言えます! なんならもう一回摘んでください! 次は可愛い声を出してみせます!」
「俺、演技とかわかっちゃうから……」
「週三風俗通い強すぎる……!」

キーキー叫んでる翔平くんのおっぱいがぶるんぶるん揺れていて、やっぱり作り物って感じの揺れ方だった。
どうせ隠すならスポーツブラで隠してればまだ可愛げがあるものを……。

「今日は何する? オンラインゲームする? ナナシさんはログインしてるみたいだけど」
「んー、でも僕、ナナシさんいたら喋りたくなっちゃうと思うんですよね。ナナシさん面白いし」
「アレ? ナナシさんにツボってたの、まおちゃんじゃなくて翔平くんだったの?」
「いえ、姉ちゃんもナナシさん好きですよ! 実は姉ちゃんの推しはナナシさんです!」
「え゛っ……まおちゃん……ナナシさん推しだったの……? 俺は?」
「ヨネさんは僕の推しです」

語尾にハートマークをつけて、頬を染めながらそんなことを言い、ススッと俺の腕に寄り添ってHカップアーマーを押し付けてきた。
そんなことをされても俺には絶望しかない。

「激カワパンチラ女子大生はゲームが命のナナシさんが好きだってのに、なんで俺は猪みたいに喘ぐ偽乳男子高校生しか寄って来ないんだ……!」
「ひどい! 猪みたいに喘ぐとかひどい!」
「ナナシさんクッソ……クッソズルい……。なんだ……なんでなんだ……俺だって女子大生に目の前でパンチラしてほしい……!」
「男子高校生のパンチラはどうですか? 今日は控えめに白に小花柄ですよ」
「…………」
「秒で目を閉じましたね!?」

この妙なセクハラにも慣れたもんだ……。
パンチラの気配を悟るとすぐに目を閉じることができる。

「全く、いつまでもそういうはしたないことをしないの」
「えー」

目を閉じたまま、翔平くんの捲られたミニスカートを押さえた。

「男は大和撫子に夢を見るんだよ」
「でもヨネさんは目の前でパンツ見せてくれたり、オナニーしてくれたりする頭がゆるい子が好きですよね?」
「頭がゆるい子大好きだけど、大和撫子にも夢は見るよ。清楚な女子アナとか最高でしょ」
「女子アナ系のハプニングAVイイですもんね! ヨネさんがレビューしてた、中継しながら潮吹きしてんの、めっちゃ良かったです!」
「あれは神AVだったけど、君は見てはならない年齢だよ」

さすが毎日俺のブログを監視してるだけはある……。
ってか、ハプニング系大好きだな……。

「続編が出たんですって!」
「お? マジで? チェックしてなかったな」
「良さげだったら貸してください!」
「だから、君はまだ見ちゃダメだって。それにそんなの貸したら、まおちゃんに怒られるでしょ」
「姉ちゃんはヨネさんのこと変態だと思ってるから大丈夫ですよ!」
「全然大丈夫じゃない……!」

いや、変態に違いはないんだけど、せめてちょっとエッチなお兄さんでいたいんだ。
俺は人より性に明るいだけなんだ。

「君もね、週一、二の頻度で俺にお世話になってるんだから、もう少しお姉ちゃんの中の、俺の好感度を上げておいてよ」
「僕の中のヨネさんの好感度はめっちゃ上がってますよ!」
「いや、翔平くんの中では上がらなくても別にいいかな」

翔平くんが唇を尖らせて、少しだけ寂しそうな顔をしたのは無視をした。
本当なら、こうやって遊ぶのもやめたほうがいいんだろうな。

「さて、バイオでもする?」
「買ったんですか!」
「やりたいって言ってたでしょ? 俺も何かソフト欲しかったし、ゼルダと一緒に買っちゃった」
「やったー!」

でもこうやって素直に喜ばれると、無下にできないでいる。
俺は弟がいたら、すごく可愛いがっただろうな。



色彩が綺麗になるたびに目が痛くなり、ジャイロ設計が良くなるたびに画面に酔う。
あまり酔わない方だと思っていたんだが、長時間やるのはキツい。
二時間でギブアップだ。

「目が回る……」
「そうね……」

わーわー言いながらやっているうちは良かったが、次第にその声も薄れ、翔平くんが先にギブアップした。
翔平くんなしで少しは進めてみたものの、俺も早々にギブアップした。
床に寝そべり、目を閉じる。
涙が出てくるのは目を凝らしすぎたからなのかも。

「ちょっと……おっぱいをとってきます……」
「いちいち言わなくていいけど……」

胸が苦しかったのか、翔平くんがおっぱいアーマーを外しに脱衣所へ消えた。
あの大きさのおっぱいはゲームをするにも邪魔だったのか、テーブルの上におっぱいを乗せてゲームをしてた。
もはや偽乳であることを隠すつもりすらない。
最初に会った時には女の子のふりをしていたけれど、もはや女の子らしさはかけらも感じられない。

「おっぱい取ったら、少し楽になりました」
「そう……」
「Hカップって大変なんですね」
「そう思うなら天然物のダブルAカップでいたらいいでしょ」
「乳首が小さくなったらそうします」

……いや、一度大きくなった乳首は戻らないんじゃないかな。

「……小さくならないって思ってるでしょ」
「諦めた方がいいと思ってたんだよ」
「同じことです!」
「痛ァ! ちょっ、翔平くんの肩パン、結構痛いんだよ!」
「フンッ!」

大きくしたのは自分のくせに……!
むしろ今、大きいと知って良かったじゃん……!
未来の彼氏に乳首大きいって笑われる前に教えてあげたんだから!

「もう僕の乳首へのおさわりは禁止です!」
「それ、俺がめっちゃ触ったから大きくなったみたいな言い方だけど、俺はつい先週、そもそも大きかった乳首を一回だけ摘んだだけだよ」
「僕の妄想の中でのヨネさんはめっちゃ弄るんです」
「フッ……妄想が甘いな。俺はセックスする時にはクリを責めるのが好きなんだよ」
「確かにAVレビューの時、めっちゃクンニのとこレビューしてる気がする……!」
「やめて。なんか恥ずかしいわ」

クソ……絶対照れて終わると思ったのに、セクハラをし返された気分だ。

「ハッ……! じゃあ潮吹きタグがあるのもそういうこと……!?」
「やめなさいって」
「アナルセックスとアナルがタグ分けされてるのもそういう……」
「いや、それは別物だから」
「ヨネさん、アナルに指突っ込みながらのバック好きですもんね」

もう何もいうまい。
なんで俺は赤裸々に自分の性癖を曝け出してブログを書いたんだ。

「ほら、もう気分も良くなったでしょ? 回るお寿司を食べにいくよ」
「お寿司!」

お寿司と聞いて元気になった翔平くんはすぐさまコートを着込んだ。
俺もダウンジャケットを羽織り、スマホと財布だけポケットに詰める。

「炙りエビマヨ食べたいなー」
「俺は炙り中トロかなー」
「炙り、美味しいですよね!」
「わかる。炙りサーモンも好き」
「炙り制覇しましょ!」
「そんな種類あったっけ?」

翔平くんが俺の腕に擦り寄ってきたが、おっぱいは当たらなかった。

***

月末恒例の地獄のデスマーチがようやく終わった。
ろくに家にも帰れず、週末の翔平くんとの約束も取りやめにして、死ぬほど仕事に励んだ。
いや、別に励みたくはなかったが。

「ダメだ……。足を止めたら寝てしまう……」

家までの帰り道、残り五分の道のりすらキツい。
明日からの二連休に備えて何かしら飯を買い込もうと思っていたのに、それすらもする余裕がない。
定時で帰れるのなんて久々なのに、帰宅ラッシュのせいであまり嬉しくもなかった。
……始発の方が空いてるとか考えたあたり、俺はもうヤバいに違いない。

「あ! ヨネさーん!」
「……え゛えぇ」

俺に手を振るのは買い物袋を下げた翔平くんだった。
今日も律儀にミニスカート。

「どうしたの?」
「ヨネさんの家に行く途中でした!」
「なんで?」
「え! ヨネさんがお泊まりしていいって言ったじゃないですか!」
「…………そうだっけ?」

翔平くんがスマホを取り出し、俺とのラインを見せてきた。
地獄のデスマーチのせいで約束を取りやめにした時、確かに翔平くんが『来週お泊まりがしたい』と言っていて、それに俺が『うん』とだけ返していた。
……この時の俺は、何も考えたくなかったんだな。

「翔平くん、いいとは言ってないよ」
「え゛ー!」
「っていうか、泊まってもなんの相手もできないよ。もう俺は今にでも寝そうだからね……」
「顔が死んでてヤバいのはわかります」

ふらふらと歩き始めた俺に翔平くんはついてくる。
とりあえず、勘違いとは言え、せっかく来てくれたから、飲み物ぐらいは出してあげよう。
そしたら、まだ電車もあるし、サクっと帰そう。
今日は送ってあげられないけど、無事に帰ってくれ。
家につき、ドアを開けると三日ぶりの我が家にちょっとだけテンションが上がった。
漫喫のシャワーだけで凌いでたから、風呂にも入りたいな。

「ヨネさん、お風呂入ります? 俺、お湯沸かしましょうか?」
「いや……湯船で寝る気がするから、いいや。気を遣ってくれてありがとう」
「ってか、本当に大丈夫なんです?」
「まぁ、毎月のことだからね。はい、これ飲んだら帰りなさいよ」

翔平くんにコーラを出し、そのまま風呂へ向かった。
明日こそは湯船に浸かろう。



風呂から上がると、翔平くんがコンビニのチルド弁当をテーブルに用意していた。

「ご飯です! ヨネさん、この間中華丼食べたいって言ってたから、買ってきました!」
「えぇ……ありがとう……。お金払うよ……」
「そんなのは後でいいんで、早く食べましょう。目が覚めてるうちに!」
「うん」

インスタントの豚汁まで出てきて、翔平くんは天才だと思った。
ここ数日、ウィダーインゼリーとカロリーメイトとカップラーメンとコーヒーで生きてた胃が喜んでいる。

「中華丼もなかなかですね!」
「本当ね。最近のコンビニは割となんでも美味しいからね」
「ヨネさんの家でしか食べたことないけど、確かに美味しいと思います!」

ガツガツと中華丼と豚汁を食べ、意外と腹が減っていたんだと思った。
思ったよりもすぐなくなってしまった。

「ごちそうさま。ありがとうね」
「いえいえ」

俺の家にあった烏龍茶で喉を潤し、一息つくとまた眠気が襲ってきた。
これは今のうちに歯を磨かないと横になった瞬間に寝るやつだ。

「歯を磨いてくるわ」
「ふぁい」

まだ中華丼を食べている翔平くんに、声をかけて席を立つ。
歯を磨きながら鏡に写った自分を見たが、思ったよりもやつれて見えるし、顔が死んでいた。
今月のデスマーチはいつもよりキツかったけど、こんな顔になっていたとは。
来年度から上場の準備を始めるとか言ってたけど、これより忙しくなったら俺の体力は持たない気がする。

「もう少しホワイトな会社に就職した方がよかったな」

まぁ、来年の新卒がいつもより多めっていうし、中途も来るっていうから、よくなる未来に賭けよう。
嘆いたところで俺もまだ新卒一年目なのだから、大した戦力になってないだろうし。
部屋に戻ると翔平くんが片付けまでしっかり終わらせていて、ついでに俺の部屋の中も綺麗にしていてくれて、もはや神様に見えてきた。

「少しだけですけど、空気の入れ替えもしたんで!」
「……翔平くんはどこにお嫁に行ってもやっていけるよ」
「貰ってくれます?」
「今なら貰ってもいいかなって思うよ」
「やったー!」

翔平くんがその辺に放り投げていた俺の鞄をコート掛けまで持って行ってくれて、カバンの中に詰め込んでいたシャツも脱衣所へ持っていってくれる。
甲斐甲斐しいったらないね。
俺はベッドに潜り込み、久々に感じる柔らかさに身を預ける。
ずっと椅子か床で寝てたから、この柔らかさは最高だ。
そして広々と使えたら文句はないのに、俺の横に翔平くんがいそいそと潜り込んできた。

「いや、帰りなさいって言ったじゃん」
「さっきまで嫁にもらってもいいって言ってたのに……!」
「気の迷いだった」
「テンション下がるの早い!」

今日はムダ毛処理に気合を入れたとか、勝負下着なんだとか、新しいパジャマにしたとか、すごいどうでもいいことを報告してくる。
その口から歯磨き粉の匂いもするから、さっき脱衣所に行った時に、きちんと歯も磨いたのだろう。
まぁ、その、キスとセックスに備えた準備は無駄になるけども。

「まぁ、もう、いいや。眠気が限界突破だわ」
「暖房入れてましたけど、換気したから寒いかもしれないんで、僕で温まってください。人肌っていいですよ」
「いや、その天然物のダブルAカップ押し付けられると、寝たくても寝れないから」
「おっぱい枕しますか?」
「こんな硬いおっぱい枕、アスファルト以下」
「路上で寝た方がマシってことですか!?」
「うん」

ふと、腕に当たる感触がいつもと違う気がして、翔平くんの肋骨をなぞり、背中に腕を回した。

「ヨ、ヨネさん!?」
「なるほど。今日はスポーツブラにしたのね」
「い゛っ!」

バチンと背中のゴムを弾いてやった。
ナイトブラでも付けてきたのかと思ってたけど、それにしては生地が薄かったもんな。

「フフッ……」
「な、なんですか」
「なんでも」

ようやく、俺の趣味のアタリを引いたじゃん。
隣で翔平くんが何か言っていたけど、俺の意識はスコンと落ちた。



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