全3回の脳内会議

Present for なかむらみおsan.



第1回、どうしたらこの緊張しまくりな後輩を怯えさせずにデートに誘うか脳内会議。
先輩たちが引退し、1年と2年しかいなくなった部活。
運動部っていうのは先輩後輩の上下関係が激しく、それは俺の所属するバレー部も同じである。
別に威張り散らしているわけではないし、先輩後輩の関係も良好だ。
・・・おそらく俺を除いて。
本当はもっと後輩と仲良くしたい。
でも俺のこの顔が許してくれない。
お世辞にも愛想がいいとも言えず、声も低くて、相手を威圧するには十分な高身長。
17歳には見えない顔つきとシャイな性格が手伝って、さらにその威圧感を増長させている。
真面目な性格を信頼されて新部長に任命されたものの、後輩とうまくやれてるかと言われたらそうでもない。
だから恋にうつつを抜かしている場合でもないのはものすごくわかっている。
それでも俺は目の前で子猫のように震えながら俺と目を合わさないように必死の山門翔太郎大好きなんです!
もう初めて見たときから天使だと思って見つめ過ぎたら睨まれてると勘違いされてどでかい溝ができた。
その溝は埋まることなく、ずるずると今にきていて。
この天から降ってきたような二人っきりというご褒美タイムをどうしたらいいのかわからない。
暑くもないのに頭からタオルをかぶって山門を見ないように必死だ。
くそっ、どうしたらっ、どうしたら山門とデートができるんだ・・・!

「チッ」
「っ!」

あ゛っあ゛ー!!!
なんで俺舌打ちとかしてんだちくしょー!!!
山門が怯えてるじゃないかー!!!!!

「みっ、みんな、遅いな」
「そ、そう、ですね?」

沈黙。
お、俺は世間話もできないのか・・・。

「委員会とかですかね?冬休み近いですし、招集かかってましたよね」
「そうだったな」
「は、はい・・・」

だっ第2回ー!!!
第2回どうしたらこの緊張しまくりな後輩を怯えさせずにデートに誘うか脳内会議!
っていうか緊張しまくりなの俺!
くそ。
誰か助けてください。
さっきから視界に入る山門の太ももで勃起しそうなぐらいには山門が好きなんです。
手を繋ぐとかそーゆーやましい気持ち抜きでとりあえず遊びに行きたいだけなんです。
クリスマス近いしデートしたいんです。

「はっ!そういえば山門は彼氏がいるのか?!」
「いっいませんけど、っていうか、そこは彼女じゃ」
「そ、そうか」
「いや、彼女もいませんけど・・・」

なるほど。
今は彼氏も彼女もいないのか。
山門の顔が真っ青だがとりあえず情報は得たな。
しかしいきなりクリスマスに予定あるのかとか聞くのは失礼か。
クリスマスパーティーするの?ぐらいにした方がいいのか。
いや待て、クリスマスって言うとあからさまではないか。
そこはクリスマスも遊びたいけどとりあえずデートをして、回数重ねるのが一番いいのかな。

「あ、あの」
「なんだ?」
「芦田先輩は、彼女とかいるんですか?」
「いるわけないだろう」
「そ、そうなんですね・・・」

すーっと明後日の方を向かれた。
また!
また俺は!
どうしてこう、もっと優しく話しをすることができないんだ!
ちくしょう・・・俺の馬鹿。
そしたまた会話が途切れたではないか。
沈黙が身体に突き刺さるぞ。

「ちょっと、トイレ行ってきます」
「お、おう」

パタリとドアが閉じる。

「・・・もう帰ってこないんじゃないかな」

自分で言っておいてものすごく凹んだ。
もうこんな美味しい状況絶対訪れない気がする。
くそ、俺の意気地無しめ。
もっと少女漫画を読んでナチュラルなデートの誘い方を勉強しておくべきだった。
こんなはずじゃなかったんだ。
もっとイケてる感じで『ヘイ、ボーイ!俺とクリスマスデートをしないかい?』ってなる予定だったんだ。
そうだ、とりあえず練習しておこう。
練習しておいて損はないはずだ。

「ヘ、ヘイ、ボーイ・・・俺とくっくりしゅまっくりしゅましゅっ・・・」

くそっ噛みすぎだ・・・!
もっとこうナチュラルに、ネイティブアメリカンな感じで!

「へい、いやダメだな。Hei、いやなんか違うな。Hey!そうだ!この感じだ!」
「戻りました」
「Hey! Boy!」
「・・・え?」
「・・・すまん。忘れてくれ」

死にたい。
すごく死にたい。
今すぐ穴に潜って目が覚めたら山門が俺のことを忘れていてほしい。

「え、英語の勉強ですか?」
「そんな感じだ」
「声に出して言うとか、真面目なんですね」
「だ、誰にも言うなよ」
「はい!」

笑顔が眩しすぎる。
そしてその眩しさで俺を灰にしてくれ。
頭にタオルをかぶり直し、そっと両手で顔を塞ぐ。
気を取り直して・・・第3回、どうしたらこの緊張しまくりな後輩を怯えさせずにデートに誘うか脳内会議。
いやこれもうむしろ緊張しまくりな俺がどう後輩を怯えさせずにデートに誘うか脳内会議だな。
こんなにも恥をさらして俺はどうやってこの後山門をデートに誘えばいいんだ。
そもそもデートってなんだ。
付き合ってないからデートとは言わないのか?
でも遊びに行くよりはデートって気分だからデートに誘うが正しいのか?
だめだ、デートデート言い過ぎてゲシュタルト崩壊起こしてきた。
だってデートしたいんだもん。
こんな強面で無口の俺でも人並みに恋をしてるんだもん。

「あ、あの」
「うん?」
「芦田先輩はクリスマスって何か予定があるんですか?」
「そうだな。今のところ部活かな」

本当は予定を入れたかったけど無理って方向で今進んでるからな。
くそ、部活時間延長届け出して夜12時まで部活にしてクリスマス終わらせてやろうかな。
クリスマスは24時間部活だ。
部長権限を最大限に使ってやる。
彼女とデートなんてもんは部活休む理由として認めない。

「あのっあのっ」
「なんだ?まさかお前まで休みをくれと言うのか?」
「いや、休みはいらなくてっ、あっでも、できたら欲しいみたいな」
「理由次第だ。法事以外は認めん」

もっと言うなら女が絡んだ瞬間に認めない。
俺が立ち直れないからダメだ。
お母さんとおばあちゃんしかダメだ。
いとこのお姉ちゃんはなんかエロいからダメだ。

「芦田先輩!まだ予定がないならっ俺とデートしてください!」

耳を劈くほどの大きな声が頭に響く。
あぁ、とうとう俺は幻聴までこんなリアルに聞こえるようになったのか。

「やっぱ嫌ですよね!そうですよね!わかってます!」
「うん?」
「忘れてください!頭冷やしてきます!」
「お、おい!」

ものすごいスピードで山門は立ち上がり、その勢いのままドアにぶつかってひっくり返った。

「だっ大丈夫か?!」
「ど、どうして・・・!」
「怪我とかしてないか?!」
「あっ芦田先輩ー」

べそりと鼻をすすり、山門は途端に不細工な顔になる。
そんな顔すら可愛いと思ってしまって、真っ赤な顔を隠すために顔にタオルを巻いた。

「と、とりあえず落ち着け、な?」
「俺より、先輩が落ち着いたほうがいいと思います・・・」
「いや、これは、落ち着いた結果みたいな」
「俺を見るのも気持ち悪いってことですか?!」
「そんなことは断じてない!顧問に誓って!」
「正岡先生じゃ信用低いー!!!」
「なっな、正岡先生に失礼だろう!」
「ぎゃー!ごめんなさいー!!!」

びゃーっと泣き始めた山門にオロオロするも前も見えないし人の気配もしない。
だ、誰か助けてくれ!!
怒るつもりじゃないのに声が怖いんだよ、俺!
俺だって神に誓ってとかっこよくいう予定だったんだー!

「ほ、ほら、泣き止めって、な?」
「失恋した時ぐらい泣かせてください」
「うちの山門を振るだなんて、どこのどいつだ?!」

この一瞬で何があったんだ!
山門を振るだなんて、そんな、罰当たりめ!

「芦田先輩ですよ!」
「えっ俺?」
「デートしてくれなかったじゃないですか!」
「・・・あれ?誘ってたか?」
「誘いました!」

腹部にどすんっと何かが突っ込んできて、俺は椅子に後頭部をぶつけながら床に転がる。
な、なんだ。
どっからか犬でも入り込んだか?
とりあえず後頭部から出血しているのではないかとものすごく不安だ。

「一回でいいから、俺とデートしてください」
「お、おぉ?」
「嫌とか言わないでください」
「・・・これは、なんのドッキリだ?」
「ドッキリじゃないです!」

とりあえずタオルで塞がる自分の顔面をぶん殴ってみた。
あまり痛くないから夢かもしれないともう一発殴ってみた。
やっぱりあまり痛くない気がして、両手で顔面を殴ってみた。
さすがに痛かった。
そして俺は腹に乗っているのが犬ではなく、山門だと気付く。
その瞬間に股間が上を向きそうだったのでとりあえず山門を引き剥がし、なんとなく前に座らせる。
そして俺は途端に緊張し始め、そわそわとその場に正座をする。
山門の方を向きなおり、タオル越しに思いっきり息を吸う。

「よ、よろしくお願いします」
「どこに向かって話してるんですか」

俺の左サイドから山門の声がした。
その方へ向き直り、改めて頭を下げる。

「よろしくおねがいしましゅ」

噛んだ、死にたい。
こんな時まで俺はなんで噛むんだ。
そもそもタオルぐらい外すべきだっただろうか。

「ほ、本当に、本当にデートしてくれるんですか?」
「お、おう」
「俺っ俺、ナイトシアターとか行きたいんですけどっいいんですか?」
「逆にいいのか?!」

クリスマスのナイトシアターなんて恋人の巣窟に!
あわよくば手が握れるかもしれないドッキリイベント満載のナイトシアターに!

「は、はは・・・本当に、オッケーしてもらえた・・・」
「う、うん?」
「皆さーん!!!やりましたー!!!オッケーもらいましたー!!!」
「「「ハーイ!おめでとー!!!」」」

パンパン音を鳴らして入ってきた他の部員たち。
タオルを外せば目の前に花吹雪とクラッカーが舞う。

「よかったな、山門!」
「はい!」
「だから言ったろ?!いけるって!」
「はい!」
「芦田もよかったなー!!!」

バシンバシンと背中を叩くのは副部長の松尾で、1年も2年も揃っての大騒ぎ。
この状況を飲み込めていないのは俺だけだ。

「松尾、なんだこれ」
「あれ?飲み込めてない?」
「全く」
「いやな、お前が山門を好きなのはなんとなくわかっててさ、そしたら1年が山門が芦田を好きって言ってるって聞いてさ」
「お、おぉ?」
「そらもー応援するしかねーよってな!」

バシンバシンとさらに俺の背中を叩き、めでたいと松尾はクラッカーを鳴らす。
耳元でうるさい。

「そういえば松尾先輩ドア開けないように邪魔してたでしょ!」
「俺じゃないよ!丹羽だよ!」
「えっちょっと待て。お前らずっといたのか?」
「おう!」

松尾はニヤリと笑って耳元で囁く。

「告白の練習もバッチリ聞いてたぜ」
「殺せ!俺を殺せ!」
「なかなかいい練習だったぞ!俺らも腹筋を鍛えられたしな!!!」

ゲラゲラ笑う松尾の横で床にめり込む。
本当にハナっから外にいたのかよ・・・!
なんてことだ・・・!
誰か外にいるとわかっていたなら心の中で練習したのに・・・!

「っていうか山門は俺が好きなのか?!」
「はい!大好きです!ラブです!」
「ヒャハー!芦田なんかよりお前全然男前だなー!よかったな、芦田ァ!」
「おっお゛お゛ぉ・・・!」

顔をピンク色に染めて告白する山門と周りからの祝福ムードに耐えられずに顔面にタオルを巻く。
俺はそのまま部室を飛び出した。

「あっ先輩!ドア!」
「おぶっ」
「「「あっ芦田アアァァァ!!!」」」

俺は薄れゆく意識の中で、クリスマスの日は部活を休みにしようと心に誓った。
あと服を買いに行ってワックスも新調して、それからクリスマスプレゼントも用意しなければいけないな。

「ふふ・・・楽しみだな・・・」
「し、しっかりしろー!」

あと欲を言うなら松尾の膝枕じゃなくて山門の膝枕で意識を失いたかった。




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