インスタントみそラーメン

ねぇ、本気で言ってるの?
Present for 地下月san.



腹が減っては戦は出来ぬ、とは言うが腹が減ったら何もできない気がする。

「げっ、何もない」

母親と父親、それから姉夫婦にうるせー甥っ子が揃っていない日。
家でダラダラするに限ると思ったわけだ。
珍しくナンパにも行かずに家にいたのに、まさかの昼飯どころか米すらない。
かといってこの休日スウェットスタイルをオシャレ男子に変えるだけの気力もない。
だが腹は減るもので、キッチン漁る間も鳴りっぱなしだ。

「うーん・・・インスタントラーメンしかない・・・」

インスタントラーメン、しかも袋の方。
これ作るの結構ダルいしなぁ。
でも冷蔵庫の野菜とか肉に関しては調理法が全くわからないから生で食べる以外の選択肢が思いつかない。
仕方がない・・・インスタントラーメン作るか・・・。
ものすごくめんどくせーけど。
ごそごそと下の棚からよく母親が使っている鍋を取り出し、コップ2杯の水を入れて鍋を火にかける。

「あれ?」

カチカチ音は鳴るが火は付かない。
何度やっても火がつかない。

「マジかよ!!!」

えっちょっこれどうなってんの?!
原田クッキング回と思わせてクッキングする前に終わる感じなの?!
前途多難にもほどがあるだろ!
なんで火がつかないんだよ!
カチカチカチカチカチカチ何度も回すが全く火がつかない。

「く、くそっ・・・」

インスタントラーメンを諦め、鍋の水をこぼして元に戻す。
ふ、振り出しに戻った・・・。
とりあえずもう一度冷蔵庫を開ける。
プリンを見つけた。
食べながら何か缶詰とかでと探そうと思い、プリンを手に取る。
スプーンまで出したところでパッケージに『姉』と書かれていることに気付いた。
ソッコーで戻した。

「もう着替えてコンビニ行こうかな・・・」

とりあえず着替えて、とりあえず飯をゲットしたら戻って、またスウェットに着替えたらいい。
こんなに腹が空いてたら昼寝もできねぇ。
部屋に戻って投げ散らかしたカバンから財布だけ取り出す。
コンビニ行って帰るだけだし、カバンは持って行きたくない。
結構腹減ってるから散財するかな。
いくら持ってただろ。

「・・・え?ちょっ、嘘・・・204円?」

待て待て待て。
この間金おろしたばっかだよ。

「えっなんで?何も使ってないぜ?」

いや、本当になんでだよ!!!
なんだこの財布穴でも空いてんの?!
あまりのムカつきに財布を投げる。
バコン、と小さめの加湿器にぶつかった。

「あ・・・加湿器買ったんだった」

お、俺エエエエェェ!!!
昔の俺っちくしょおおお!!!
何最近乾燥気になるとか思って加湿器買ったんだよ!!!
ニベアで良かっただろ!!
1人で頭を抱えていたら今度はスマホが鳴り始める。
シカトを決め込んだのに切れてもかかってくる!

「誰だちくしょう!」

充電繋ぎっぱなしのスマホの画面にマイハニーの名前。

「はい!」
『なんだお前テンション高いな』
「うん。いろいろあって」

とりあえずどっかりとベッドに座る。
腹の虫より山下だ。

『今さ、ミチの家にいるんだけど』
「なんでだよ」
『遊びに来たからだよ』
「向かいの家に来いよ!!!俺ン家に来いよ!!!」
『別にいいだろ』

よかねぇよ・・・!

「もーなんだよーなんなんだよー」
『みどりちゃんが来たから帰れってミチが言うからお前ン家に行こうかなって』
「そこは寄り道せずに来てほしかったわ」
『行っていいなら今から行くんだけど』
「おう。是非来い」

山下来るし、めんどくせーけど着替えるか。
飯、どうすっかなー。

「あ、みどりちゃんいるんだっけ?」
『ん?おう。なんか用あんの?』
「連れてきて」
『ハァ?』
「俺今めっちゃみどりちゃん求めてるから引きずってでも連れてきて」
『・・・ミチが睨んでる』
「知らん。頼んだ」
『ちょっお前、待』

ぶつりと有無を言わさず電話を切る。
これで俺は昼飯が食べれる・・・!

***

ものの数分で山下がみどりちゃんとオマケのクソ野郎を引き連れて来た。

「ガスの元栓切ってるから火がつかなかったんだよ」
「まじか」
「っていうか、インスタントラーメンでいいの?結構いろいろ冷蔵庫にあるからなんでも作るよ?」
「いーのいーの。めっちゃ腹減ったし、すぐ食べたいから」

みどりちゃんがインスタントラーメンを茹でる。
さすがにそのままは気が引けたらしく、もやしにキャベツ、さらにたまごとウインナーを入れてくれた。

「つーか、このためだけにみどり呼んだわけ?」
「そう」
「テメーふざけんな。緑をなんだと思ってんだ」
「正確には金もないし、火もつかないキッチンで空腹で死にそうだったから、せめて火が着けばと思って」
「なぁ、アヤ。殺していいよな?いいよな?」
「美智、ダメだよ!作ったらすぐ戻るから!」
「今すぐ戻ろうよ。こいつが腹減って死ぬとかマジでどうでもいい」

みどりちゃんがどんぶりに豪華になったインスタントラーメンを盛ってくれた。
片付けはするからと怒れる幼馴染とともに、幼馴染の家に帰す。

「ありがとね。めっちゃ助かった」
「ううん!これぐらいいいんだよ!この間ドーナツ奢ってもらったし!」
「今度はインスタントじゃないラーメンでも奢るわー」
「楽しみにしてる!」
「緑!帰るぞ!」
「わかったよー!待ってー!」

目の前の家にみどりちゃんが吸い込まれ、俺はラーメンの待つリビングへ戻る。

「お前・・・本当に昼飯のためにみどりちゃん呼んだんだな・・・」
「うん?まぁそうなるかな?」
「買いに行けばよかっただろ」
「金がなかったの。いただきまーす」

熱いラーメンをすすり、口が満足していくのがわかる。
あーガチで腹減り過ぎてたわ。

「うまい」
「・・・インスタントだろ」
「いや、このもやしがいい仕事してるよ?みそラーメンにはもやしだよね」
「俺は塩ラーメン派だ」
「袋麺食ったことあんのか」
「あるよ、フツーに」

山下がカップ麺食べてるのは見たことあるが、こいつ袋麺も食べたことあったのか。

「前に鈴木が作ってくれた」
「鈴木、インスタントラーメン作れたのか」
「袋麺とレトルトはできるぞ。かろうじて」
「かろうじてかよ。鈴木こそ佐藤に何か作ってあげたいとか乙女思考発揮しそうなもんだけどな」
「ないない。俺の手料理は俺も食ったことがないレベルとか真顔で言うからな」

佐藤の将来の夢はヒモだった気がするが、もうこれ佐藤が鈴木育てる未来になるな。
まぁそんな人生を悪くないと思って楽しめばいい。
俺には関係ない。

「食べる?」
「いらん。ミチの家で飯食った」
「何食ったの?」
「みどりちゃん作のパスタ」
「なにそれ、うまそう」
「昼飯まだって言ったらみどりちゃんが作ってくれた。なんかトマトソースのやつ」
「ふーん、俺も食いたかったな」

みどりちゃん料理上手いからな。
たまに飯ご馳走になるけど、不味かったことのが少ないしな。
つーか不味かったのはだいたいあの馬鹿力が手伝ってたりするからな。
山下との会話もそこそこにインスタントラーメンをすする。
この自分の食うスピードに、本当に腹減ってたんだな、と思わずにはいられない。
麺をぺろりと胃におさめ、どんぶりの底に沈む野菜や麺も残らず食べる。

「あ゛ー・・・腹が満たされた」
「もう食い終わったのかよ」
「うん。腹減ってたし」
「ふーん」
「本当にうまかったわ。ごちそーさまー」

インスタントラーメンの汁も全て飲み干し、そのままシンクへ。
片付けをしておかないと鬼ババァが降臨するのだ。
ものすごい形相で降臨し、逆らおうもんなら身ぐるみ剥がされてこの寒空の下、外に追いやられる。
姉ほどではないが母親も怖い。

「・・・・・ふん」
「ん?」
「・・・俺だってインスタントラーメンぐらい作れる」
「は?」

シンクへザバザバ流れる水音がうるさい。
でも俺の耳は都合のいいようにできている耳だ。
ぼそりと、しかも口元を押さえながらボヤいた山下の声が頭の中にちゃんと入ってきた。
鍋についた泡を流し切り、キュッと蛇口を絞る。
そしておざなりに手を拭き、山下の座る椅子の横へ座る。

「近い近い近い、なんだ気持ち悪いな」
「や、山下」
「なんだよ。近いって」
「今度は山下が、俺にインスタントラーメン作ってくれんの?」
「ハァ?」

今にでも舌打ちをかましそうな顔をされた。
めげない。

「だって、インスタントラーメンぐらい作れるんでしょ?」
「おまっ、聞こえてっ」
「本当に?!本当に言ったんだ?!」
「いっ、言ってない!帰る!」
「帰すものか!!!」
「お゛ぅ?!」

山下の腹へ渾身のタックルをきめ、これでもかというほど締め付ける。
ギリギリと山下が絞られるのではないかというほど締め付ける。

「オイ!!」
「綾平がっ、綾平が初めて普通に嫉妬じでぐれだああ゛あ゛・・・!」
「し、してなっ」
「みどりちゃんより綾平の作るインスタントラーメンのがいいに決まってんじゃんかあ゛あ゛ー!!」
「うるさい!離せ!脳天かち割るぞ!」

そうは言われても、柄にもなく普通に号泣しそうで顔が上げられないのだ。
勝手に綾平は素直じゃないからとか本当は俺のこと大好きなんだとか、テキトーに思い込んでたのとはわけが違うのだ。

「綾平好き」
「っこの、いい加減離せ!馬鹿由希也!!!」
「い゛っだあ゛あ゛あ゛!」

ほ、本当に脳天かち割りに来た・・・。
でもさっきまで抑えてた涙が飛び出てしまったので、しばらくは何をされても顔を上げられないわ。




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