手のひらで踊る
ねぇ、本気で言ってるの?
Present for 奏雨san.
「寒い」
「冬だからな」
「ざむっざむい゛ぃ」
寒いのが苦手なのか嫌いなのか佐藤が呻く。
久々に外に出掛けたってのになんだこいつうるさい。
「寒くないの?」
「いや、寒いけどね」
「でもお前あったかそうだな」
「いや、そんなことはないけどね」
「コートよこせ」
「嫌だけどね」
佐藤は袖を伸ばし、顔をマフラーに埋めて、さらに腕組みをして完全なる防寒態勢。
俺も寒いには寒いがべつにそこまでじゃない。
俺より脂肪があるくせにどうして俺より寒いんだ。
意味がわからない。
「鈴木くん」
「何」
「お家に帰りませんか」
「待ち合わせに30分遅刻した挙句、歩き始めて10分で帰るってどういうことなの」
「だって寒いんだもん!」
「可愛くねぇかんな!!!」
なんだこのわがまま男。
脂肪燃やして発熱どころか焦げろ。
「不機嫌にならないで」「うっせー」
「松屋奢ってあげるよ」
「お前俺が好きなもん松屋だと思ってんだろ!」
「むしろお前の好きなもの知らない」
ほ、本当に俺に興味がない・・・!
そら誕生日も迷走した挙句全部買うわけだよ・・・!
なんだこいつマジで頭悪い・・・!
「じゃあ何が好きか言えよー覚えるからさー」
「・・・何が好きかな」
「・・・お前もお前で無欲すぎるからな」
いや、なんつーの。
そんな好きなもの何か聞かれても大体出てこないよね。
ゲームも好きだけどそんなシリーズ通してやるとかじゃないしな。
海外ドラマも映画もあんまり見ないしな。
「強いて言うなら白米とか」
「ねぇ、それ俺が松屋好きって思ってんのと同じだと思うんですけど」
「デ、デスヨネー・・・」
「なんか他にねぇのかよ」
「あ、コタツ」
「そーゆー感じの好きなもん聞いてんじゃねぇんだよ!」
いや、アレ暖かいし寝るのに最適じゃん。
寝たら寝たで寒いけどさ。
あと何があったかなー。
電化製品が好きな感じはあるけど新しいもの見たいって感じだから別に集めるほどでもカタログ見るほどでもないしなー。
「もう松屋でよくない?」
「納得いかないからもう少し悩みたい」
「お前めんどくせぇよ」
「分かってる」
ぶらぶら歩きながらとにかく何かないかと考えてみるが全く思いつかない。
佐藤は意外に色んな好きなもんがあるけど俺はそんなにないもんなぁ。
「あ、CD欲しい」
「CD?」
「うん。邦楽ロックが好き」
「意外だな」
「そう?よく聞いてんじゃん」
「そうなの?」
びっくりしたみたいな顔で俺を見る佐藤。
よく山下とは話をするが、そういえば佐藤にしたことはなかったかもしれない。
「ショップ寄っていい?」
「え、寄るの?」
「あれ、佐藤嫌いだっけ?」
そういえば壮絶な音痴だもんな。
「CD買うの?」
「いいのがあれば?」
「このご時世に?」
「ん?」
「ネットに落ちて」
「俺はお前と違ってきちんと印税を収めるタイプだ」
電子機器苦手なくせにPCだけ使える理由がわかった気がする。
信じられないと呟く佐藤を引っ張ってCDショップに入る。
邦楽ロックの場所は少し奥まったスペース。
俺は基本的に好きなバンド追いかけるよりはいろいろ聞くタイプ。
まぁ、いくつか好きなバンドはあるけども。
だいたい趣味が山下と一緒だからライブに行くこともある。
「そんなおしゃれなの聴くの」
「おしゃれ、ではなくないか」
「俺、エミネムとかショーン・ポールがドストライクなんだけど」
「えーわかんねーわ」
ブラックミュージックドストライクの奴とは意見が合わない。
よくラップとか聞いてるとノリノリなってるの知ってるけど。
原田の頭悪い即興ラップ聞いてテンションあげてるもんな。
邦楽バラード聞いてる吉田とか冷たい目になってるもんな。
音楽性の違いって国境よりも隔たり感じる。
「あとマンソン聴くとテンション上がるからセックスの時とか」
「ヤってる最中にテンション上がられるとか最悪だな」
「テンション低いよりよくない?!」
「お前に限ってはそこんとこテンション低いに限るわ!!!」
絶対聴くものか。
もうほんとこいつがテンション上がるとロクなことねぇ。
つい先日の電気プレイ忘れない。
未だに全身が痛い。
意識戻ってトイレ行ったらめっちゃ中出しされてた。
っていうかそもそも意識失うようなセックス絶対よくない。
「お、新作」
「好きなの?」
「うん。聴いてみる?」
「うん」
ヘッドホンを片耳ずつ着けて音楽を流す。
このバンドはドラムのリズム感がたまんねーんだよなー。
今回も最強だな。
歌詞はありきたりな気もするけどなかなか。
ボーカルの声がいい。
サビに入るとテンポアップ。
妙な高揚感がしてテンションが上がる。
「どう?なかなかじゃね?」
「え?」
「何その顔!そんなに嫌いだった?!」
「なんでこんなに歌詞キモいの。恋愛テーマ?うるさい」
歌なんてほぼほぼそうだと思うんだけど。
っていうかその顔どうにかしろよみたいな。
相当ヤバい顔してるんだけど。
そんなに嫌いかよ。
「こんなん聴いてるからお前も山下も女々しいんだ」
・・・な、何も言えない。
俺も山下も女々しいの自覚してるから余計に何も言えない。
「俺洋楽見てくる」
「う、うん」
ヘッドホン放り出して佐藤は洋楽コーナーに消えた。
頼むから戻ってきたときにはテンション上がっててくれ。
とりあえず俺はこれを買うけどな。
いや、佐藤には酷評されたけどいい曲なんだよ。
俺めっちゃ好きだよ。
そんでもって多分山下も好き。
「め、女々しいかな・・・」
好きな音楽ディスられて、怒りよりも焦りを覚えるなんて初めての経験だぜちくしょう。
CD片手に悶々悩みながら、やっぱり欲しくてレジに並ぶ。
会計が済めばさっきの悩みはなんのその、早く聴きたいという気持ちばかりが溢れてくる。
MPに落とそう。
最近はスマホで聞く奴も増えてるけど、俺としてはやっぱり音楽聴く専用のやつがいい。
あとラジオも聴けたりするし。
洋楽コーナーにいる金髪頭を見つけ、声を掛ける。
「なんかあった?」
「いや」
「好きなバンドとかねぇの?」
「あんまりこだわりとかないからな。エミネムもショーン・ポールも好きってだけで別に追いかけてないし」
「ぽいな。お前無節操だもんな」
「もう一回電気プレイしとく?」
「さ、出るぞー!次はどこ行くかなー!」
不吉なこと呟く佐藤を連れて外に出る。
キンキンに冷えた空気に身体が震える。
「寒っ」
「ざ、ぶっざぶひ」
「もうどんだけだよ」
ガチガチ歯を鳴らす佐藤を見てため息をつく。
「マフラー取って」
「は?!お前俺を殺す気なの?!」
「ちげーよ!俺のネックウォーマー貸してやろうと思って」
「マフラー取ったら一緒じゃねぇか!」
「だから、ネックウォーマー付けてからマフラー巻けばいいだろ!」
「おぉ」
納得したらしい佐藤はマフラーを取る。
俺はネックウォーマーを脱ぎ、震える佐藤に渡してやった。
「鈴木の匂いがする」
「文句言うなし。俺は寒いんだぞ」
「うん。ありがとう」
「あーもーだめだ。さっむい」
「やっぱ返そうか?」
「いや、いいよ。スタバあるし、なんかあったかいの買ってくる。佐藤何がいい?」
「カフェモカホット」
「オッケー」
俺は何にしようかな。
なんかあったかいのがいい。
それでいて甘いやつ。
「よし、キャラメルマキアート」
俺はあっついの。
佐藤のは少しぬるめ。
佐藤は寒いのも嫌いだけど、熱い飲み物も嫌いだ。
実は猫舌だから、熱い飲み物が苦手なんだってさ。
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