7色のドロップス

貴方が好きだといったレモン味。
僕が好きなメロン味。

愛してると何度言っただろう。
どれだけ身体を重ねただろう。
どれだけ泣いただろう。

新宿サザンテラス口、警察に連れて行かれた彼を見送るしかできなかった。
二人の私服警官、南口近くに見えるパトカー。
君はいつものように笑って僕を見る。

「またいつかここで」

パトカーに押し込められた彼を見てようやくすべてを理解する。
ああ、しばらく会えないのか。
どれぐらい会えないの?
貴方はどこにいるの?
どれだけ待てばいい?
貴方がいなくなってから街並みは随分変わったよ。
南口の終わらない工事が少し変化した。
サザンテラス口にアメリカのドーナツ屋さんができたよ。
いつか行きたいと言ってたラーメン屋さんはなくなっちゃった。
ここから見える線路が好きだったね。
副都心線開通したよ。
ねえ、あとどれぐらい待てば貴方に会えるの?

今年のサザンテラス口イルミネーションは質素で、それでも綺麗。
ディズニーランドのイルミネーションも見に行きたいし、六本木ヒルズのイルミネーションもさぞ綺麗だろう。
貴方がいない間にできていくスカイツリー。
貴方は地デジって知ってるのかな。

缶コーヒーを買ってポケットに。
僕も随分変わった。
あの時はブラウンのダウンジャケットにウォッシュがききすぎたジーンズだった。
今じゃ黒いロングコートにスーツを着こなしてる。
飲めなかった缶コーヒーが今では大好きだ。
それでも変わらないのは貴方がくれたドロップスをいつもポケットに入れてること。
禁煙すると買って、禁煙に失敗して。
もういらないからって僕にくれたよね。
貴方がいつも食べてくれてたハッカ味も今では食べれるよ。
でもやっぱり一番はメロン味。
貴方は今でもレモン味が好きだろうか。

人気もなくなり、そろそろ帰ろうと腰を上げる。
ここで貴方を待つのが日常。
来るなんて思ってないから。
缶コーヒーを飲み干して缶はダストボックスへ。
ドロップスの缶を振ればメロン味。
いいことありそう。
携帯を開けばここに三時間近くいたことになる。

「僕は何をしているんだろう」

ドロップスと缶コーヒーを飲みながら毎日毎日来るはずがない人を待つ。
やめようと何度思っただろう。
馬鹿な自分とどれだけ蔑んだだろう。
何年も待たされて待たされて。
飽きることもなく僕は今も貴方が好き。

「なんで泣いてるの?」

ふと振り向けば同じ年ぐらいの男。

「待たせた?」

ヘラヘラ笑うその顔は待ち望んだもので。
金色だった髪は真っ黒で短くなっていた。
あの日着ていた赤いジャケットは濃いブルーのコートに。
背は一層高くなっていて、スリムパンツがよく似合う。

「何年待たせたとおもってるの」
「わからないほど長く、君を待たせた」
「もう来るのやめようと思ってた」
「じゃあギリギリセーフだ」

久しぶりの温もりに身をゆだねて泣きたいだけ泣いた。
昔みたいに煙草の匂いもしない。
その代わりに柑橘系の甘い香りがした。

「煙草やめたの?」
「ははっ少年院で吸えるわけないだろ」
「それもそうか」

イルミネーションに照らされてゆっくりと何年振りかのキスをする。
キスの仕方は変わらない。
離れるときのリップ音もあの時のまま。

「メロン味のドロップ」
「あたり」
「まだ好きだったの?」
「いつも食べてるぐらいに」
「ホント変わったの外見だけなのな」

そう言いながらまた僕を抱き締めて。
そんな貴方も変わらない。

「俺が好きだった味覚えてる?」
「レモン味」
「あたり」

僕は貴方の口にレモン味のドロップを放り込む。
もう一度だけキスをして手をつないで歩き始めた。

「僕ね、貴方に話したいことがいっぱいあるの!」
「全部聞くよ」
「地デジって知ってる?」
「馬鹿にしてる?」

幸せな夜、非日常。
イルミネーションに照らされた新宿サザンテラス口。
日常と非日常が入れ替わるのも時間の問題。




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