Oh!MyLord-5

Oh!MyLord
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*100万hit企画アンケート8位作品
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一時帰省とでも言うか何というか、俺と倫太郎は久し振りに本土の土を踏んでいた。

「こっちは違った意味で暑い・・・」
「アスファルトの破壊力すげぇよな・・・」

島暮らしに慣れて、このべったりの舐めるような暑さがいつの間にか苦手になっていた。
島暮らしは割りと快適で。
店屋物がないせいもあり、俺と倫太郎はジャンクフードに馴染みがなくなっていた。
メインは肉より魚、味噌汁はわかめ、サラダは青い野菜が山ほど。
きゅうりやナスは買いに行かずとも隣人がくれる。
その礼にと普段世話になっている人から頼まれた大量の買い物は引き受けた。
これに少しばかり色を足し、近所の子に頼まれた東京ばな奈を何箱か買い足してお礼にするつもりだ。
でも今回は東京に滞在予定ではない。
およそ1ヶ月、実家に滞在予定だ。
島暮らしを始めてから初めて実家へ連絡をした。
息子が今どこにいるかなんて興味なさげだったが島にいると言い、さらにはそこが南九州となれば話は別だったようで。
倫太郎の親も島にいるのまでは知らなかったらしい。
なにはともあれ、俺と地元の祭りに行きたいが為の帰省だ。
親は二の次。
東京から新幹線でおよそ1時間、そこからバスで30分も行けば地元。
祭りの準備で賑わう町は都会とは違った意味で華やかで面白い。

「御神輿でるかな?」
「どうだろうな。でるんじゃないか?」
「小学校の時作ったよね」
「ペットボトルのやつな」

リサイクルだかなんだかよくわからないエコ精神でペットボトル神輿を作った。
カラフルなテープをベタベタ貼り付けて。
当時は力作だと思ってた。
それこそはりきって祭りに参加したものだ。
懐かしい通学路を昔のように倫太郎と歩く。
まさかまたこうやって歩くことになるなんて思いもしなかった。
そう言えばいつも倫太郎は車道側を歩いてたとか、そのくせ車道側しか見てなくて車を目で追っていていたとか。
思い出って言うのはふとした時に頭をよぎるらしい。
何年かぶりの我が家は些か壁のペンキがはがれていて、垣根の代わりにブロック塀がずっしりと存在感を出していた。

「じゃあまた後で」
「うん」

そんなに長い時間離れる訳じゃないのに倫太郎はすごく不安そうな顔をした。

「どこにも行かねぇよ」
「うん、わかってる」
「ちゃんと浴衣着てこいよ?」
「うん!」

それから倫太郎は俺が家に入るまで黙って俺を見ていた。

「ただいまー」
「鷹、早かったのね」
「朝一のに乗ったから」
「父さんは?」
「遅いわよ」

目の前に出されたのは麦茶とケーキ。
俺が好きだった店にわざわざ買いに行ったに違いない。
昔と何も変わらない母親、だからこそ何か変わったんだろう。

「言いたいことあるんじゃないの?言えば?」

黙ったままの母親はやはり変わっていた。

「倫太郎君といるんですって?」
「うん。同棲してる」
「・・・そう」

母親が言葉の意味を受け止めて、消化するまでにグラスの麦茶は空になった。
水差しを取った時にようやく母親が口を開いた。

「倫太郎君も、そうなの?」
「さぁ?聞いたことない」
「でも同棲って・・・」
「俺が好きだとしか言わないんだ、馬鹿だから」

呆れたノロケだ。
母親も呆れたような顔をしてる。

「お父さんには鷹が言いなさいよ」
「わかってる」
「お母さんは倫太郎君のお母さんにどう言えばいいのかわからないわ」
「もう倫太郎が言ってると思うよ」
「・・・それもそれで・・・ねぇ・・・」

息子がゲイだと聞いて、受け入れる受け入れない云々の前に俺が逃げるように家を出たから親が実のところどう思っているかは知らない。
少なくとも母親は受け入れるまではいかないけど否定をするつもりもないらしい。

「あ、浴衣出しててくれた?」
「出したわよ。わざわざアイロンまでかけたんだから感謝しなさいよ。暑かったんだから」
「ありがとう」
「やだ、倫太郎君の影響?鷹が素直だわ」
「ほっとけ」

ケーキまで食べ終わり、食器はシンクへ。
母親に呼ばれて部屋へ行けばきちんとしわが伸ばされた浴衣があった。
昔、高校の時に買っただけの浴衣。
倫太郎と行きたいと思って言ってみたけど結局行かなかったのだ。
なんだろうなぁ・・・。
気恥ずかしいものだな。
俺だって忘れていたようなことを倫太郎はいつだって覚えている。
浴衣買った、なんてきっと零しただけで。
いけなくなった理由も覚えていないが倫太郎はずっと気にしていたんだと思う。
浴衣は白い生地に濃いグリーンが滲ませてあるシンプルなもの。
帯は黒よりのグレー。
きっと安かったんだと思うんだけど当時の俺からしたらそこそこの値段がしたんだと思う。

「下駄はー?」
「玄関に出しておくから早く着替えなさいー」
「帯やってー」
「アンタはいつまで子供のつもりなのー?」

それもそうだ。
一応自分で着てみたのだがこれは駄目だ。

「バスタオルならうまく巻けるんだがな・・・」

結局結び方がわからずに下着の上に浴衣を引っ掛けただけで部屋を出る。
諦めも肝心だ。
リビングの掃除をしていた母親に帯を渡したらものすごい顔をされた。

「鷹が一人暮らしをちゃんとできていたのかすごく不安になったわ」
「できてたよ。浴衣なんか着ないでしっかり働いてた」
「それもどうなのか怪しいわ。いつまでたっても連絡よこさなかったもの」
「してこなかったから用がないのかと思って」
「そーゆーところ、お父さんそっくりよ」

母親に着せてもらった浴衣は見栄えもよく、我ながら満足だ。
母親に巾着を借りて財布と携帯だけ詰め込む。
下駄は母親の言った通り、ちゃんと玄関に出してあった。

「夕飯はどうするの?」
「倫太郎と食べてくる」
「1ヶ月いるんだっけ?」
「うん」
「そのうち、ちゃんと倫太郎君連れて来なさいよ」
「会ってどうするの?」
「近所のおばさんとして話をして・・・それから鷹のお母さんとして話をするわ」
「ふーん。わかった」

母親は何を考えているのかよくわからないな。
俺の感情顔に出ないところは母親に似たらしい。
長い年月には何かを変えるだけの時間があったんだろうな。
外に出ればまだ蒸し暑く、時間としては17時を過ぎているのに夕方の気配は薄い。
倫太郎の家は俺の家からゆっくり歩いて5分ほどで、そんなに遠くはない。
交差点横のコンビニは俺の苦い思い出だ。
いつの間にかコンビニもファミリーマートからローソンになっていた。
そこからしばらく、目の前に懐かしい倫太郎の家が見える。
ひょろりとした男がちょうど出て来て、すぐに倫太郎だと分かった。
紺色のシンプルな浴衣は持っていないからと一緒に買いに行ったものだ。

「鷹!」
「おー」

俺を見付けてこちらへ小走りに走ってきた。

「鷹、似合ってる」
「お前もな」
「おばさん、怒ってた?」
「いや?怒ってはなかったと思う」

怒ってはなかったよな?
まぁ考えるだけの時間は十分すぎるほどあったわけだし。

「倫太郎は?」
「泣かれた」
「そっか」
「でも俺が諦め悪いのとか、譲らないところがあるから泣いただけだよ。鷹のせいじゃない」
「うん。わかってる」

浴衣をぴっちりと着つけられているのを見るとこれはおばさんがやったんだと思う。
それなりにおさまったことに安堵した。

「元々家出して、事故して、保険金かけてとかしてたし・・・鷹がどうって言うよりも育て方間違った的な感じだったなぁ」
「ははっ。馬鹿なことばっかりやってるからだ」
「それでも後悔はしてないよ!だって隣に鷹がいる」
「最初からはっきりしとけばこうはならなかったと思うけどな」
「それは鷹もじゃん」

核心を突かれた気がして倫太郎の頬を殴った。
昔より些かおしゃべりになった気がする。
お互いの家のことについて少しばかり話をしながら歩いた。
仕方がないと諦めているので淡々と。
目の前に神輿を見付けた時にその話は終わった。
歳がいもなく少々早歩きになって、まだ準備段階の会場を眺める。

「懐かしいね」
「そうだな」
「何がしたい?」
「とりあえず缶コーヒーが飲みたい。朝早かったから眠い」

倫太郎は肩を震わせて笑い、それから涙が滲んだ眼でこちらを見た。

「大人になったね」
「何がだよ」
「昔はわたあめ見つけたら走ってたじゃん」
「そうだったか?」
「そうだったよ。わたあめを千切って食べててさ、いっつも手がべたべたするって言って水道探してた。それからりんご飴食べて、口周りがベタベタするって言ってまた水道探してさ。皆がタコ焼きとか焼きそばみたいなおかず系のもの食べてるのにお腹いっぱいになっちゃって、帰り際に買って帰ってた。その後絶対ぱさぱさだったって電話してたじゃん」
「変なことばっか覚えてるなよ・・・」

言われればそうだった気がしないでもない。
でも今じゃそんなのにあまり興味はなく、空腹を満たすための食べ物が食べたい。
隣にいる倫太郎は苦しそうに腹を抱えて、口を押さえて笑っている。

「お前も大人になったよ」
「そう?」
「昔は笑う時には大口開けて、人を指差してゲラゲラ笑ってた」
「えー?そんなんだった?もっとかっこいい感じで笑ってなかった?」
「いーや、絶対んそんなんじゃなかった」

自販機でコーヒーを2つ買って、1つを倫太郎に渡してやった。
大人になった気でいる俺等にはちょうどいいブラックコーヒー。

「身に染みるね」
「色んな意味でな」
「口がギシギシする」
「じゃぁシロップ代わりにわたあめでも買うか」
「ふはっ、わたあめ買うんだ?」
「あぁ。いい考えだろ?」
「そうだね」

子供向けの戦隊ものがプリントされた青いビニール。
浮足立った下駄の音。
何年振りかに会った同級生。
俺と倫太郎はあの時の失った時間を埋めるように笑った。




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