レジスタンス

レジスタンス。
この響きが俺は好きだ。
諸外国からの支配から卒業し、新たな国をと叫ぶ連中の大半は愛を知らない無職の暇な奴。
学生とかフリーターとか、まぁ時間がある奴がやっている。
愛を知っている、家族がいる連中は諸外国の支配うんぬんよりもその日を生きることを考えている。
当たり前なのだ。
国全体が反対するでもなく、デモみたいなこんな小規模の活動。
俺だって外国の援助なしでは国が成り立たないことも、敗戦国であるこの国がまだ戦後状態から立ち直っていないことも理解している。
でも職がない奴ってのは暇なもので、不平不満を零す場所がほしいのだ。
炎天下、これを仕事だと思い込み抗議デモ。
お金がもらえるわけじゃない。
俺の家はついに冷たい水しかでなくなった。
一部の心優しい人が頑張ってとボランティアにパンをくれるのが日々の食事になっている。
電気が通らない、隙間風が寒い部屋で睡眠を取るために帰宅する。
そもそも俺の家には冷蔵庫もテレビもない。
もちろん新聞を買う金すらないわけで、この活動をしているのがおかしいのだ。
名前すら知らない大統領を批判し、糾弾する。
その彼の名前がアーサーであること以外に俺は何も知らない。
顔も、姿も、何も。
でもその彼の名前を憎しみを持って呼ぶ。



朝6時、寒さに腕や足を擦り合わせながら起きる。
この時期になると薄い布団だけでは寒い。
そろそろ毛布を出そう。
醜く拡がった歯ブラシで歯を磨き、家賃滞納の張り紙を剥いでから家を出る。
ボランティアの人にスープをもらって、今日も顔も知らない大統領へ不平不満をぶちまけるのだ。
そういえば近所の肉屋が求人を出していた。
近くのバールも求人を出していた。
でも求人案内のチケットはすべてもぎ取られていた。
時給もそんなに良くない、でも働きたい奴はいる。
飛び付いた数名は職を得て、抗議デモに参加する日数を減らすのだろう。
彼らの仕事はこんなことではないのだ。

「ハーイ、ショーン。元気ないな」
「トムは元気だな」
「野菜スープを飲んだからな」
「俺も飲んだけどさっぱりだ」
「ははっ。お前はライオンだな。さしずめ俺はカバか」
「ライオンはあんまりだ。せいぜいハイエナ」
「確かにそうかもなー」

隣でカラカラ笑うトムは学生運動のリーダーだ。
俺と違って高学歴な彼には公務員と言う就職先がある。
でも彼はまだ学生で、自分以外の誰かの為に動いている。
俺はそんな彼に誘われて抗議デモにいるだけなのだ。

「新聞読んだか?」
「そんな金はない」
「アーサーが条約を結んだんだ。イエローモンキーと」
「関税制度がイカれてるやつか?」
「そう」

支配はなかなか終わりそうにない。
きっと今度はクイーンと条約を結ぶだろう。

「野党の批判はもうお飾だな」
「アーサーはいつも仕方がないとばかり言う。でも少しぐらいねばるべきではないか?このままじゃこの国は崩壊する」
「若い大統領を据え置いたのが間違いだ」
「ホントだ。共産党は何を考えてるんだよ」

本当は動く人形が欲しかっただけなのも分かっている。
きっと若い大統領にしたのは心おきなく切り捨てるためなのだ。
俺だってトムだってそんなのが分からないほど馬鹿ではないのだ。
それでも不満をぶつける相手を欲するのだ。
誰かの為に、と言う考えができない俺等には皆の為にとかこの国のためにが唯一の道しるべ。

「さて。今日も元気に抗議しようか、ハイエナくん」
「イエス、サー」
「はぁ・・・お前のその言葉を聞くたびに胸が痛いよ」
「サー、せいぜい足を汚しませんように」
「わかっているさ」

プラカードにはアーサーへの暴言の数々。
そのカードを持って議員が通る広場で抗議するのだ。
国営テレビはこの様子を狂ったように放送し、諸外国の様子をまるで夢でも見せるように映す。
批判はメディアの本質なのだ。
なるだけ間違いのないように、事実を誇張して。
野党の議員を支持する派閥はでっぷりと太ったジョージを支持する。
ジョージはいつも早く広場へ来て、脂ぎった顔で手を振り練り歩く。
そんなんだからテレビも新聞もない俺だって顔も名前も知っている。
次の選挙はきっとジョージが勝つんだろう。
ジョージが君たちの為に頑張ると俺に向かって手を上げて見せた。
歓声に沸く周囲、猿よりもうるさい。
ふと銅像に跨ってこの国の不条理を叫ぶ俺は何なんだろうと思った。
ジョージは俺の名前なんか知らないだろうに。
ジョージが俺の未来にレールを敷いてくれるわけではないだろうに。
俺の横に学生の王様であるカバが並ぶ。

「盛り上がってるな」
「ジョージが来るといつも小一時間はこんなもんだろ」
「あぁ。カメラにキメ顔でもするか?」
「やめろよ。俺にはテレビを買う金がないんだ」

カバが叫ぶとさらに場は盛り上がる。
この国は俺等のものだと叫び、アーサーを磔にとみんなが声をそろえる。
この時代に磔だなんてないけれど。
みせしめにしてやりたいのだ。
黒い高級車が広場に入って来て止まる。
中から出てきたのは見たことがない男だった。

「珍しい。アーサーが広場で降りるなんて」
「アーサー?」
「アレだよ。薄い茶髪の、オールバック」

そちらへ目をやれば大統領と呼ばれるには大分若い男がいた。
少々やつれて見えるこけた頬が印象的だ。
実際にやつれているのかもしれない。
一緒に降りてきた秘書も随分若く、アーサーをしたっているようには見えなかった。

「まるで人形だな」
「皮肉か?まぁ随分痩せたように見えるがな」
「そうなのか」
「げっ!手を出すなよな!これだから過激派は!」

カバは銅像から飛び降りるとアーサーに群がる民衆を止めに行った。
カバは死人を出さないでおきたいのだ。
警官隊とぶつかって投獄された奴も死んだ奴もいる。
明るい未来を目指して、志半ばで死ぬのは辛いとカバは言う。
綺麗事だと思わなくもないがカバの派閥は言葉の暴力をするだけだ。
過激派になると殺してやろうとするし、人質騒ぎも頻繁にある。
なかなか収まらないので俺も銅像から飛び降りて過激派を抑えにかかる。
ようやく争いが静まった時にはアーサーの高いであろうスーツは腕が裂け、泥にまみれていた。
今までどこにいたのか、身なりの綺麗な秘書がアーサーを支えて起こす。
怒りの収まらない暴徒がアーサーに石を投げた。
頭に当たり血が出て、耳も切れていた。
俯いたアーサーは俺等を見ることはなく、ただ口だけを動かした。

「    」

俺は押さえていた暴徒が石を投げようとしたのを腕を捻って止めさせる。
まだ暴れるので肩を踏んで腕を折ってやった。

「ぎゃああああぁぁ!!!」
「ショーン!」
「あぁ、悪い」

痛みに嘔吐する暴徒を投げ捨て、俺はその場を去る。
後ろでカバが叫ぶが俺は止まらない。
自分が持っていたプラカードをその辺にいた学生に押しやった。

「ショーン!お前何したかわかってるのか!」
「腕を折ってやった」
「あぁ、そうだ。いくらなんでもやりすぎだ」
「でも俺のおかげでアイツはしばらく石だって投げない」
「ショーン、お前」
「悪いが俺はもう止めるよ、サー」

トムを抱きしめて右頬にキスをする。

「お前、」
「お前には仲間がいる。これは群れだ」
「ショーン、考え直してくれ」
「でもこの国の王様は道化だ。猛獣に囲まれた舞台でただ踊っている」
「ショーン」
「アーサーはすまないと言った。俺はソレだけで十分だ」

俺の腕を掴むトムの指を1本ずつ離していく。
俺の気持ちを察しているトムは離れた指を絡めようとはしない。

「恋をしたんだ、そんな哀れな道化に」

レジスタンス、響きだけは素敵なその言葉にさよならを。
俺は石を投げられてもこの恋を実らせてみせる。




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