ComingOut:89

「シャアァ!勝つぞコラァ!」

開始早々、俺のテンションはハイ。
体育祭一番最初の種目は200メートル走。
最初から目立てる。
隣に座ってる1年は確か陸上部だ。

「はーい、山下くーん。1年生がビビってるので静かにしてくださーい」

やる気がない誘導係に怒られた。
佐藤は手袋まで装備の完全日焼け対策だ。
サングラスもかけていたが中兄に没収された。
当たり前だ。
佐藤がピッピってとてもやる気がなく、申し訳程度の笛を鳴らしながら俺等を誘導する。
6コース、まぁ真ん中ぐらいだがスタートダッシュに成功すればなんてことはない。
大人しく待っていればようやく俺の番が来た。

「よーい」

パァン

ピストルの音が合図、スタードダッシュに成功。
隣の1年が中々早いが俺の敵ではない!

「Yea!1番ー!」

ゴールテープをもぎ取る勢いでゴール。
ついでにバク宙をキメてやった。

『キャー!』

大歓声の中、さらに校内新記録樹立のアナウンス。
テンション上がってボルトポーズ。

「山下、中兄が呼んでるぞ」

後ろを振り向けば少し遠くでわなわなと震えている中兄が仁王立ちをしていた。
やべ・・・はしゃぎ過ぎた。

***

なぜ俺は借り物競走なんてこんなに楽しくもない競技に出ているんだろう・・・。

「よーい」

パァン

「・・・ダルッ」

男女共に行う借り物競走。
誰も本気で走る気はないらしくダラダラと走って目の前の紙を手に取る。

「げっ」

紙に書いてあったのは『やかん』。

「誰が持ってるってンだ、ボケエエェ!!!」

思わず渾身の突っ込みをいれてしまった!
くそっ・・・こんな下らないお題で負けるなんて絶対嫌だ。
やかんやかんやかんやかんやかんやかん・・・!
はっ・・・!
鈴木がやかんでお茶出しをしている・・・!

「鈴木コラアアァァ!!!」
「えええぇぇ!ちょ、な、なんで、こっち」
「ソレ貸せ!」
「は?!どれだよ!あっ」
「ハチマキじゃねぇんだよ!」

来賓席に突入し鈴木からやかんをもぎ取る。
そのまま係のところへ行ってゴール。
チッ・・・3位かよ・・・。

「中村、やかん貸して」

警備でグラウンド外にいたはずの原田が走ってきた。

「え?俺が後で戻すぞ」
「来賓にお茶出しができないからって生徒会が」
「あぁ、そうか。悪いな・・・」
「えっ、あれ・・・山下のお父様が来賓席にいらっしゃっている、だと・・・?」
「あ、そーいや山下がパパが来るって言ってたな」
「俺っ俺、ちょっとお茶ついで来る!」
「お前・・・必死だな・・・」

でも飲んでくれないと思うんだ、俺。

***

結局お茶は飲んでもらえなかった。
鈴木の出したお茶は飲んだのに・・・!

「どうして俺こんなに嫌われているんだろう・・・」
「オイ、くっつくな。うぜぇ」
「足が繋がっているだけでお前にくっつこうだなんて全く思っていない!」

心外だ、ものすごく。

「佐藤くん、原田くん、早く並びなさい」

吉川ちゃんに怒られた。
佐藤と2人、何とか立ち上がってコースへ並ぶ。
絶対に佐藤の腰なんか触りたくない(殺される)ので襟首を握った。

「よし、じゃぁ練習通りに」
「OK」
「よーい!」

パァン

「加藤!」
「ローサ!」
「「「「エエエエェェェ」」」」

加藤でくくっている足、ローサでくくってない足を出す。
俺と佐藤が思い付いた案だ。
ちなみに俺は篠原涼子押しだったんだけど加藤ローサのが言いやすかった。
周りからとんでもないブーイングだが気にしない。
鈴木が唖然としていても吉田が白目向いていても中村がドン引きしていても山下が笑い転げていても気にしない!
だってこの方法が一番早かったんだもの!

「加藤!」
「ローサ!」
「笑われてる!」
「気にしない!」
「無理!」
「耐えろ!」
「俺のキャラ!」
「崩壊してる!」
「死ね!」
「殺す!」
「死ね!」
「殺す!」

あれ・・・これの方が早いかもしれない。

「加藤!」
「死ね、あっ間違えた!」
「余所見すんな馬鹿!」
「馬鹿じゃない!」

文句の言いあいをしていたらいつの間にかゴールした。
軽やかにゴールテープを切って、見事1位でゴール。
ソッコー足からバンドを外して佐藤から離れる。
後ろには次の種目であるクラス対抗リレーの準備をしている安達がいた。

「いやー・・・さすがだな。仲が良いだけあるよ、お前等。おめでとう1位」

こんなに不名誉な1位は初めてだ。

***

クラス対抗リレー、次も1位でゴールして見せる。

「安達・・・お前1位以外でバトン持ってきたら吊るすからな」
「・・・どこから?」
「屋上。首にロープで」
「が、頑張ります」

選抜メンバー4人の対抗リレーだ。
1人200メートルずつ走る。
俺がアンカー、3番手が安達。
1番が大田で2番が神田だがコイツ等はサッカー部と野球部のエースだ、問題ない。
ピストルの音とともに大田が1位で駆け抜ける。
2番手の神田もソレをキープ。
そのまま安達へバトンが渡る。
そして2位に落ちた。

「テメエエェ!!!Hurry up!Fuck'n!!!」
「すみませんでしたアアアァァ!!!」

安達からバトンをもぎ取って猛ダッシュ。
目視でおおよそ3メートル先の5組の奴を抜きにかかる。
コーナーを曲がってからソッコーで追い抜いた。

「シャアアアァァ!見たかコラアアァ!」

1位でゴールテープを切ってやった。
そして来賓席にいる父親に手を振る。

「綾平ー!よくできましたー!」
「おー!」

忙しい中来てくれた父親へのプレゼントだ。
そしてビデオ係をやらされている真壁さんにも手を振っておいた。
あのビデオ、ホームシアターで再生しよう。

***

短距離走は4位に終わり、俺の仕事は来賓席でのお茶くみと今からやる玉入れで終わりだ。

「鈴木くん・・・どうしてそんなにつかれてるの」
「山下のお父さんと話していたんだけどお前についてどれだけ可愛いかどれだけ優秀かを話されてだな・・・」
「あぁ、パパまだ諦めてないんだ」
「お父様何を考えていらっしゃるの?」
「原田以外の奴を婿にと計画しているんだ」
「お父様アアアアァァァ!!!」

そうなのか。
いや、そんな山下を勧められても俺には、も、もう1人のドSがいるから・・・。

「行けばいいじゃないか。玉の輿」
「この野郎・・・!」
「佐藤、一生をあげたんじゃなかったの?」
「俺もセットでどうかと山下の父親に聞けばいいだろ」
「たぶん喜ぶぞ」
「やめてええぇ!!!お願いだからやめてええぇ!!!」

原田が何か叫んでいるがシカトで玉入れの玉を持つ。
そして佐藤と山下からひっそりと離れた。

「「安達に投げるぞ」」

やっぱり殴られた事とか2位でバトンを渡したことを根に持っているらしい。
ピーっと言う笛の音を合図に投げ始める。

「死ね!安達!」
「この鈍足!亀!」
「痛アアアアァァァ!!!ちょ、痛アアアァァ!!!すみませんでしたアアアアァァァ!!!!!」

安達ドンマイだな・・・。
理不尽だと思うが標的になりたくないから耐えてくれ。
結局玉が全て入るわけでもなく、流れ玉に当たって沈む人も続出で結果は4位で終わった。
競技配点が少ないことを祈るばかりだ。

***

障害物競走・・・はじまっちゃった・・・。
顔面マスクで出ようと思ったのにホリーに回収されてしまい、俺はあの小麦粉の中へ顔面を突っ込むのかと考えるだけで死にたくなる。
絶対汚れる。
っていうか潜るのも嫌なんだけど。

「やりたくない」
「よーい」

パァン

「痛ァ!」

しょっぱなからハードルに頭をぶつけた。
頭を抱えながら走り網の中を潜る。
そのまま平均台も渡りきり、難所の飴玉がある箱。

「ち、畜生!」

目視で飴玉を探せず、負けることも悔しいので顔面をぶち込む。
飴玉を食べた瞬間に顔を上げてボールがある箱まで猛ダッシュ。
バスケットボールをなんとかもぎ取りドリブル。
それから難関の三輪車・・・!

「どうやって乗れって言うんだ・・・!」

ずっと考えていたがこの乗り物に乗れる気がしないんだけど。
横では小柄な奴等が一生懸命こいでちまちま進んでいる。
とりあえず座ってみたが膝がハンドルを跨いだ。
操縦できない・・・!
仕方ないので三輪車をかついでゴール。
ゴールテープをこれでもかってぐらい格好よくきってみせた。
顔面は小麦粉で真っ白だけど。

『吉田くん、失格です』

うるせぇ、わかってる!

***

ついに、ついに待ち望んだ騎馬戦・・・!
俺はこの為だけに誘導係なんてめんどくさい係をやっていたのだ。

「絶対勝つぞ」
「どうして俺が前なの?ねぇ、どうして変更になってないの?」
「うだうだうるせぇ、ちゃんと前を向け」
「乱暴に走ってもいいって言っただろうが」

吉田の意見を完全無視で騎馬を組む。

「よーい」

パァン

「「「かかってこいやああぁ!」」」
『ぎゃあああぁ!!!』
「さ、佐藤!押さないで!って言うかみんな逃げている・・・?!」

逃げる他の組を追って走りまくる。
中村がひょいひょい相手を避けてハチマキをむしり取った。
さすがBMライダー、馬の上はお手の物だ。
足踏みしている吉田を原田とせかして走る。
気がつけば強敵の1組柔道部と俺等だけになっていた。

「吉田、ガチンコだぞ」
「フィジカルが違いすぎるって・・・負けるって・・・ってか負けようよ」
「ふざけんな、思いっきり飛び込め」
「そうだぞ。山下なら喜んで飛び込んだぞ」
「ガチムチ好きなだけじゃん!俺好きじゃない!」

うるさい吉田のケツを蹴りあげて前に進む。
柔道部もこちらへ走ってきた。

「イベプロ潰してやる!」
「う゛!あ、汗臭い!」
「う、うるせぇ!」
「やだ!ぶつかってこないで!汚い!」
「黙れ!」

吉田の言葉が地味にきいているらしい。
前方の馬が引き気味だ。
でも頭上はもっとひどい。

「童貞!ハチマキ渡せ!」
「う、うるせぇ!違う、童貞じゃない!」
「嘘つくなハゲエエェ!!!」
「嘘じゃねぇよ!」
「オナホに突っ込んで脱童貞とか言ってんだろ!デブ!」

中村の言葉責めに柔道部がたじたじ。
そして中村がハチマキをもぎ取った。

「とったどー!」
「シャアアアアァァァ!」
「でかした中村!」
「「「「畜生・・・!」」」」
「終わったなら離れて!臭い!」

この後中兄にしこたま怒られたが競技自体は勝ったからいいとする。

***

優勝赤組(3年生)、クラス優勝3年2組。
な、なんというか・・・。

「さすがですね、中西先生」
「ほ、堀切先生・・・」

堀切先生のクラス、3年5組は準優勝だった。
いや、すごいんだよ。
堀切先生のクラスも強いんだ。

「堀切先生のクラスもおめでとうございます」
「でもやっぱり山下いるんじゃ配点が高い選抜系で勝てないですし、優勝は無理でしたね」
「あぁ・・・山下は速いですからね・・・」

山下の足の速さは全国区だ。
本人にやる気がないので大会には一切出ないが。
校内新記録を全ての競技で樹立しただけのことはある。
抜いたのは去年の山下の記録だけども。
モテる奴はだいたいスポーツができるよな。

「次は文化祭ですかねー。今度は負けないですよ」
「あぁ・・・!不安・・・!」
「去年は大人しくポップコーン作ってたじゃないですか、イベプロ」
「・・・そうでしたっけ?」

あれ・・・去年ポップコーン花火とか言って俺のところに奇襲をしかけてきた気がするんだが・・・。

「まぁとりあえずはお疲れ様です」
「今晩飲みに行きましょうよ、打ち上げ」
「・・・結活パーティーでなければ」
「違いますよ。普通に居酒屋です」
「そうですね。それならいいですよ」

よし、先の楽しみもできたところで片付けをサボっている馬鹿共を指導してこよう。

「コラアアァ!!!三輪車で遊ぶな!」
「「「「「「げっ!」」」」」」
「逃げるな!片付けをしろ!」




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