ComingOut:84

体育祭前の全体練習。
うちの学校は基本が学年対抗、そしてさらにクラスごとでも点数が出る。
現在はトラック内でリレーメンバーの確認に山下が、トラックでは佐藤と原田が二人三脚の練習をしている。
俺等は簡易応援席でその様子を観察中。
しかし・・・なんだあの不思議な二人三脚。
他の誰もが腰付近に手を回して安全に進む中、お互いの襟首を猫でも持つようにして掴んでいる。

「いいか。俺は右足から出すからな」
「あいわかった」
「「せーのっ」」

ゴシャァ

「見ろよ・・・原田が佐藤にマウントポジション決めてるぞ」
「やだ、佐藤鼻血出てる」
「死んだな。山下ァ!原田死ぬぞー!」
「わかったー!」

ワナワナと震えた佐藤が原田に頭突きを一発、そこからぐんっと起き上がって原田にマウントポジション。
そして振りあげた両手を堅く結んで下に振り下ろす。

ゴスッ

原田が死にました。

「オイテメェ・・・俺は右足を出すと言っただろうが」
「だから俺も右足を出したじゃない!」
「お前の右足は俺の左足に繋がっているだろうが!」
「はっ・・・!」
「遅ぇんだよ、ボケェ!もうムーンサルトキメちまっただろうが!」

あの2人で二人三脚は絶対無理だと言ったのに。
中兄聞かないんだから。
ガスゴスと音がして、ボコスカと音がして、バキボキと音がした。
たかが二人三脚でお互いに血を撒き散らすほどの喧嘩をしている。
二人三脚担当の吉川ちゃんがどうしたらいいかわからずにおろおろしていた。
そうだよね・・・女の人にアレを止める勇気はないよね・・・。

「そろそろ止めた方が良いと思うの、吉川ちゃんの為に」
「そうだな」
「邪魔になってるしな」
「じゃんけんしようよ。負けた人が止めに行くの」
「つーか鈴木が行けばよくないか?」
「なんで俺?!嫌だよ!巻き添え喰うだろ!」
「ほら、俺等この後借り物競走と障害物競走の練習があるから怪我とかできないし」
「そうだね、片方は鈴木のだもんね!」

俺怪我したくないしね!
この後の騎馬戦の練習で怪我する予定だけどね!

「山下に行かせればいいじゃん!元と言えば原田が」
「じゃぁお前あの女子に囲まれてる山下にちょっとあの喧嘩止めて来てって言ってこいよ」
「俺が行きますごめんなさい」

殴り合いを繰り広げている佐藤と原田を鈴木がものすごい低姿勢で回収しに行った。
放送が流れて借り物競争と障害物競走に出場する人への呼び出しがかかる。
中村がトラック内へ移動、俺も呼ばれたし障害物競走の練習に行ってこよう。
障害物走の担当がホリーってのがとっても嫌なんだけど。
割とでかい俺でもできる内容であってほしい。
何かをくぐる系は嫌だ。

「障害物についてですがまずは60センチの高さのハードルをくぐってもらいます」

最初から最悪だ・・・!
気を取り直して次のコーナーまでコースを歩く。

「次に網の中をくぐってください」

なんでくぐるばっかり・・・!

「その後平均台をわたってこの箱に隠れている飴を探して食べてください。手を使うのは禁止です。実行委員が確認したら先へ進んでもいいです」
「はい!」
「なんですか、吉田くん」
「顔が汚れると思うんです!」
「後で洗って下さい」
「そんな・・・!」

なんでこんなに障害だらけなの・・・!

「その後はこの中にあるボールでドリブルをしながら次のコーナーまで。ボールはいろいろあります」

出て来たのはバスケットボールやバレーボール、野球ボールやサッカーボールまでいろいろ混ざっている箱。
っていうかバスケットボールとバレーボールの比率・・・!
明らかに少ない・・・!
おかしいだろ・・・!

「ドリブルが終わったら三輪車があるので三輪車に乗ってゴールしてください」
「センセー!!!三輪車に俺が乗れると思えないです!」
「頑張ってください」
「堀切ゴルアアアアアァァァァァ!!!」

もうだめだ、無理。
あの鬼畜教師め。
コース説明が終われば解散、特に練習もしないので元の応援席へ戻る。
応援席には鈴木とミイラ男が2人いた。
鈴木の頬が赤いし腫れている気がしたけど見なかったことにしよう。

「どうだった?障害物」
「え、俺負ける気しかしないんだけど」
「何すんの?」
「三輪車乗るんだって」
「・・・・・どうやって?」
「俺にも分かんないから考えてよ」

しばらくしたら借り物競走の説明も終わったらしく中村も返ってきた。

「どんなんだった?」
「普通。おもしろくなさそう」
「俺と代わらない?三輪車乗るの、中村くんなら乗れるよ!」
「殺されたいのか?」
「嘘です!ごめんなさい!」

ギシギシと髪を引っ張られて脛には中村の足がガスがスと当たる。
だって中村だったら三輪車乗れそうじゃないの!
中村が三輪車とか俺なんかたぎるよ!
変な扉開けそう!
山下もリレー系の説明が終わったらしく、取り巻きの女の子を振り払いながらようやく帰って来た。
万年モテ期め・・・羨ましい。

「騎馬戦、そろそろ呼ばれるっぽいぞ」
「・・・やだ、一番行きたくない」
「俺はやりたかった・・・!」

落ち込んでる山下を鈴木が慰める。
実は騎馬戦に一番出たがったのは山下なのだ。
何でもするって言ったのも山下だ。
ソレに佐藤と原田が乗ったもんだから当日の当番が大変面倒な感じになったのだ。
救護とかホント面倒、やりたくない。
でもそれより揉みくちゃにされるはずの騎馬戦はもっとやりたくない・・・。
ため息をついていたら騎馬戦に出る人たちへの集合がかかる。

「もう、俺緊張して吐きそう・・・!」
「頑張れ」
「無理・・・嫌・・・」

緊張をおさめようとむーちゃんとねねちゃんに手を伸ばす。

ベシッ

ものすごいスピードではじかれた。
ものすごいスピードで・・・!

「もう頑張れない」
「今日は馬作るだけだろ、頑張れよ」
「そうなんだけども。練習ないよね?試合とかしないよね?」
「・・・たぶん」
「変わって!鈴木くん変わってエエエェェェ!!!」

鈴木をガクガクと揺さぶっていたら顔面ミイラ男2人に肩を掴まれる。

「練習行くぞ・・・」
「ちゃんとしろよ・・・」
「嫌アアアァァ!!!」

抵抗むなしくずるずると引きずられてトラック内へ。
逃げないようにと襟首をがっちりつかまれた状態で説明を受ける。
騎馬戦の担当が中兄って言うのがまだ救いだ。
・・・きっと俺たちが出るからなんだけど。
でもとりあえず無茶はさせないに違いない!
たぶん・・・!
きっと・・・!
よろしくお願いします、中西先生・・・!

「馬の作り方言うぞー!まず前の奴に後ろの奴等が内側の手を置け」

佐藤と原田の手が俺の肩に乗る。

「次に前の奴の手を外側の手で掴め」

佐藤と原田が俺の手をぎゅっと握る。
気持ち悪い。

「それから騎手が上に乗ってから馬が立ちあがれ。落ちないようにゆっくりなー」

そこから中村が上に乗って、俺等はゆっくりと立ち上がる。
よし、うまく立ち上がれた。

「ここで疑問なんだけどなんで俺が前?」

おかしくない?
なんで闘争心に溢れる人が前じゃないの?
おかしいよね?
これ俺が正しいよね?

「お前Mだろ、適役じゃないか」
「お前以外にぶつかって喜ぶ趣味を誰も持ってないしな」
「強めに揺れても大丈夫だぞ。ロデオは慣れている」
「先生エエエェェ!!!俺騎馬戦不参加でエエエェェ!!!」

あぁ・・・!
体育祭本番が超不安・・・!




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