良薬口に苦し
続
人間の尊厳
続
3日目の深夜
続
黒色の主人と金色の奴隷
続
曖昧な境界線の延長
続
怠惰な1日
続
洋ナシタルトの日々
続
歪んだ笑顔
続
シーツ越しの体温
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金髪が風邪をひいた。
正確には風邪かどうかもわからない。
「大丈夫か?」
「うぅぅ・・・」
奴隷は基本的に医者に見せないし病院にも連れて行かない。
別に可愛いがってるなら連れて行けばいいのだが俺にはそうできない理由があるわけで。
それが親父というのが情けない話だ。
見つかればたぶん金髪は殺される。
良くても絶対に捨てられる。
親父は奴隷に医者はいらんの一言、病に伏せった奴隷は捨てる。
元々替えがきくものだからだいたいの奴がそうだ。
人形愛好家は病に伏せった人形を病院に連れて行くが性奴隷ならば違う。
いくらお気に入りでも相手ができなければいらないのだ。
しかし俺はこの奴隷を捨てる気にはなれない。
肩書きが奴隷なだけで俺は金髪を奴隷だと思うことの方がもう少ないし。
割り切らなきゃいけない時もあるが基本的に部屋から出さないようにして大切に育てていたつもりだ。
「熱はどのぐらいだ?」
「38度越えましたね。感染症だといけないので坊ちゃんは書斎へ移動を」
「どうにかして医者を呼べないか?」
奴隷を診ない医者もいるが大抵は金を倍出せば診てくれたはずだ。
俺も親父も滅多に風邪をひかないので母親が出て行った日から屋敷から医者も消えた。
この時ほど自分の身体が丈夫なことを恨んだ日はない。
「無理ですよ。屋敷に入るには旦那様の許可が必要です」
「俺が風邪をひいたふりでも」
「坊ちゃんは先程旦那様と立ち話をしたのをお忘れですか?」
「そうだった・・・」
部屋から出るんじゃなかったな。
しかし・・・困った。
「金髪、とりあえず俺のベッドに移動しよう」
「やっ・・・やらぁ!ここ、ここでいいからぁ!」
「う゛っ!あっ暴れるなって!大丈夫だから!」
「嫌!やだっ、やっ・・・平気だもん・・・」
犬用ベッドに寝ると言ってきかない金髪を無理矢理俺のベッドまで運ぶ。
多分見付かれば捨てられるのがわかっているのだ。
黒服に部屋の鍵を締めさせて、誰も通すなと外に待機している黒服にも伝える。
それから寒いと言う金髪の為に暖かいガウンを着せてやった。
だがどれだけ服を着せても毛布でくるんでも寒い寒いと言う。
ガチガチと歯を鳴らして震えてる金髪は不謹慎にも可愛いと思ったがこのままじゃまずい。
隣で感染症がとか空気感染がとかうるさい黒服を放置して確かあったはずの救急箱を探す。
無駄に細工が凝った箱だったんだが・・・箱の形もうろ覚えだ。
「救急箱ってどこだ?」
「・・・・・さぁ?」
「お前格下げだ。使用人の責任者はお前だろうが」
「そういいましても坊ちゃんに必要がないものは覚えてませんし・・・」
「俺だって怪我はする」
「バスルームで転んだ話ですか?泡まみれのバスルームで彼を抱き上げようとかするからです」
「お前クビだ」
役立たずの黒服は部屋から放り出し親父の見張りへ行かせた。
それからコールを鳴らしてメイド長を呼ぶことにした。
メイド長は用件だけ聞いてすぐにわかりましたと返事をした。
うーうーと唸っている金髪の頭をゆっくりと撫でてやる。
それから20分すると俺が小腹が空いたときに頼む軽食に紛れて一通りの準備をしてきた。
実によくできたメイド。
黒服も見習えばいい。
「坊ちゃんの食べて良いものはベーグルサンドのみです。コーヒーはご自由に」
「オートミールは金髪にか?食えるのか?」
「緩めにしましたし殆ど温かい牛乳です。何か口に入れるものを考えましたが何しろ急でしたので」
「悪いな」
メイド長は金髪の口に無理矢理オートミールを流し込んで、それから薬を押し込むと水で流した。
金髪は力が入らないのか口端からだらだらとオートミールやら水やら零している。
メイド長は容赦なく金髪の口にオートミールを流し込むし水もガブガブと飲ませた。
「・・・苦しそうだぞ」
「多少の無茶は承知です。旦那様に見つかる前に治したいんでしょう?」
「まぁ・・・」
「詰まらせたら吐かせますから。死にはしないですよ」
ものすごくたくましいな。
金髪がこぼした食事も汚したベッドも手早く後始末。
綺麗になったベッドで金髪はすやすやと寝始めた。
「旦那様の予定を確認しましたが本日は終日屋敷にいるようです」
「そうか」
「薬はここに。まぁ私が後で飲ませに来ますので坊ちゃんはしなくていいです」
メイド長はたんたんと病気に対する対処方を説明していく。
3日しても熱が下がらないなら親父に頭を下げてでも病院に連れていけと言われた。
わかったと言えばメイド長は大人しく下がる。
昼食のオーダーを改めて金髪が食べれそうなものも一応作ってもらうことにした。
「早く治せよ、親父に頭下げんのはごめんだ」
すぴすぴと鼻を鳴らしてる金髪の頬を摘んだ。
奴隷のくせに、手が掛かる奴。
***
目が覚めると身体が異様にすっきりしてた。
「起きたのか?」
「うん・・・お腹空いた」
「お前な・・・」
「いいにおいするんだもん」
黒髪はため息をついてから食事を持って来てくれた。
ほら、やっぱり準備してあった。
プレーンのベーグルにさっぱりしたチーズを塗って、黒髪はそれを俺の口に詰める。
「全く、手が掛かる」
「じゃあ自分で」
「いいから、食ってろ」
黙れとばかりに口へベーグルが押し込まれる。
しばらくはベーグルを咀嚼することだけを考えて、黙ってその作業に没頭する。
半分食べたところで温かいお茶が出てきた。
茶碗の中に花が咲いてる。
「俺のもう1つの祖国のお茶」
「なんか、くさい・・・」
「俺もそう思う」
「飲めるの?」
「飲める」
ゆっくり口を近づけてゆっくり飲む。
「に、がい・・・」
「良薬口に苦しって言うだろ?」
そう言うと黒髪は自分の口にお茶を含んだ。
あぁ・・・飲みたくないから遠ざけたのに。
あの唇は俺に飲ませようとしてる。
唇を指で割られて無理矢理苦いお茶が喉を流れる。
「ん゛・・・う゛ぅぅ・・・・・」
「ん・・・ははっ嫌そうな顔」
「苦い゛」
「俺はなんともない。うまいわけではないけどな」
こんな変なお茶に慣れてるのか。
大陸はおそろしいな。
「全部飲めよ」
「う゛」
「幸せになれるんだと。母さんからの土産だ」
「帰って来たの?」
「ンなわけあるか。送って来たんだよ」
「そう」
成金の家庭事情は貴族と違いすぎて驚くばかりだ。
母親の扱いにしろ奴隷の使い方にしろなんでも。
それでも息子に幸せになれるお茶なんか送るんだから、母親からの愛情は変わらないらしい。
「やっぱり全部は飲めない」
「飲ましてやろうか?」
「半分は飲んで」
「わがままなやつ。幸せになれないぞ」
「ふんっ。こう見えて俺は結構幸せなんだ」
「驚いたな。奴隷のくせに幸せなのか?」
黒髪を真似てニヤリと笑ってやった。
同じ顔をして笑う黒髪がベッドに入ってくる。
お茶は黒髪が飲み干して、お茶の味が残る舌が俺の舌を絡め取る。
ほら、結構幸せ。
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