23:足りないパズルピース

変態ナルシスト野郎に彼女がいた。
いや普通なら何も驚くことでもないしあぁそうかで終わる事なのだ。大体男にマジになるなんてのは俺等みたいに思春期に男しかいない場所に詰め込まれた奴のごく一部がそちらへ走るだけだ。つまり中学を外で過ごした奴等から見たら俺等が変だって自覚はある。
にしても俺は変態でもナルシストでも馬鹿でもアイツはこう、何というか人で遊ぶタイプには見えなかったから割と驚いている。ミツルは嘘が下手だしわざわざ嘘を吐く理由もないし。今だって町田とお菓子を貪っている。

「柏木君彼女いたのそんなに意外?」
「まぁ、それなりに」
「俺も意外!間々原君にマジなのかと思ってた」
「だよなぁ。ミツルとヤってたしなぁ。冗談じゃ抱けないよなぁ」
「ハァ?!」
「うわっびびった!いきなり大声出すなよ」

西が耳元で大きな声を出した。マジでびっくりした。何をそう驚くんだ?そういや言ってなかったか?まぁ別に言う必要もないんだからそんな顔する必要もないだろう。
ガシッと西は俺の肩を掴んでズイッと顔を寄せてくる。すごく気持ち悪いな。

「お前、ソレで許したのか?」
「許すって何が?」
「おまっお前、斎藤君が他と黙ってヤってたら蹴る殴るの暴行を加えてたじゃない!」
「え?アレはアイツがドMだからで」
「そうしたのはお前じゃん!」
「あー・・・そういやそうだったな」
「今度は犬にするって!」
「あ、忘れてた」
「忘れてた?!お前が?!」

犬ねー・・・綺麗さっぱり忘れてたな。
斎藤のはアレなんで殴ったんだったかな。ドMだからソレのが喜ぶと思ったから?無性にイライラしてたから?よく覚えてねぇな。

「で?お前は間々原君といつヤったわけ?」
「まだ。ケツ痛い言うからさ」
「ハアアアァァァァァ?!」
「お前うるせぇよ!」

あまりの大声にミツルと町田は愚か周りの奴等の視線が痛い。なんかキモい奴がすみません。
ついには頭を抱えて西はうんうん唸り始めた。

「うおおお・・・お前気持ち悪いな」
「今のお前に言われたくねぇよ」
「お前間々原君の何なの・・・」
「・・・・・友達?」
「キモい」

とりあえず殴った。キモいとはなんだ、キモいとは。ミツルがそう言うんだからそうだろうが。俺だってそう思っている。

「高岡、俺間々原君とヤっていい?」
「死ね」
「お前ね、ソレがどういう事が考えた方がいいよ」
「ハア?」
「あ、試合終わった。さすがだなー、圧勝」

話はそこで終わり。結局この後西がこの話を持ち出すことも無かった。



新人戦、終わって見れば準優勝。まぁさすがに強豪なのは俺達の学校だけではない。0-1で負けたのが悔しいのか変態ナルシスト野郎は些か不満そうな顔をしていた。
閉会式が終わると変態ナルシスト野郎はこちらへ走って来た。俺等と違ってコイツは学校から出てるサッカー部用のバスで帰る。その前に中学の友達に挨拶ってとこかな。

「また遊びに来いよ」
「当たり前ー!お前も休みの時帰って来いよ!」
「うん。また連絡する」
「早めに連絡しろよ。いつも幹事俺なんだから」
「はいはい」
「間々原ケー番交換しよ。んで今度帰って来たときにでも遊ばない?」
「う、うん」
「山田、早く帰って」
「お前ね、何でも俺に」
「山田」
「わかったから、わかった!渋谷、森!帰るぞ」
「あっちょ、あっ送信できた?じゃあまたね間々原あぁぁ!」
「ばいばーい!」
「ミツル、後で渋谷のアドレス消していいからね」
「そんなこと僕には出来ない・・・!」

変態ナルシスト野郎がミツルを連れて帰ってきた。顔がひきつっている。

「じゃあまた寮でね。俺バスだから」
「うん!」
「委員長も西君もヨシキ君も応援ありがとね。せっかく来てくれたのに決勝で負けちゃって」
「すごかったぞ、柏木!写メ撮った!」
「僕もムービー撮った!」
「ホント2人とも頑張って撮影してたよね」
「でもコイツ等より俺の方が真面目にサッカーを見たという自信がある」
「「「うっ!」」」

お菓子ばっか食ってたくせに。西だって20分ピッチを見て残りは町田を見てただけだった。
まぁ西はオマケで来たわけでそんなにサッカー好きでもないからな。しかしミツルと町田は終始ミーハーな感じだった。ルールすら分かってないんだから当たり前か。
変態ナルシスト野郎は俺等に手を振ってサッカー部が集まってる場所へ移動した。俺等も疲れたし早く帰らなきゃ飯食いっぱぐれる。

「今日のご飯は何かなー」
「確か魚の餡掛けだったよ。和食」
「魚・・・!」
「骨がない魚だといいね」
「うん・・・小さく切ってあったらいいな・・・」
「ってかミツルと町田はあれだけお菓子食べてたけど夕飯入るのか?」
「多分?」
「走って帰れば?」
「そうか。俺は電車で帰るからお前等道に迷わないようにな」
「そんな・・・!今のはボケただけだからツッコミ待ちみたいな!」
「町田っ!俺も走るよ!」
「俺西君みたいに体力ないから無理だよ・・・」

結局仲良く電車で帰宅した。
電車内では町田が思ったよりも疲れていたらしくうとうとしていた。かくんかくん首を揺らして、たまに西の腕に頭が当たる度に西が涙を流さんばかりに感動していた。
ミツルは興奮冷めやらぬ感じでひたすら話をしていた。適当な相槌しか打たないでいたらちゃんと聞けと怒られた。ちゃんと聞いてるっての、たぶん。



飯も終わり風呂から上がればランドリールームで変態ナルシスト野郎を見つけた。
話すこともないし通り過ぎようか迷ったが腹の底に溜まるイガイガしたものに気付く。柄にもなく話しかけてみた。

「なぁ」
「えっ俺に話しかけてんの?キモッ」

話しかけるんじゃなかった。

「何か用?俺は特にないよ」
「今日お前の彼女見た」
「彼女?あぁ、深雪?」
「下の名前は知らない。チアにいた」
「羽鳥深雪って言うの。それが?」
「お前、彼女いるのにミツルとヤったわけ?」

じっと変態ナルシスト野郎が俺を見る。
それからニヤリと笑った。

「それが何?」「お前っ」
「男しかいないこんなとこでヤりたくなったら誰かいた方がいいじゃん。俺はミツルなら抱けると思ったまで」
「ミツルに聞かせてやりたいな、ソレ」
「ヨシキ君がミツルに友達同士でセックスするなんて適当なこと教えたんでしょ?おかげでやりやすかったよ」

サッカー雑誌を読みながらナルシスト野郎は淡々と答える。まるでたいしたことでもないように。
コイツこんな奴だったか?

「それにヨシキ君に言われたくないな」
「ハア?」
「ヨシキ君って毎回同室の子に手出すんでしょ?他でもヤってるって、悪い噂ばっかり」

否定はしない。俺はそういう事をしてきたんだ。
捨てた奴等に罪悪感はないし終わった事だからもう気にしてはいない。アイツ等もそう割り切ってるはずだ。

「何も知らないとでも思った?ミツルは知らないだろうけど俺は言ってもいいよ」
「それなら俺もミツルに話すぞ」
「意味ないでしょ?深雪のことはミツルから聞いたんだろうし?それに俺とミツルは間違いなく友達だよ」

よっぽど殴ってやろうかと思った。でも今は昔のことをミツルに知られたくないし聞かせたくもない。
たぶん話を聞いて傷付くのはミツルだけだ。
全部分かったらミツルがどうなるかは安易に想像できる。まだ信頼なんて積み重なるほど得てはいないのだから。

「ふは、その顔は初めて見たなぁ」
「笑い事じゃない」
「笑い事だよ。だって俺は深雪とは別れてる」

・・・ん?

「そっかぁ、ミツルはまだ付き合ってると思ってたのか」
「待て待て、別れてるのか?」
「卒業式の前にね。色々な葛藤が俺にもあったわけ」
「じゃあ何で応援しに来てんだ?」
「さぁ?別れたことに納得していないが50%、新しい彼氏のついでが50%かな。まぁ山田にでも聞けば分かるかな」
「つまりお前は俺に嘘を吐いたのか?」
「そう。念のために言うけど俺ちゃんとミツルが好きだから」

変態ナルシスト野郎は憎たらしいほど爽やかに笑った。
つまり俺はコイツの嘘に乗せられていたのか。・・・最悪だっ!ムカつく!余裕なその顔を殴り倒したい!

「俺もヨシキ君の昔の話はミツルに黙っておくよ」
「そうしてくれ」
「でも中途半端なことをするぐらいなら、誰でもいいって言うならミツルには手を出すなよ」

真剣な顔をして変態ナルシスト野郎は俺を見据えた。脅し、なんだろうな。
中途半端、誰でもいいねぇ・・・。今の俺はどうなんだろう。
返事を待っているのか変態ナルシスト野郎は俺を見据えたままだ。

「わかったよ」
「そう。ならいいんだ」
「いいのか?」
「本気なら別に。ミツルは渡さないけどね」
「本気?」
「・・・は?」

今度はものすごい間抜けな顔をしていた。
西といいコイツといい何なんだ。失礼だな。

「ヨシキ君、ミツルのことちゃんと考えてる?」
「お前みたいに無理矢理突っ込まないぐらいには」
「う゛・・・!」

察するところ、どうやら俺は考えが足りないらしい。でも考えても考えても今の俺は何も分からない。
足りないピースはどこにあるのだろうか。



※無断転載、二次配布厳禁
この小説の著作権は高橋にあり、著作権放棄をしておりません。
キリリク作品のみ、キリリク獲得者様の持ち帰りを許可しております。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -