プール

真夏日。
と言うには少しじめじめしているがまぁ日焼けしすぎるにはマシだ。
仁くんは俺のパーカーをひっそりと掴んできょろきょろしている。
さすがに夏休み、そして休日。
人がいっぱいだ。

「はぐれないようにね」
「うん」

大人料金と中高生料金を支払ってロッカールームへ。
中で先輩一家と合流予定だ。
仁くんも誰かしらいないと俺と2人じゃ楽しくないだろうし。
それに先輩達も俺がいないと困るのだ。
理由はウォータースライダー。
身長が足りない下の子4人は乗りたくても誰かいないと乗れない。
カズくんはOKだとしてもダイくんじゃ保護者にはならないのだ。
しかしまぁカズくんやダイくんもいつまでも家族で出掛けるってね、いい家族だなぁと俺は思う。

「おじさん、ロッカー空いてた」
「荷物は一緒に詰めようか。カーテンブースいっぱいだけど・・・巻きタオル持ってきた?」
「うん!」
「じゃあここで着替えよう。着替えたら日焼け止め塗るからね」

少しはしゃぎ気味の仁くんは急いでタオルを出して着替え始めた。
いやぁ・・・新鮮だなぁ・・・。
あまり騒がない子だからはしゃいでるのを見ると嬉しくなる。
携帯を見れば先輩から中にいるとメールが入っていた。
俺も早く着替えようと思い新しい水着を手に取る。
ちなみに仁くんの水着も新しいやつ。
学校のでいいと言い張っていたが新しいのを買ってあげたのだ。
長めのトランクスタイプ、スポーツブランドのちょっとおしゃれなやつ。
遠慮してたけど買った後は大切そうに持っていた。

「着替えたよ」
「日焼け止め出して。前は自分でね。足も塗るんだよ」
「わかった」

よし、俺も着替え完了。
日焼け止めを手に取り仁くんの背中に塗る。
うわああぁいつるつるすべすべし消えろ邪念!
首の後ろまで綺麗に塗って仁くんの顔にも塗る。
よし完璧!

「お、おじさん、しゃがんで」
「ん?」
「塗ってあげる」
「ありがとう」

俺はTシャツを着るしウォータースライダー意外じゃ別に脱がないからいいやと思っていたんだけど。
ここは仁くんの行為に甘えることにした。
仁くんは小さな手で一生懸命日焼け止めを塗っている。
しゃがんだまま腕や足にも塗って、仁くんが顔にも塗ってくれた。

「ちゃんと塗れた!」
「うん。じゃあパーカー着て。先輩達が中にいるって」
「うん!」

些か早歩きの仁くんの手を引きながら先輩達を探す。
さすがに8人家族の大所帯、すぐに見つかった。

「廉兄ー!仁ー!」
「あっダイくん」
「こっちこっち!あっリュウ走るな!」
「やだー!」
「ははっリュウくん走ったら危ないぞー!」

走ってきたリュウくんを抱えて先輩達の元へ。
カズくんがナオくんに日焼け止めを塗っていて、マナちゃんとルリちゃんはお互いで塗り合いをしているらしい。
子供セパレートに子供ビキニ、お洒落なマナちゃんが選んだに違いない。
先輩は半裸で、達弥さんはTシャツを着て浮き輪を膨らましていた。

「・・・先輩ムカつくぐらい締まってますね」
「今年17の息子がいても俺はまだ31だ」
「今年32のオッサンがそんな締まってるとは思いませんでした」
「達弥はすこし弛んだよな」
「黙っててくれる?」
「大丈夫です、達弥さん。達弥さんはまだ若く見えます」
「滝沢はいい奴だなぁ。お昼たくさん作ったからたくさん食べてね」
「わあい!」

達弥さんのお弁当だ!
でも先輩の目が人殺しの目をしてるよ!
そんなに怒らなくても俺が達弥さんを好きだったのはもう随分昔の話じゃないか。

「おじさんって達弥さんが好きなの?」
「仁くん。それは今最も言ってはいけないことなんだよ。それにどちらかと言われたらまどかちゃんが好きだ」
「・・・おじさん、そろそろ警察に捕まるよ」

冗談が通じない・・・!
最近仁くんの目が冷ややかな時があるけど間違いじゃない気がする!

「仁くん、うちの子にならない?」
「駄目です!仁くんはうちの子ですー!先輩はもう6人も可愛い子供がいるんだからむしろうちに1人ぐらい」
「「誰がやるか」」

達弥さんまで人殺しの目をしてる・・・!
助けてカズくん!

「さっちゃんとたっちゃん以外が親とか俺考えらんねぇな」
「俺も俺も」

カズくんとダイくんにまで否定された。
仲良し家族め・・・羨ましい。

「仁くんは俺の家の子でいいよねー?」
「う、うん」

あ、少し照れてる。
その顔がみんなに見えないようにもみくちゃにしてやった。
思春期だものね。
からかわれたら可哀相。
まぁこの家族にそんな子はいないだろうけど。

「ママー早く遊ぼー」
「後少し待って。ナオの浮き輪もう少しで膨らむから」
「リュウのも!」
「ルリは浮き輪いる?」
「いらなーい。あたし泳げるもん」

先輩と達弥さんがまだ泳げない2人のために急かされながら浮き輪を膨らます。
・・・そう言えば仁くんは泳げるんだろうか。

「仁くんって泳げるの?」
「・・・息継ぎができない」
「後でおじさんと練習しようね」
「うん・・・」

浮き輪の準備ができたところで子供達はみんなプールへ走っていった。
ひとまず泳ぐらしい。
オッサン3人でシートに座るなんともむさ苦しい空間になってしまった。

「仁くん、前より笑うようになったね」
「最近会話が増えました」
「お姉さんは?」
「さぁ?未だに行方知れずです。まぁ便りがないってことは死んではないですよ」
「お前も大概適当だよな」
「姉は子供じゃないですから。俺は今仁くんを育てていくことで頭がいっぱいです」
「楽しそうだな」
「とっても楽しいですよ。最近は1日何をしていたかとか好きなテレビの話もしてくれます」

夕方の時間に好きなアニメがあったりドラマの再放送見てたり。
宿題でわからないところは聞いてくれるし夕飯に食べたい物を言ってくれるようになった。
今だってナオくんと一緒に流れるプールを楽しそうに流れてる。

「可愛いなぁ。俺も一緒に流れてこようかな」
「むしろ配管の中を流れろ」
「そうだね。煩悩が消えるかもよ?顔気持ち悪い」

これだから大人は嫌いだ。



達弥さんの作ったお弁当は豪華だった。
お重箱2段分のおにぎりと3段分のおかず。
ウインナーがタコとカニで、唐揚げとは別にリュウくんが好きなナゲットまで入れて。
仁くんが好きな卵焼きは甘いのとしょっぱいのを用意する手の込みようだった。
さすが達弥さん、子供達は大満足の様子だった。
カズくんとダイくんは足りないからと店で売っていた焼きそばとたこ焼き、アメリカンドッグまで食べていた。
いつか仁くんもあれぐらい食べる時期がくるのかな・・・。
俺としては仁くんは今でも少食だからもっと食べてほしいんだけど。
お昼ご飯を食べてすぐに遊ぶと具合悪くなるしってことでウォータースライダーに並んだ。
仁くんは身長ギリギリOK、マナちゃんはギリギリNGでむっつりとした顔をしている。

「なんでカズ兄と一緒なの?マジ最悪なんですけど」
「来年なれば1人で乗れるんだから我慢しろ」
「カズ兄と乗るぐらいなら廉兄とがよかった」
「お前ムカつくな」
「ハァ?こっちがムカついてんですけどー」

カズくんが今にも暴れだしそうだ。
マナちゃんは口が達者だからな・・・。
ナオくんは達弥さん、リュウくんは先輩、俺はルリちゃんと一緒だ。
小さい子から順に大人にあてはめたらカズくんはマナちゃんとペアになった。
仁くんとダイくんは1人で乗れるからとはしゃいでいる。

「頭先にして滑ろうぜ!」
「うん!」
「ダイ!変なことしないで座って滑りなさい!」
「仁くんもだよ!鼻ツーンてなるよ!」
「もっと他に注意することがあるだろうが!」

ダイくんと仁くんはしぶしぶ、本当にしぶしぶ座って滑った。
カズくんとマナちゃんは文句を言いながら滑って行く。
カズくんも大人気ないぐらい文句を言っていた。
俺はルリちゃんを抱えてスライダーに座る。

「頭から滑る?!」
「ルリちゃんは好奇心いっぱいだね。俺は怖いから座って滑りたいな」
「仕方ないなー!」
「ルリちゃん、腕を掴んでくれるかな?水着を掴まれるとお兄ちゃんお尻がでちゃうよ」
「あはははは!」

そんなに面白かっただろうかってぐらい笑われた。
ひゃーひゃー言い始めたんだけどこれルリちゃん大丈夫なの?

「はーい、押しますよー」
「えっもう?!うおぉっ!」
「きゃー!あひゃひゃひゃひゃひゃ!」

水の上を滑りゴツンと頭を着いてスライダーを滑る。
ぐるんぐるん回りながら滑る滑る。
暴れるルリちゃんを落とさないようにしっかり腕を締めて数回ぐるぐる回ってドボン。
ルリちゃんが苦しくないようにすぐに立ち上がる。

「ル、ルリちゃん大丈夫?!」
「ぶふー!廉次お兄ちゃんもう1回!楽しかったー!!!」

ドボン、ドボンとまた音がした。
達弥さんと先輩もナオくんとリュウくんを抱えてあがってくる。

「ママっ鼻が痛いっぎゅーってなるう゛ぅ!」
「ナオ大丈夫?」
「パパァ!リュウお尻が痛いよー!」
「ごめ、痛っごめん!」

下の子2人はもう乗らないと叫んでいる。
俺はルリちゃんを抱えてもう1度ウォータースライダーに並んだ。
実は俺もケツが痛いだなんて言えない。



ウォータースライダー2回目の後また流れるプールで遊んだ。
しばらくしたら雨が降り始め、さらには雷。
もう遊ぶどころではなくなった。
遊び足りなかったのかチビちゃん4人は不満そう。
仁くんもなんだかつまらなそうな感じだ。

「仁くん、かき氷食べない?」
「いらない」
「おじさんがたべたいんだ。何味がいい?」
「・・・レモンがいい」

屋内の売店でレモン味を1つ購入。
それを仁くんにあげたら触発されたリュウくんとナオくんが先輩達を連れて売店へ行った。
みんなで行ったということはみんな食べたかったらしい。

「天気悪くなっちゃったね」
「・・・息継ぎの練習できなかった」
「大丈夫だよ。また来よう?夏休みはまだあるんだから」
「また、また来れる?」
「うん。約束!」
「うん!」

笑った仁くんにレモン味のかき氷を少しだけもらった。
こんなに笑うなら何度でも連れてきてあげよう。




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