07:噂の男の子 side良樹

朝起きたら幸せそうに眠るミツルがいて、思わずうなじより少し下に所有印をつけた。
身体測定の時に体操服からだと見える位置に。
そんなことに気付きもしないでその所有印を見せつけてきたらいい。
コイツは俺の犬にする。
気分良く起こしてやると目をこすりながら起きたミツル。

「か、柏木君・・・痛いよ・・・」
「は?カシワギ君?」

問い詰めてみたが教えたがらなくて、カシワギ君情報は皆無だ。
マジ面白くない。
しかもやたら機嫌がよくてイライラした。犬のくせに。
しかし校舎につくとやたら不安そうで、クラスが違うと言えば唇をとがらせてしょぼくれていた。そんな顔はたまらなく好きだ。
帰りに迎えに行く約束をして別れた。

クラスはやたら知り合いが多かった。

「グッモーニン、高岡!」
「げ、西」
「げってなんだ、げって。喜べよ」
「またクラス同じなわけ?」
「また三年間同じかもよ?」
「勘弁してくれ・・・」

この西―西恭平という男はやたらにテンションが高い。よく言えばノリがいい。そして無駄に三年も同じクラスだっただけに様々なことがバレバレだ。

「お前今年犬にするっつってたよな?いい奴いた?」
「まあな」
「うわっ・・・その顔は味見したって顔だ・・・手早すぎだろうよ」
「うるせー。お前はどうなんだよ」
「俺はまだ」

西はチャラいくせに好きな奴には奥手過ぎる。町田って言ういかにも堅い真面目な奴がずっと好きだったりする。
適当に同室の奴とか西に気がある奴食ってるが町田とはメールしたり食堂で食事したりとかそれだけで満足らしい。
つまりセフレしか探さないのだ。
別にモテないわけではないのでセフレに困らない。今年はまだ目を付けてすらないってのは驚きだが。

「お前も毎年毎年趣向変えて躾するとか変な趣味だよなあ。キモッ」
「黙れ、チキン野郎。町田に手出すぞ」
「殺すぞ」
「冗談だ!テメッ目が本気なんだよ!」

瞳孔かっぴらいて脅すとかなんて奴だ。

「で、手出してどうしたんだ?その子」
「どうもこうもまだ味見しただけだしな。経験はないし感度はいい。それに絆されやすい」
「またいい子がいたもんだな。同室?」
「ああ。優しくしてやればすぐ懐くだろ。その後は簡単だからまあ二ヶ月かかんねぇな」
「そらいいこって。躾終わったらまた味見させてくれよ」
「いいぜー」

担任が来たのでそれぞれの席へ戻った。

「席について。今日から貴方達の担任を勤めます、土屋要です。担当教科は数学です。各自机にあるプリントを見て下さい。上から順に説明します」

担任はやたら厳しそうな面をした奴だった。適当な担任に当たればと思っていただけに残念だ。
プリント類の説明が終わり、各自自己紹介をした。知らない奴は五人ぐらいでどれもタイプではない。
委員長には西が立候補した。町田が立候補すると言っていたからが理由であり、動機は不純だ。
しかし他にやりたい奴なんていないから西で決まった。
身体測定のルート説明が終わると着替えて各自体育館集合と言うことでSHRは終わった。

「お前・・・委員長の仕事ちゃんとしろよ」
「さあ、どうだろ。俺委員会で町田に会いたいだけだし」
「責任感ないくせに・・・俺手伝わねぇからな」
「え?!副委員長やらないの?」
「誰がするかよ!!!」

俺は泣きつく西を蹴り飛ばして着替え始める。
そういやミツルも着替えただろうか。うなじの少し下は俺の知り合いなら誰でも知ってる俺の所有印。
誰にも渡しやしない。
それにミツルに友達ができるとは思えないしな。・・・自己紹介のクオリティ低いし。



着替えて未だに泣きつく西を引きずりながら体育館へ行った。
体育館へつくなりビシッとなった西は町田の元へ走っていった。

「町田っ!」
「あ、西くん」

温度差がありすぎだ・・・!
三年かけてこの温度差はどうなんだ?西がいたたまれない。

「町田委員長なれた?」
「うん」
「俺もなれた!委員会一緒に行こうな!」
「そうだね。委員会まだ先だけど・・・」

周りに素敵とか格好いいと言われてる西の面影はない。デレデレし過ぎだろうよ・・・。
町田にまたあとでと言われ戻ってきた西は嬉しそうだった。
アホめ。

西が適当な指示をして解散する。まずは視力検査だったか。

「西!おいてくぞ」
「ちょっ、冷たいんじゃないの、高岡くん!」

西を無視して視力検査のブースを探しているとミツルを見つけた。

「最初は身長だね、行こうか」
「うん!」

思わずひっつかまえてしまった。

「ぐぇっ」
「間々原?!」

ミツルの横には茶髪で俺ほどではないが背が高い、西を少し落ち着かせたような雰囲気の如何にもモテます俺みたいなナルシスト野郎がいた。

「ちょっと」
「ミツル、ジャージ持っていってたの?」

ナルシスト野郎は無視してミツルに話しかける。確かジャージは持って行ってなかったし、何よりこのジャージ・・・絶対ナルシスト野郎のだ。ミツルにはでかすぎる。

「ヨシキ!違うよ、寒かったから借りたの!」
「ふーん」

ミツルの腰に手を回し、弄る。明らかにミツルを狙っている目をしてるので威嚇だ。コレは俺の所有物。

「はーなーせー!」
「ソッチの彼は誰?ミツルのお友達?」

ミツルを腕におさめたまま勝ち誇った顔をして聞いてやる。

「柏木君だよ。柏木君!コイツがヨシキって言って僕のルームメイト!」

か、カシワギ君・・・?!
まさか、コイツが?

「初めまして、柏木一星です」
「どーも。高岡良樹です」

丁寧な自己紹介、いけすかないナルシスト野郎め。まさかミツルの知り合いがいるのは誤算だった。しかも夢に出たかなんかであんなにミツルは機嫌がよかったのだ。
コイツの存在は邪魔になる。と言うか気に入らない。

「そろそろ間々原を返してもらっても?急がなきゃクラスに迷惑がかかるから」

ナルシスト野郎はミツルを引っ張り、俺から引き剥がす。

「間々原は高岡君の事はヨシキって言うの?」
「う、うん。とっ友達だから馴れ馴れしく呼ぼうってヨシキが」
「そんな言い方はしていない」

もっと言い方があるだろう・・・!

「じゃあ俺の事もイッセイでいいよ」
「へっ?」

ミツルが固まった。

「ミツルと俺はずっと友達だったじゃない」

甘い言葉と甘い声にイライラする。

「ミツル、いいでしょ?」
「嫌がってんじゃねぇの?」
「君、うるさいよ」
「なんだと?」

このっナルシスト野郎・・・!ナルシスト野郎はミツルから目を離さずにいる。イライラするイライラする。
ミツルは口をぱくぱくさせて、ジャージの裾を握りしめている。顔は耳まで真っ赤で・・・アレ俺の時より緊張してね?

「わっわかっわかった・・・いっィ、イッセイ・・・」

体育館の床へ沈んだミツル。嫌な確信をした。ミツルが誰かを俺に見ていたがそれはコイツだ。
ナルシスト野郎はミツルを支えながら俺を仰ぎ見る。その顔には『ざまあみろ』と書いてあった。

「ははっ、そんな照れなくても」
「う゛ー・・・」

イライラするイライラするイライラする。
ナルシスト野郎は嫌味ったらしい笑顔を俺に向ける。

「じゃあね、高岡君」
「チッ」
「ヨ、ヨシキ!そんな態度!ヨシキと、そのっそのっ、い、イッセイも友達でしょ?」
「「え?」」

オイオイオイオイ、ミツル空気読めよ。どう考えても水と油だろうがよ。コイツと友達になるぐらいなら西とセフレになる。

「だって自己紹介したし、しゃべってたし・・・それに二人とも友達の方が僕も楽しいし」
「いや、あのなミツル・・・」
「ミツルがそう言うなら。ヨシキだっけ?これからよろしく」
「え゛」
「さ、ミツル。また委員長待たせたら悪いから早く行こうね」
「うん!じゃあね、ヨシキ!」
「あっ待てっ」

行ってしまった。冗談じゃないぞ!

「あらあら?不穏な空気?わんちゃんとられた?」
「西・・・」
「彼ら見たことないな、他校か。まっ残念だったね」
「何がだ」
「見たところあの二人いい雰囲気じゃん。彼氏格好いいし」
「アア?!あのナルシスト野郎のどこがだよ!」
「俺に怒るなよ!」

俺は怒りがおさまらない。所有印まで隠しやがって!

「わんちゃんなら他にしなよ」
「嫌だ」
「・・・」
「何だよ、何ポカーンとしてんだ」
「オイ、嘘だろ?ハア・・・別になんでもない」
「ンだよ、キモいな」
「今のお前ほどじゃないから」

そう言うなり西は先に視力検査のブースへ行った。
なんだってんだ。



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