刷り込みから始まるそれは恋

Present for ALL



俺は全てに自信があった。
容姿端麗、大学を首席で卒業、スポーツだってなんだってできる。
でも少しだけ、ほんの少しだけ欠点を言うなら俺は恋人と言うものと長く続いたためしがなかった。
どの女も俺と一緒にいると卑屈になると言う。
そんなこと知ったことか。
容姿端麗な俺が悪いのではない。
自分に自信がない女どもがいけないのだ。
俺は悪くない。
この春もそんな言い掛かりをつけられて大学生活終わり間際にできた彼女と別れた。
そして俺はなんとなく身軽になった気持ちで大手のコンサルティング会社へ就職した。
おおよそ1ヶ月の研修が終われば所属する部署の発表があった。
俺の所属する部署は第2事業部。
まだまだ少ない荷物を手にその扉を開いた。

「本日第2事業部へ配属されました柿崎知弘です」

簡単な自己紹介、さてさて俺に蹴落とされる1番目の犠牲者はどいつだ。
あ、違った。
俺の教育係は誰だ。

「あー・・・お前が柿崎か。俺お前の教育担当、澤匡な」
「よろしくお願いします」
「そこがお前の席な。とりあえず簡単な業務任せるから。分からない時に聞いて」

そして俺の前に置かれた資料と過去の仕様書。
これを見ながら案件に関する仕様書を作れと言うことらしい。
な、なんて適当な上司なんだ・・・!
何も教えずにとりあえずやってみろだなんて!
しかしこんなところでめげる俺ではないっ!
みていろ、澤匡。
お前は俺の踏み台になる男なんだ。
俺は自分用のパソコンに電源を入れると猛スピードでキーボードを叩いた。
仕様書の基盤を作り、内容を打ちこみ、そして事象を書きあげていく。
ここまででおおよそ2時間、どんなもんだ。
後はグラフを作成すれば終わ

「あ、仕様書は雛形あるから」

・・・なんて無駄な2時間!
しかしこれは完璧と言っていいほどに前の仕様書よりもクオリティが高いはずだ。
こんなチンケな雛形仕様書なんかより俺の作った仕様書の方が良いに決まって

「うちの会社さぁ提出書類は全部形式決められててさー」

こ、この野郎・・・!
俺の2時間をどうしてくれる・・・!
俺は仕方なく仕様書の雛形を呼びだして必要事項だけ入力した。
およそ15分で終了。

「できました。確認をお願いします」
「随分時間かかったなー」
「す、すみません・・・!」

畜生っこの野郎!
はっきり言おう、俺は澤匡が大嫌いだ!



いくら一緒に働いても俺は澤匡が好きになれなかった。

「柿崎、昼飯食べに行こうぜ」
「あ、俺今日は・・・」
「奢ってやるからついてこいって」

引きづられるようにランチタイム。
外へ出たから何を奢ってくれるのかと思えば行きついた先はコンビニ。

「ちょっと待ってろ」
「はい」

蒸し暑い中スーツで待たされる俺。
周りのOLの目が痛いぜ畜生、俺は今日も眩しい。
俺の眩しさとアスファルトからの熱に目眩がしてきた頃、ようやく澤匡はコンビニから出てきた。
手にはコンビニの袋。
これから昼飯なのに何を買ったんだか。

「よし、オススメのところに連れて行ってやる」
「はぁ・・・」
「俺を信じろ、いいところだぞー」

そう言って付いた先はだだっぴろい公園のベンチ。
俺の手にはランチパックとおーいお茶のパック。

「やっぱ天気が良い日は外で食うにかぎるよなー!」

なんだこれ何の仕打ちだ?
なんでこの蒸し暑い中ランチパックにおーいお茶なんてアンバランスなもん奢られてんだ?
やけくそになっておーいお茶のパックにストローを思いっきりぶっ刺す。
ランチパックがブルーベリーって言うチョイスもムカつく!
絶対お茶にあわねぇだろうがこの野郎!
っていうかなんでお前はおにぎりなんだ・・・!

「ランチパックうまい?」
「ほーれふねー」
「お前パン顔だからさー。サンドイッチにするか悩んだけどお前ランチパック顔だもんなー」
「へ、へー・・・そうですかねー・・・」

なんだそれなんだそれなんだお前!
容姿端麗なこの俺がランチパック顔ってなんだこの野郎!
楽しそうな顔しながら厳選おにぎりのシャケなんか食ってんじゃねぇぞ!
俺にそのシャケをよこせ!
パンにはさんで食べてやるから!

「あ、柿崎」
「なんれすか」

ちゅっ

「・・・」
「ジャムついてた」

な、な、なんか、なんか俺の口に触れた気がしたような。
ギシギシと首が音を立てるようにしてぎこちなく澤匡の方を俺は向く。

「ん?キスしたの初めてだったか?」

俺はその単語を聞いて雷にでも撃たれた気分になった。
ガタガタ音を立ててベンチからひっくり返る。
頭は真っ白、顔は真っ赤。
この男は俺になにを、なにを・・・!

「見た目に似合わねーぐらい初心なのな。もしかして童貞クンか?」
「なっ!違っ、ちゃんと挿入したことあ、ある!」
「白昼堂々何叫んでんだお前。周りを見て見ろ、綺麗なママがドン引きだ」

こ、この野郎・・・!
俺はおーいお茶を澤匡にぶつけて逃げるように会社へ戻った。

「澤、お前何Yシャツ汚してんだ?」
「いやー、公園でご飯を食べてたら可愛い子ちゃんがお茶こぼしちゃって」
「子供か?まぁ子供なら仕方ないか。替えのシャツないのか?」
「ないですよ」
「せめてタオルで拭いておけよ。給湯室にあるから」
「わかりましたー」

ニヤニヤしながら澤匡は俺を見た。
この野郎・・・!



その日から澤匡はやたらと俺にちょっかいを出すようになった。
毎日のように昼飯に誘い、そして決まって公園のベンチで飯を食べた。
カップラーメンを食わされたりコンビニのフライドチキンを素手で食わされたり冷えた焼きそばを食わされたりした。
俺の椅子に痔防止用クッションをタグが付いたまま置いてみたりファンシーなペン立てを置いたりもした。
そして今日は目付きの悪い猫のぬいぐるみが机に置いてあった。

「さ、澤さん・・・こーゆーの止めてもらえませんか?」
「その猫お前に似てると思って買って来たんだけど」
「どこがです!俺はもっとこう、格好いいっていうか俺は猫じゃないです!」
「にゃーって言ってみ?ほら」
「嫌です」
「上司命令。言ったらいいことあるぞー」
「・・・にゃ、にゃー」
「ぶはっ」

いいことがボーナスだったらどうしようとか思った俺死んでしまえ。
この男に何か期待すること自体が間違っているのに・・・!
笑っている澤匡の顔を見たくなくてファイルを立ててデスクに壁を作る。
ホント嫌いだコイツ。

「お前、ホント可愛いなぁ!」
「さ、触らないでください!あっちょ、ちょっと!髪がっ」
「ふ、ふははは!あーっははははは!」

俺の髪をぐしゃぐしゃになるまで撫で回す澤匡が俺は嫌いだ。
ワックスで流した髪がカッパみたいになった。
俺は澤匡の手を払ってトイレへ直行。
くそー、俺の完璧なまでのセットが台無しだ!
なんで俺はあんな奴が教育係なんだ!
同期はみんな着実に前に進んでいるのに俺は前に進んでいる実感が全くわかない!
髪を綺麗にセットしなおして、ついでに用を足そうと便器へ移動。
ファスナーを下して自身のモノを取り出すとゆっくり力を抜く。
綺麗に描かれた放物線、そして肩越しの視線。
・・・ん?

「柿崎のちんこ綺麗だなー」
「ひっ!」

俺の尿意は一気に引っ込んだ。

「あ、止まっちゃった。ごめんなー」
「ばっなっあっなっ何、なっ」
「ちんこ見られたぐらいでそんな驚くことか?」
「あっあた、当たり前っっていうか、退いて下さい!」

俺の肩に顎をのせて俺のモノをじろじろ見ている。
俺はあわてて自分のモノを中にしまおうとするけれど手が震えて上手くいかない。
くそ、なんで、中に入ってくれない!
澤匡はあわてている俺を尻目に俺のモノに手を伸ばす。

「ちゃんと出さないと身体に悪いぞー」
「あっ、ちょ、ななな、なっ何触ってっ、ぁん!」
「あらら?感じちゃった?」

澤匡は俺のモノの先っぽをぐにぐにと揉み、下腹部をぐいぐい押さえてくる。
途中で止まってしまっていた俺の尿意がじわじわと湧き上がってきて、俺は内股になりながら便器に縋りつく。
嫌だ、こ、こいつの前で、澤匡の前でそんな。
意地になって我慢していたら澤匡の手が俺のモノを扱き始めた。
俺はもうどうしたらいいのか分からなくなって大パニックだ。
終いには先走りなんか零し始めてもうどうしようもない。
誰か助けてくれ・・・!
って思ったのに誰も助けてくれないまま俺は射精、そして放尿。
し、死んでしまいたい・・・。

「全部出たかー?じゃぁ仕事に戻るぞー」

俺はこの日から例え小便であろうとも個室を使うようになった。



澤匡の嫌がらせはエスカレートしてきた。
エレベーターに乗れば尻を撫でるし、業務中に座っている俺の前を触ることも稀ではなくなった。
おかげて俺はどんなにクソ暑くても下半身をブランケットで覆うようになった。
さらには業務のほとんどを俺にやらせ、決まって残業をさせられた。
澤匡は俺に任せた仕事を手伝うでもなく、何もせずに俺を見ていた。
っていうかお前の仕事だろうが・・・!
なんで俺がやっているのをお前は見ているんだ・・・!
毎回毎回卑猥なことばっかり聞いてきやがって・・・!
残業中は澤匡と2人きり、最早質問に答えるのも止めた。
そして何も言わない俺に飽きたらしい澤匡は自身のパソコンへ向かった。

『あっあっチンポ気持ちいいのおぉ!』

大音量のその声にびっくりして俺は澤匡を振り返る。
澤匡のパソコンにはおぞましいほどに男と男が絡みあっている卑猥な動画がでかでかと映し出されていた。
かっ会社で、この男は、何を・・・!

「ふ、不適切な行為です!やめてください!」
「えー?だって柿崎をただ待ってるのつまんねーからさー」
「かっ帰ればいいでしょう!」
「一応教育係なんでそれができないんですねー」
「じゃぁ手伝ってください!」
「あれれ?柿崎くんはこんなことも自分でできないの?」

腸が煮えくりかえった。
俺は耳にティッシュを詰めて業務に励むことにした。
いつも以上にキーボードの音を立てて、キーが飛ぶほど思いっきりエンターキーを叩く。
ようやく業務も終盤、残りは今打ち込んだ書類の印刷だけだった。
印刷設定を確かめて25部印刷、あとは出来上がりを待つだけだと席を立つ。
立ったはずなのに俺は澤匡の膝の上にいた。
目の前には卑猥な動画、さらに耳からティッシュを引っこ抜かれて卑猥な声が耳に入ってくる。

「や、やめて下さい!」
「なぁ、想像してみろよ」
「は?!ちょ、離せっ」
「このヤられてんのがお前、これが俺な」
「嫌だっ!離せっ、嫌っひっ」

俺の尻にゴリッとしたモノが当たる。
俺はそれだけで腰が抜けてしまった。

「俺の、コレがお前のココに挿るわけ」
「ひっ、や、嫌だっ」

澤匡の指が俺の尻、その奥の窄まりをスーツの上から押した。
目は卑猥な動画、耳は卑猥な動画の音と澤匡の声に犯される。

「ココにちんこ挿れらて、気持ちいいってお前が言ってる」
「俺じゃなっ」
「ちゃんと想像しろよ、秀才なんだろ?」
「嫌だ、嫌っなんで」
「俺のちんこ、挿れられて、乳首触られて、舌で耳を犯されて。すげー厭らしい音がする」
「ひぃんっ!」

耳元で澤匡は卑猥な言葉を囁く。
俺の尻には澤匡のモノが当たっていて、俺が逃げようとする度になる椅子の軋み方が妙にリアルで。
目の前で気持ちいいと叫ぶ男が自分に見えてきて。
その男を攻める男が澤匡に見えてきて。
結果的に俺が澤匡と卑猥な行為をしているように見えてきて。
俺はどうしたらいいのかもう分からなくなった。
大体、俺にはこんな経験はないんだ。
女とだって、そこそこにしか、そーゆーことしたことなくて。
恋愛経験値も性的経験値もほぼ皆無な俺にはこんな高度な変態的行為への対処法が見つからない。

「は、柿崎勃起してる」
「ふひぃっ!嫌っ喋るな、嫌っ!」
「イけよ。いっぱい出せばいい」
「あっいや、嘘、あっうあぁぁっ・・・」

俺は目の前の動画を見て、澤匡のモノを尻に当てて、澤匡に言われるがまま射精した。
自分のモノには誰も触っていないのに。
スーツだって着たままなのに。
目の前の動画に映る男が自分のような気がしながら、目の前の動画の男が射精したのに合わせてスーツの中に射精してしまった。

「俺に犯されてるみたいだっただろ?」
「知らない、知らなっ」
「お前は俺に犯されてる想像だけでイったんだ」
「違っ、違う!そんな、そんなっ」
「お前俺に犯されてる想像でイった意味がわかる?」

俺は澤匡が何が言いたいのかわからなかった。
もう澤匡がわからない。
この男は何がしたいんだ?
今から俺に何を言うつもりなんだ?

「お前、俺のことが大好きなの」
「・・・大嫌いです」
「ま、ソレがお前の好きってことだ」

コピーはもう終わっているのに俺はその場から動けなかった。
誰かこの男を殺してくれ。




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