06:噂の男の子 side一星
入学早々ラッキーだ。
クラス表を見たら『間々原充』の文字。入学式で顔を合わせなかったからもしかしたらこの学園にいないのかと焦ってしまった。
偏差値高めのこの学園に入るために俺は校内推薦を勝ち取り、自分を売り込みまくって合格したのだ。それなのに間々原がいないなら通う意味がない。
「柏木君だよね?」
いぶかしむように俺を見る間々原。まともに話したのは初めてかもしんない。
「そうだよ?柏木一星、ほら本物でしょ」
間々原の手を取り、自身の頬へ手をあてる。うわあ・・・間々原の手ぷにぷにする。
顔面蒼白で鯉のように口をぱくぱくさせている間々原。
「そんな驚かなくても」
近くの椅子を引き寄せて間々原の近くに座る。
「いやさ、知り合いなんていないんだろうと思ってたら間々原がいるんだもんな、俺びっくりしたよ」
「あっあ、ぼぼぼ僕も!」
「ははっ間々原緊張しすぎだよ」
そんな間々原も可愛い。
「ごっごめんなさぃ・・・」
「謝ることないって」
そう言って頭を撫でるとぎゅっと目をつぶる間々原。なにこの小動物!
俺は間々原の席にある予定表拝借、今日の予定を確認する。
「SHRで担任挨拶の後ソッコー身体測定かあ。俺最近太った気がするんだよね・・・」
「全然!柏木君、いい身体してるよ!」
誘ってるのかな・・・!むしろここで抱いてあげようかな?!・・・生間々原に理性が持つ気しない。
「ははっ、ありがと。間々原はもっと食えー!腰細いぞ!」
「ひあっ」
間々原の細い腰を掴むと色っぽい声。・・・一番考えたくない答えが頭に浮かんだ。
「あ、あのっくすぐったい・・・です・・・」
「うわっ、ごめんごめん!」
「あっ、き、気にしないでいい、からっ」
「わかったわかった。じゃあまた後でな!身体測定一緒に回ろう!」
待て待て待て。この学園内か?うちの中学の奴か?見つけたらミンチじゃすまさない。俺は憧れの『間々原さん』の為にここまできたんだぞ・・・。誰かに渡してたまるものか。
そもそも俺が間々原を見つけたのは中一の文化祭で。うちの中学は公立だし、文化祭もさほど派手ではなくてクラス展示か舞台のみだ。
あまりのかったるさに遅れて舞台を見に行くと舞台ではダンス発表をしている。うまくもないダンスをポンポン持って必死に踊るセーラー服の小さな女の子。
一目惚れだった。
隣にふんぞり返って座り、寝ている山田を叩き起こす。
「山田!あの子だれ?いたっけ、あんな子」
「ハア?どれだよ」
「センター近くにいる、セーラー着た小さな子」
「ああ、アレ間々原じゃん」
そう言うなりまた寝始めた山田。とりあえず名前はゲットした。
楽屋の代わりになっている舞台袖近くで愛しの間々原さんを待つことにした。いてもたってもいられなかったのだ。
「つか間々原マジ激しかったよね!」
「そんなことっ」
「いやいやー。アレパンツ見えてたんじゃねえ?」
間々原さんが出てきた。俺は顔を上げて間々原さんを探すとそこにはキッチリ学ランを着た間々原さんがいた。
「間々原マジ女装似合ってたよな!セーラーで学校来いよ!」
「や、やだよぅ・・・」
女装?な、な、なななな・・・!
俺はそこから記憶がない。
男に惚れたショックもあったが『間々原さん』が忘れられず、『間々原さん』でヌいた。
徐々にエスカレートし、『女装した間々原くん』でヌけてしまった。
これはヤバいと思い、たまたま告白してきた女の子にOKを出して付き合ってみたがいざってなって勃たなかった。インポ疑惑がたたないように頭では『間々原くん』を犯し続けていた。
そして完全に間々原じゃなきゃダメになった俺は開き直った。性別?男?関係ない。
だって間々原が好きなんだから、それでいい。
そして秀才だった間々原と同じ高校に行くためになんとか校内推薦枠をもぎ取った。んで間々原の近辺を調べてここまで追ってきたと言うわけだ。
「出席番号6番、柏木一星です。よろしくお願いします」
自己紹介が終わっても一番考えたくない疑念がなくならない。声に艶があったもの・・・!
「しゅ、出席番号24番まままま間々原充ですっ!お願いします!」
あ、間々原噛んだ。頭が机にめり込んでしまいそうなぐらいヘコんでる。でもそんな間々原も可愛い。
「間々原、大丈夫?」
SHRが終わるとソッコーで話しかけた。生気が感じられない。
「気にしちゃだめだよ。ほら着替えよ」
「うん・・・」
いそいそ服を脱ぐ間々原に目がいってしまう。間々原の生うなじに背中・・・!
そしてキスマーク。
気がついたら間々原にまたシャツを着せていた。見てない見てない何も見てない。
チラリとうなじの少し下を見たら真っ赤な痕。つけた奴誰だコラ。
しかし丸襟の体操服ではキスマークっぽい痣が見えてしまう。そう、あくまでキスマークっぽい痣だ。
「ま、間々原ジャージ持ってきた?」
「ううん。体操服だけ」
「じゃあ俺の貸してあげる!外はまだ寒いからさ、ね?」
「う、うん・・・」
たいして寒くもないがごり押しだ。間々原に素早く体操服とジャージを着せ、手を引いて体育館へ向かった。
委員長が手を振る方へ走っていく。俺たちが最後の到着だったらしく、他の連中は委員長の周りにみんな集まっていた。
「それじゃ各自指定されたルートに沿って回って、終わったら教室待機!解散!」
委員長の言葉でようやく我に返った。ひとまずキスマークっぽい痣の事は置いておこう。
身体測定は身長からだったか・・・。
「最初は身長だね、行こうか」
「うん!」
歩き始めた瞬間、間々原が潰れた蛙のような声を出した。
「ぐぇっ」
「間々原?!」
背が高めの、生意気な目をして俺を見る黒髪短髪のいけすかない男。キスマークつけたのコイツだ・・・!
「ちょっと」
「ミツル、ジャージ持っていってたの?」
「ヨシキ!違うよ、寒かったから借りたの!」
「ふーん」
間々原の腰に手を回し、弄るヨシキとか言う奴。俺が調べた限りじゃ間々原を名前で呼ぶ奴も間々原が名前で呼ぶ奴もいなかったはずだが?
しかも俺を挑発してる。
「はーなーせー!」
「ソッチの彼は誰?ミツルのお友達?」
「柏木君だよ。柏木君!コイツがヨシキって言って僕のルームメイト!」
俺はとりあえずにっこり笑ってヨシキとか言うくそ野郎に挨拶をする。
「初めまして、柏木一星です」
「どーも。高岡良樹です」
「そろそろ間々原を返してもらっても?急がなきゃクラスに迷惑がかかるから」
俺は間々原を引っ張り、くそ野郎から引き剥がす。そして俺は売られた喧嘩は買う主義だ。
「間々原は高岡君の事はヨシキって言うの?」
「う、うん。とっ友達だから馴れ馴れしく呼ぼうってヨシキが」
「そんな言い方はしていない」
「じゃあ俺の事もイッセイでいいよ」
「へっ?」
間々原が固まった。
「ミツルと俺はずっと友達だったじゃない」
妄想の中ではもっと大変なことをした仲だよ。俺のちんこ好きって言ったじゃない・・・!
「ミツル、いいでしょ?」
「嫌がってんじゃねぇの?」
「君、うるさいよ」
「なんだと?」
間々原は口をぱくぱくさせて、ジャージの裾を握りしめている。顔は耳まで真っ赤だ。
「わっわかっわかった・・・いっィ、イッセイ・・・」
体育館の床へ沈んだ間々原を支えながらくそ野郎を見る。ざまあないな!
「ははっ、そんな照れなくても」
「う゛ー・・・」
俺は勝ち誇った顔を浮かべ、くそ野郎に微笑む。
「じゃあね、高岡君」
「チッ」
「ヨ、ヨシキ!そんな態度!ヨシキと、そのっそのっ、い、イッセイも友達でしょ?」
「「え?」」
まさかそんな、このくそ野郎と友達だって?土下座されてもごめんだ・・・!
「だって自己紹介したし、しゃべってたし・・・それに二人とも友達の方が僕も楽しいし」
だがしかしミツルの頼みならば別の話だ・・・!
「いや、あのなミツル・・・」
「ミツルがそう言うなら。ヨシキだっけ?これからよろしく」
「え゛」
「さ、ミツル。また委員長待たせたら悪いから早く行こうね」
「うん!じゃあね、ヨシキ!」
「あっ待てっ」
とりあえず出遅れてしまったが一歩前進。
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