ComingOut:66

バイブレーションにしていた携帯が机の上でガタガタ音を立てる。
約束通り補習課題を提出してきた佐藤と吉田と原田の採点は一時休止だ。

「何の用だ」
『冷たいなぁ』
「お前と違って俺は仕事だ」
『裕也が凹んでると思ったから電話してやったんだろ』
「なんだ?柄にもなく慰めてくれんのか?」

もう何年親友してるかわからない中村相真、あの中村冬真の兄だ。
熱さのかけらもないクセに自衛隊なんて似合わない職務についている。

『機嫌悪いな』
「まぁな。これでも失恋したばっかりなんだ」
『だから言っただろ?冬真もまだ子供なんだよ』
「そうだったな。あんまりにもお前に似てるから忘れてたぜ」
『あまり似てるとは言われないんだけど』
「性格が嫌味なほどそっくりだよ」

淡泊なところも一生懸命なところも強がりなところもそっくりだ。
赤ペンを手にとって採点再開。
佐藤の答案用紙は喧嘩売ってるとしか思えないな。
なんだこの意味不明な解答は。
動詞の後にdoなんてコレやる気以前の問題だろうが。

『まぁ意外に元気そうでよかったよ』
「何も元気じゃねぇよ」
『ショック受ける前にちゃんと教えてやっただろ?』
「お前が俺に言わなきゃもっとマシな別れ方ができた気がするんだよなぁ」
『そうか?』
「あーできたね。俺は大人だ」

全く、安い挑発にのったもんだ。
おかげで俺の3年分の片思いが吹っ飛んだぜ。
後少し我慢すればよかったんだけどなぁ。

「ハァ・・・17や18そこらのガキに負けちまった」
『吉田くんいい子だろ?』
「絶対嫌味な性格してるぞ、アイツ」
『俺は冬真が好きな子なら別にいいよ。会ったことはないけど。どんな子?』
「髪が長い・・・いや違うな、今日切ってたからな。ボブぐらいの髪で、運動神経がいいヤサ男だな」
『格好いい?』
「俺は好きじゃない」
『客観的意見を言えよ。お前の感想じゃなくて』
「モテるらしいぞ。生徒間の恋愛事情は知らないから詳しいことは知らないが」
『そうか。冬真会わせてくれるかな』
「本人に聞け」

佐藤は再追試決定だな。
・・・パっと見る限り原田もだな。

『ふふっ、お前には年上が合ってるよ』
「うるせー。俺より年上はもうオッサンじゃねぇか」
『オイオイ、俺等もアラサーなんだぜ?今年30なんだぞ、もう十分オッサンだ』
「言うな。悲しくなる」
『年甲斐もなく14歳の冬真を好きになったりするからだ』
「黙れ。もう切るぞ」
『そう怒るなよ。今度飯奢ってやるから』
「はいはい」

通話終了。
結局俺も吉田も冬真も相真の手の上で遊んでいただけなのだ。
年甲斐もなく親友の弟に手を出して、本気になんかなって。
志望校に受かったらって考えてのにウチを受験してた。
ガキってのはどうしてこんなにも真っ直ぐなのかと思った。
相真は全部知ってたくせに何も教えてはくれなかったし。
責任感じて突き放してみたけど余りに冬真が真っ直ぐなもんだから我慢がきかなかった。
だから冬真が卒業したらちゃんとしようと思っていたのに。
相真もそれを聞いて頑張れとか応援したくせに久しぶりに電話してきた相真はまるでくだらない話をするかのようにとんでもない事を言った。

『冬真ね、たぶんもうお前好きじゃないよ』

言われてみれば最近、3年になる少し前ぐらいからやたらに話題に出る奴がいた。
仲が良いぐらいにしか思っていなかった俺からすれば寝耳に水で、ましてや付き合ってるなんて聞いたらどうすべきか迷った。
大人な対応をしたのは冬真が俺を選ぶ可能性に賭けたからだ。
そうじゃないかもしれないと思ったら少しの焦りがうまれた。
そしてまた相真にけしかけられた。

『冬真ね、最近すごく楽しそうだよ』

全く、親友とは名ばかりだ。
弟と親友で遊んでいるとしか思えない。
結局俺は相真に遊ばれて吉田に負けて冬真とも綺麗さっぱり終わってしまった。
これだからガキは嫌いなんだ。
大人とガキじゃ月日の体感速度が違いすぎる。
どれだけ大人びたガキでも、あんなに淡泊な冬真でも、結局3年は長過ぎたのだ。

「原田も再追試決定だな」

原田は佐藤以下だな。
何をどうしたら穴埋め問題にコンマを書くんだ?
どうしてtoを2と訳すんだ?
是非一度脳みそをのぞかせてもらいたい。
次は完璧にすると言っていた吉田。
・・・完璧には程遠いな。
ため息をつきながら採点をしていたらノック音。

「どうぞ」
「失礼します」
「中西先生、どうかしました?」
「いや、ウチの生徒はちゃんと課題を出したかと思いまして・・・」

問題児を一手に引き受けている中西先生は大変だな。
俺のクラスは真面目な奴が多くて助かる。

「出しましたよ、ちゃんと」
「はぁ・・・よかった」
「まぁ再追試は免れないでしょうけど」
「す、すみません・・・!」

・・・中西先生老けたな。
一応同期だし同い年なんだが。

「中西先生、この後暇ですか?」
「割と暇ですよ。どうかしました?」
「久々に飲み行きません?奢りますよ」
「俺寿司食いたいです」
「ジンギスカン美味しいですよね、俺も好きです」
「寿司食い」
「ジンギスカン」

寿司なんか奢れるかよ。
公務員の安月給ナメるなよ。
つーか俺より中西先生のが貰ってるだろ。
多教科担当できる方が給料は高いんだから。

「じゃあジンギスカンで手を打ちますよ。ビールは付きますよね?」
「もちろん」
「堀切先生、何かあったんですか?」

おお、さすがに鋭いな。
持つべき者はあんな親友よりまともな同期だな。

「彼女にフラれました」
「え゛・・・」
「他に男ができたんですよ。負けました」

ちゃっかり英語科準備室のコーヒーを飲んでいる中西先生はいくらか驚いた顔をして俺を見た。
手を出せば俺の分のコーヒーが差し出される。

「うまくいってるのかと思ってましたけど。30なったらケジメつけるんじゃなかったんですか?」
「それじゃ遅かったんですよ」
「ふーん?どんな子だったんです」
「うーん・・・真っ直ぐで、実は一生懸命な子供でした」
「一応教育者でしょ、ロリコンは問題です」

中西先生はソファーに座ってコーヒーを飲む。
同期だから言葉こそ丁寧だが態度はでかい。

「堀切先生もフラれるんですね」
「中西先生もさっさと結婚したらどうなんです?」
「・・・今度一緒にお見合いパーティー行きませんか」
「絶対嫌ですよ、同期とお見合いパーティーなんて恥ずかしい」

それに俺は女に興味ないしな。
中西先生もそろそろ現実を見て女子アナは諦めるべきだ。
どこで知り合うつもりなんだ。
お台場に張り込んでも生野アナとは絶対結婚はできねぇよ。

「料理も掃除もできるのに俺はなんで結婚できないんですかね」
「だからじゃないですか?隙が無さ過ぎて」
「じゃあ堀切先生は隙だらけなんですね」
「そうですね。俺はアナルセックスしたいので」
「ブフォ!」

いつもみたいにふざけた下ネタに中西先生がコーヒーを噴き出した。
掃除をしてもらおうと雑巾を手に近寄れば未だに口からコーヒーを零している。

「服、染みになりますよ」
「ほ、ほ、ほほほ堀切先生も・・もしかしてホモですか?」
「・・・も?」

もってなんだ、もって。
え、あの噂ってマジなの?

「え?な、中西先生、ゲイなんですか?」
「ちがっ違う!俺はホモじゃない!断じて違う!」
「いや、いいですよ。誰にも言いません。噂もありましたし」
「噂?!ちょ、な、なんですか?噂ってなんですか!」
「いやーすごいカミングアウトを聞きました。まさか女子アナ大好きな中西先生がゲイだったなんて。うわー」
「誤解だー!!!」

中西先生・・・こんなに面白かったかな。
これでしばらくは退屈しないで済みそうだ。
面白いついでに合格ラインまで惜しかった吉田の採点だけは甘くしてやろう。
佐藤と原田だけはどう甘くしても再追試だけどな!!!




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