ComingOut:65

辛かったり悲しかったりすることって人間は割と覚えているものだと思う。
嫌なことってなかなか忘れられないし。
だから中村が嫌っていったらホリーから取り上げてやろうと思った。
ンでもって俺が中村といちゃいちゃしてやろうと思ったのだ。
そしたらきっと腹が立つし忘れらんなくなるんじゃないかなって。
教師となんて無理な話なんだから一生忘れらんないぐらいで満足じゃない。
遊ばれてるよりよっぽどいい。
そう思ったのだ。

「うーん・・・失敗した」

別れるとなってまぁ割とキツいものだと思った。
男と、ましてや友達と続くなんてありえないじゃない。
だって俺女の子好きだし。
おっぱい大好きだし。

「誤算だったな」

そう、誤算だ。
まさか自分が本気で男で友達の中村を好きになるとは思っていなかったのだ。
あー・・・欲が出た。
だからまぁホリー同様に中村にひどいことをしてやったのだ。
中村がホリーにバイバイして、そっから俺が中村にバイバイしてやれば傷付くと思った。
まぁ結果中村くん悩んだみたいだし?
結果オーライなんだけどね。

「ヨォ、元気か?」
「おはよ、中村くん」

イヤホンを抜かれて振りむいた先には中村くん。
久しぶりにまともに顔を見た気がする。
隣に座る中村はいつもの中村で、少しつまらない。

「なぁ、やっぱもう無理だわ」
「そう」
「わかってはいたがお前引きとめもしないのな」
「うん。引きとめてほしいかった?」
「ウザッ」

これで中村は嫌でも俺を忘れない。
中村は俺のiPodひったくってイヤホンを耳にあてる。
好きな曲は入っていないと思うけど。

「チッ、趣味あわねーな」

ほら、やっぱりね。
俺はポケットからガムを取り出して中村くんに差し出す。

「キシリトールだけど。食べる?」
「うん」
「トクホだよ、トクホ」
「俺は別に健康志向ではない」

あげたキシリトールガムをガリガリ。
俺も口に入れてガリガリ。
いつもと変わらないようで、でも間に壁がある。
思っていたより辛いのは俺が本当に中村を好きだった証拠だ。
気持ち悪いな。
偏見どうこう以前に自分が気持ち悪い。
男にマジだなんて笑えない。

「で、どっからがお前の手の内だ?」
「ん?」
「とぼけんな」

ギロリと睨まれた。
あらやだ、そんな顔どこで覚えたの?

「バレてないとでも思ったか、腹黒野郎が」
「やだー、俺何もしてないよ?」
「嘘吐け。少しずつ浸食してくれやがって」
「痛い!」

まだ切っていない髪を思いっきり引っ張られる。

「お前何考えてんの?くだらねぇことだったら殴るぞ」
「暴力反対!」
「お前の手の上で遊んでるなんてのは気分が悪い」

佐藤かしら?
下らないことしてくれるじゃない。

「誰かに何か言われたの?」
「佐藤」

嫌がらせしてやろう。
喧嘩で勝てる気がしないからなんかこう精神的な方面で行こう。
鈴木あたりを使えばいいに違いない。
ホント何してくれてんの。

「もういいじゃない。十分楽しんだでしょ、3ヶ月」
「お前はそれでいいって?」
「十分。もうやりたいこともないし?面倒だし?」
「テキトーな理由だな、ホント」
「ちゃんと考えた理由だよ」

いつも通りに見えて実は怒っているかも?
怖い怖い、早いとこ切り上げよう。

「いい加減離してくれない?痛いんだけど」
「お前ムカつく」
「それはどーも。いい性格してるでしょ?」
「ホントいい性格してると思うぜ」

髪から手が離れてiPodも返ってくる。
十分かな、これで。
もう用はない。
後は佐藤に鈴木をけしかけるだけだ。

「お前下らない奴だな」
「そう?」
「でも俺はお前が好きだ」
「俺も中村好きだよ」
「じゃぁ付き合えよ。別れるとかくだらねー事言わずに」
「嫌。面倒だもん」

ニヤニヤ笑っちゃって、何なの?

「佐藤は何も言ってないぞ、馬鹿め」
「うわ、そうなの?」
「結局くだらないこと考えてたんだろ。あースッキリした」
「はぁ・・・中村は手強いね」
「だろ?で、どうすんの?」

さて、どうしようかな。
折角うまくいったと思ったのに。
誤算だ、すごい誤算。
バレたらどうしようもないじゃない。

「ちなみに俺は辛いことはさっさと忘れていい思い出だけを大切に生きるタイプの人間だ」

先手を打たれちゃった。
ホントこの人何を考えてンの?

「別れたくないって素直に言ったら考えてあげる」
「やだね。誰が言うか」
「ホント、思い通りにならない人って嫌だなぁ」
「俺はお前が思っているより十分お前の思い通りになったはずだ」
「んふふ、そうだね」

俺と中村の駆け引きは引き分けだ。
だってお互いに好きなんだもの。
iPodをポケットにしまって、久しぶりに気持ちをだだ漏れにさせてキスをした。

「別れたい時にはいつでも言って。いつでも別れてあげる」
「まだ言うか」
「何?運命だとでも言ってほしかった?」
「見ろ、鳥肌。キモいぞ、お前」
「んはは!俺は中村のそーゆーところも好きだよ」

でも笑った顔が一番好き。
そう言ったらまた鳥肌立てて馬鹿にするかな。
昼休みも終わっちゃうから中村の手を引いて教室へ。
途中で鈴木を引き摺っている佐藤と原田を引き摺っている山下に会った。

「何してんの?」
「水族館に行きたいとかバカ言いだした」
「まだましだろうが。俺なんかTDLだぞ、TDL」
「吉田、俺動物園行きたい」
「いいよ。いつ行く?」
「「羨ましい!行きたい!デート!」」
「ふざけろボケェ!!!あんなクセェところに俺様が行ってたまるか!」
「鈴木くんが女装してくるなら俺は行ってもいい」
「・・・俺の女装、ひどいぞ?」
「するつもりなのか、お前。ドン引きしたぞ」

ぎゃんぎゃん騒いでいたら頭にファイルが落ちてきた。
振り向けば中兄とホリーが揃って仁王立ち。

「お前等・・・英語の課題はどうした・・・」
「期末テストまで残ってんのお前等だけだぞ。いい加減提出してくれ」
「ほら、堀切先生困ってるだろ!」
「英語嫌いなんだもーん」
「俺先生も嫌いなんだもーん」
「佐藤!お前、ちょ、堀切先生ホントすみません!」

佐藤の悪態に中兄がマジ切れしてる。
大人げないと言うかなんというか。

「明日完璧な状態で提出してあげるから少し待ってよ。ね、ホリー」
「絶対だからな」
「うん、ありがとねー」

ホリーはため息をついて、それから俺の横にいる中村を見る。

「お前、英語の勉強どうするんだ?」
「もう自分でできるしいいや。今までお世話になりましたー」
「そうか。頑張れよ」

ホリーの目が少しだけつまらなそうに見えた。
俺はすごく気分が良い。
ざまぁみろ。
一通り怒られた佐藤と原田も明日提出で手を打ったらしい。
できんのか知らないけど。
俺は中村くんがいるからできる。

「手伝わないぞ」
「そんな・・・!アテにしてたのに!」
「自分でやれ。お前の課題だろうが。俺は知らん」

冷たい言葉を吐きつけられた。
・・・俺も明日までに仕上がらない気がする。

「仲直りしたのか?」
「うまくいかないものね、人生って」
「でもうまくいったんだろ?いちゃいちゃしちゃってー。羨ましい」
「原田くんも気付いてたの」
「俺を誰だと思っている。空気読めるイケメンだぞ」

どっしり肩に乗りかかる佐藤と原田。
重いんだけど。

「髪、切ってやるよ」
「ありがと」
「佐藤より俺のがうまいよ?どっちがいい?」
「美容院かな。お金貸して」

さっきまでの重みが嘘のように軽くなった。
高校生のお財布事情は厳しいよね。
早速2年振りに美容院の予約でもしようかな。



「お疲れ様。禁煙しろよ」
「そうね」
「まぁうまくいったならよかったな」
「でも俺は今回のことで吉田だけは敵に回さないと決めた」
「あらら、どうして?」
「中村が吉田に本気なんだぞ」
「やだ、何それちょー怖い」
「だろ?」




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