ComingOut:64

屋上で隠れて喫煙タイム。
くそー・・・量が増えた気がする。

「禁煙してたんじゃなかったわけ?」
「失敗しちゃった」
「根性ねぇな」

扉を乱暴に開けて屋上に入ってくる中村くん。
機嫌悪そうな感じ。
あーやだやだ。
嫌な客が来ちゃったぜ。

「鈴木にチクるぞ」
「やめて。この間バレたばっかなの」
「バレたのかよ」

よし、決めた。
鈴木くんの誕生日から禁煙しよう。
未成年喫煙よろしくない。
隣に座った中村はなんだか疲れた顔をしていた。

「吸う?」
「お前の吸いかけでいい。1本はいらない」
「ん」
「サンキュー」

半分ぐらい吸った煙草を中村に差し出して俺は新しい煙草に火をつける。
中村は煙草をくわえたままふかしすらしない。

「何があったんだ?」
「んー・・・どう話せばいいのやら」
「結果だけでいい」
「・・・吉田と別れようと思う」
「そっか」

中村はようやくくわえたままの煙草を吸い始めた。
何を考えてそうなったのかは知らないがずいぶん悩んだに違いない。
顔ひどいし、特に目なんて重たそう。
でも吉田と中村のことだ、また今までのように何もなかった振りができるんだと思う。
今の状態を見れば何かあったとは思うが普段はわからなかった。
原田が多少違和感がある言ってたぐらいの違いしかなかった。
原田で多少の違和感なら俺や鈴木、山下は何も分かりはしない。
昨日もホテルでにゃんにゃんしてたもの。
隣の部屋が原田と山下っつーミラクルだったもの。
ホテルの廊下でコントかよってぐらいずっこけたもの。

「昨日ね、4800円のホテル行ったら隣の部屋原田くんと山下くんだったの」
「ホント馬鹿な、お前等」
「マジミラクルっしょ」

アレ、笑わないのね。
せっかく気分転換になるような話をしたってのに。
中村くんは相変わらず何か考えている顔をしながら指先を遊ばせている。
思ったより落ち込んでんのかしら。

「何?泣きたいの?ほーら、お兄さんの胸を貸してあげる」
「泣くか馬鹿野郎。俺は鈴木みたいに泣いたり喚いたりしない」
「大人なのね、可愛いくない」
「ノロケか?殴るぞ」

うわ、さらにイライラさせちゃった。
ホントわかりにくい奴。

「俺すごく鈍いから言われないとわからないんだけど」
「おーおー、自覚したのかハゲ。これを機に原田ぐらい空気読める鋭い男になってみろ」
「やだー、八つ当たりですかー?マジめんどくせぇ」
「お前この間俺を突き飛ばしただろ」

もう何も言うまい。
何コイツもうめんどくさい。

「ハァ・・・くそムカつく」
「めんどくせぇな。何?言えば?その口は悪態付くしか使い道がねぇの?」
「黙れ。今悩んでんだ」

顔面に煙が飛んできた。
サイテー。
マジ鈴木くんにまた文句言われちゃうじゃない。
煙草くさいとちゅーもセックスも拒否すんだぞ。
吸わないから匂いに敏感なんだぞ。
マジ犬並み。
俺がどれだけ匂い消しに時間を割いてると思ってんだ。
めんどくさいから中村が落ち着くまで放置。
ホントね、うじうじ悩むなんて中村らしくないと言うかなんというか。
何をいじけてんだか。
俺は指先で煙草を遊ばせて、頬をつついて煙の輪を飛ばす。
しばらくしたら落ち着いたらしい中村がようやく重い口を開いた。

「吉田がさ、」
「うん?」
「いつでも別れてあげるって」
「あらー・・・そんな事言われたの?」
「うん」

そらプライドが重傷よね、ドンマイ。
少しいじけて見えたのはどうやら気のせいではないらしい。

「ま、もういいさ。それだけだ」
「そう。随分あっさりなのね」
「俺が見苦しく縋りつくと思うか?」
「ないな」
「そーゆーこと。じゃあゴチ」
「いーえー」

中村は吸い殻をコンクリートに擦り付けて火を消すとそのまま屋上から出て行った。
ホント淡泊というかなんというか。
課程は知らないが結果はいつだってそうだ。
さて、俺はもう1人の相手をしようかね。

「もういいぞー」

呼べば壁の向こうから今話題の吉田くん登場。
実は俺よりも中村くんよりも先にいたのだ。

「何やってんだお前」
「ホントよねー」
「お前も吸う?」
「じゃあ、1本頂戴」
「肺に入れるなよ、むせられたら面倒だから」

新しい煙草を手にとって火をつけてやる。
吉田は吸わないからなんとなくふかすだけだ。
たぶん気を紛らわしたくて遊んでいるんだと思う。
だからいつも火は俺が点けてやる
吉田に煙草を渡して俺は自分の吸いかけの煙草をくわえた。

「げえぇ・・・メンソールキツっ。口がスースーする」
「馬鹿野郎。コレがいいんだろうが」
「フリスク食べながらコレって佐藤インポになるよ」
「気合いが足りねぇンだよ、リアルインポめ」
「黙れこの野郎!気合いでどうにかなるならとっくに勃起してんだよ!」

ついさっきインポなったかも言われたんだが・・・まぁ理由はだいたいわかった気がする。
このお馬鹿さんめ。

「お前ね、中村くんと別れたら意味がないんじゃないの?」
「関係ないでしょ」
「はいはい。もう俺はお前等わからん。何がしたいんだ」

煙草ふかして遊んでいる吉田は中村よりはマシな顔をしている。
フラれたら飯食えないぐらい落ち込む男がめずらしい。
妙にスッキリしてる。

「佐藤、俺の髪切ってよ」
「アレ?目的は達成したの?」
「もちー」

ちゃっかりだな。
まぁどんな形であれホリーが傷付いたなら俺としても気分がいい。
マジで嫌いだしね、ざまぁ。

「ふふっ中村くんは悩んだかしら」
「随分悩んでた様子でしたけど。あんまり虐めてやるなよ」
「虐めてないよ」

嘘吐け、どの口が言うんだ。
絶対追い込んだに違いないんだ。

「で?別れてあげるの心意は?」
「そのままの意味だよ」
「ハァ?じゃあマジで言ったわけ?」
「そうよー」

楽しそうに笑いやがって、何がおかしいんだか。
マジで腹ン中真っ黒だな。

「人はね、楽しいとか幸せなことなんかすぐ忘れるじゃない?」
「うん?」
「でも辛いことはずっと覚えるものだよ」
「で?そんなんが理由で中村と喧嘩した言うんなら俺はお前を殴るぞ」
「どうでしょー」

ムカついたから殴った。
ついでに根性焼きでもしてやろうかな。
瞼とかどうだろう、そうしよう。
くわえていた煙草を持って吉田に馬乗り。

「ごべんな゛ざい!根性焼きとか嫌!」
「なら早く仲直りしてこい」
「やだ!もう俺疲れたの!仲直りはしないっ!」
「ああっもうホントめんどくせぇ!お前等めんどくさいから嫌だ、俺」
「そんな言わないで。俺は佐藤くん大好きよ」

減らず口叩く吉田の唇に噛みつく。
血が出るほど噛んでやる。

「素直に落ち込んでると言え、馬鹿め」
「男の子は意地張って生きるものよ」
「ふん。できてねぇだろうが」
「ねぇ、佐藤くん借りたら鈴木くん怒るかしら」
「鈴木には俺の一生をあげたんだ。5分ぐらいだったら何も言わないんじゃないか?たぶん」
「んはは!たぶんかよ!」

この後笑いながら俺の肩に吉田の頭が乗った。
そして少しだけ吉田が泣いた気がした。




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