甥っ子

昔から自分は生まれちゃいけなかったんだと思っていた。
若いお母さんとおじいちゃんとおばあちゃん。
お母さんは毎日働いていたしおじいちゃんもおばあちゃんも僕がいたらすごく気を使っていた。
そんな中で生活してて、いつの間にか遠慮ばかり覚えてしまった。
だけどおじさんだけはいつも優しかった。
たまにしかいなかったけど、朝から晩まで僕のわがままに付き合ってくれた。
おじさんにはたくさん、たくさんわがままを言った。
公園で砂遊びもプールも三輪車も全部おじさんだけがしてくれた。
だから僕はおじさんが好きだった。
しばらくして、僕とお母さんはおじいちゃんとおばあちゃんの家を出た。
それからはお母さんの恋愛が終わる度に、何度も何度も転校した。
きっと、お母さんには世界は狭かったのだ。
そして僕を抱えていることでそれはさらに狭くなっていた。

「ねぇ仁。仁はおばあちゃん達とおじさん、どっちが好き?」

だから僕はお母さんについて行かなかった。
お母さんにはテレビの中に煌めいて見えたあの外国へ行ってほしかった。
それに僕も選んだのだ。
僕は自分で望んでおじさんのところに来た。
別にお母さんに捨てられたわけではない。
おじさんだったら迷惑がらずに僕の面倒見てくれると、僕を好きでいてくれると思ったんだ。
でも違った。
お母さんに言われた場所について、変わらない笑顔を見て僕がどれだけ嬉しかったか。
きっと僕にもその笑顔を向けてくれると信じておじさんに声をかけた。
おじさんはすごく驚いた顔をして、それから少し嫌そうな顔をした。
こんなに悲しいことはなかった。
お母さんのとこに帰りたかった。
でも泣いたらもっと嫌な顔をされるから、だから我慢した。

それからなるだけ迷惑をかけないようにしておじさんと過ごしている。
おじさんの顔は前みたいに明るいものに戻ってきていて、僕が好きだったおじさんの顔になってきていた。

「ねぇねぇ仁くん。夕飯は何がいい?うどんとかどう?すだち好き?」
「別になんでも・・・」
「あっそれともスパゲティがいい?おじさんミートボールスパゲティ作れるよ!あのディズニーのやつ!」

そして僕は気付いたのだ。
おじさん・・・ただのロリショタコンじゃない?
昔も僕を好きでいたから遊んでくれたとかじゃなくてただ僕が小さかったからが理由なんじゃないの?
今現在すごく絡みたいの耐えてるようにしか見えないんだけど。
ぶっちゃけ宿題の邪魔なんだけど。

「おじさん・・・近いんだけど・・・」
「あっごめんね!」

僕はいつもリビングで宿題をしている。
理由は僕の机はないから。
教科書とか自分の荷物を置くようにとカラーボックスだけを買ってもらったけど。
本当はおじさんに机もベッドも買ってくれる言われたけどいらないと言った。
だって、マンションは少しだけ広い2DK。
俺の分のベッドや机を置いたらおじさんのパソコンデスクが使いにくくなるし部屋だってどんどん狭くなる。
おじさんのベッドはセミダブルだし、一緒に寝ても狭いとは思わない。
それに、もう少しだけ、もう少しだけ隣に寝ていたい。

「宿題なんて昔忘れてばっかだったなー」
「おじさんが?」
「うん。仁くんのお母さんもね」
「なんだかわかる気がする」
「毎日男の子と喧嘩して泣かしたり宿題忘れて怒られたり。あっ絵の具セット忘れたからって俺の絵の具セットを教室から取っていったこともあるよ」

お母さんは昔から自由だったんだな。
楽しかったのかな。
僕は・・・あまり楽しくないかな。
おじさんにまで持て余されたくはないから、それが少し怖かったりする。

「仁くん、寂しくない?」
「なんで?」
「俺管理職だから帰宅時間ばらばらだし、それに休日出勤もあるから1人多いでしょ?」
「平気。慣れてるから。お母さんも帰って来るの遅かったし」

お母さんは水商売とスーパーでパートをしていた。
1人にしたくないと店に連れて行かれたこともあるし店の託児所にいたこともある。
あの頃は何が寂しいのかも辛いのかもわからなかった。

「仁くんはね、子供なんだよ?子供の仕事はわがままを言うことなんだ」
「うん?」
「だから少しぐらいわがまま言ってもいいんだよ?遠慮なんかしてたら楽しくないでしょ」

そうおじさんに言われて、頭を撫でられる。
少しだけ目に涙が溜まった。

「こ、この間、小テスト満点だった」
「へぇ!すごいね!何のテストだったの?」
「国語、・・・と理科」
「2つも満点だったんだ!偉い偉い、将来が楽しみだね」

あぁ、僕にも褒めてくれる人がいる。
僕の将来を楽しみにしてくれる人がいる。

「今日はもう無理だけど、明日にでもアイスを買ってきてあげる」
「アイス?」
「そう!小テストが満点だったらアイス、テスト満点でケーキにしよう」
「う、うん」
「だから今後はちゃんとおじさんに1番に教えてね?」

にっこり笑ったおじさんは僕の大好きな笑顔をしていた。
あぁ、言っていいんだ。
おじさんはちゃんと僕を見てくれている。
なんだかむず痒い。

「今日、夕飯スパゲティがいい・・・」
「うん。ミートボールたくさん入れてあげる」

おじさんの手が離れて、ほんの少しだけ寂しかった。
おじさんは鼻歌を歌いながらすぐ近くのキッチンへ行く。

「仁くん!お皿は1つでいい」
「分けて」
「わけがないよねぇ・・・そうだよねぇ・・・まどかちゃんならしてくれるのにっ!」
「おじさん・・・もしかしてまどかちゃんに何かしてるんじゃ・・・」
「断じてしてない!まだちゅーまでの清い関係だから!」
「してるじゃない!ちょ、おじさん犯罪だからね!」

うわっマジドン引きした!
あんな小さいガキに何してるのこの人!

「誤解しないで!おじさんは性犯罪者じゃないよ!」
「ギリギリアウトだよ!ダメだよ!」
「まどかちゃんがちゅーしてくれるだけで俺からはしてないよ!」
「必死過ぎて逆に怪しいからね!」

おじさんの近すぎる顔を押しのけて宿題に戻る。
この人いつ不審者とか性犯罪で捕まってもおかしくない。
おじさんもミートボールスパゲティ製作に戻った。
肉の焼けるいい匂いがしてきたあたりで自分の宿題も終わる。
きちんと後始末をしてテーブルの上も掃除。

「おじさん、何か手伝おうか?」
「じゃあ手伝って貰おうかな。はい、味見」
「味見?」
「うん。味見も大切な手伝いだよ。熱いからちゃんとふーふーしてね」

うーん・・・すごい子供扱いだ。
僕はもう中学生なんだけど・・・。

「美味しい?」
「うん」
「そう。じゃあ完成!フォークとスプーンを出してくれる?」
「うん」

棚からフォークとスプーン、それから少し大きな皿を出す。

「お、おじさん」
「ん?あ、お皿はあるよ?」
「あの、さ、皿・・・これでいい」
「お腹空いてるの?」
「い、い、一緒でいぃ・・から・・・」

キッチンに皿を置いてリビング(と言ってもすぐそこ)に逃げる。
お、思い切ったことをしてしまった・・・!
絶対顔は真っ赤に違いない。
しばらくしたらおじさんがこっちに来た。
恥ずかしくて顔が上がらない。

「はい、できたよ。仲良く食べようね」
「う、うん」
「大丈夫!ちゅーはしないよ!」

そう言われて一層恥ずかしくなった。
それなのにおじさんはまた楽しそうに笑うから余計に恥ずかしかった。
やっぱり僕はまだまだ子供なんだと思った。
悔しいけどね。




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