ComingOut:60

昨日の夕飯は焼き肉で、それはそれは楽しかった。
いやー・・・ビビンバうまかった。
あの店行くと絶対頼むんだよね。
山下もあの店だったらビビンバ食べるし。
基本的に熱いもの食べないからな。
焼きたての肉だって深めの皿にタレを多めにもらって浸すんだぜ。
後は別皿に冷えるまで放置している。
何を食べているのか不思議で仕方なくなる食べ方をしているが本人はうまいと言うから何も言うまい。
とりあえず注文係を佐藤に任せて肉やらサイドメニューやら片っ端から頼んだ。
鈴木なんかご飯を大盛りで3杯食うから佐藤が悩んでいた。
よく食べてよく動く典型的なもやしだからな。
頑張れ、例え自分の倍は食べる嫁でも養うんだ。
あ、違うな。
佐藤はヒモ希望だから鈴木が養うのか。
それだけ飯作るのが面倒なのか。
まぁこの辺はいつも通りだったのだ。
事は終盤になってから起こった。
中村がデザートを全種類注文なんていう暴挙に出た。
バカみたいに頼んで結局まぁ全部食べたんだけども。
その時に、本当に些細なことなんだけども、いつもなら吉田が中村にあーんてするわけだよ。
んで中村も特に気にすることなくあーんてしてるわけだよ。
そこで、一瞬、中村の目が泳いだ。
ただそれだけなんだけども。
でも確かな違和感だった。
その違和感に固まった俺は佐藤から鼻にストローぶっ刺されて我に返ったわけだが・・・まぁ気にしてみればおかしい事はたくさんある。
最近佐藤もイライラしてるし(鈴木のせいだと思ってた)なんとなくの差でしかないが中村が吉田に目を向けない。
今だって傍目には仲良くおしゃべりしているように見えなくもない。
だけどなんか変だ。
たぶん俺のカンが正しければ吉田と中村に何かあった。
そしておそらく佐藤は何か知ってる。
そのカンを正しいか確かめる為に佐藤の手を取る。
その手を口に当てて、オマケでリップ音。
ベロリと指を舐める。

「気持ち悪い」
「あだっ」

殴られた。
舐めたのがよくなかったらしい。
しかしまぁコレでハッキリした。
何かあった。

「鈴木くんに嫌われるぞ」
「黙っといて」
「どーしよっかなー」
「マックで手を打て。昨日焼き肉奢らされたから金がねぇ」
「チーズバーガー3つね」

佐藤の指からは煙草の匂いがした。
口臭はフリスク、服はダウニーで匂いは誤魔化せているが指はなかなか消えない。
石鹸で洗えばなんとかなるがハンドクリームじゃどうしようもないわけで。
どうやら洗い流すのを忘れていたらしい。
まぁ石鹸でごまかしていても髪に鼻埋めればだいたいわかるけどね。
全く・・・禁煙失敗ですか。
焼き肉屋で口触ってたからもしかしてとは思ったんだけど。
これでいつもと違う感じがしたのは気のせいではなかったと言うわけだ。
俺のカンはなんてよく当たるんでしょ。

「深く突っ込んでくれるなよ」
「わかってるよ」
「はあぁ・・・お前も単純だから俺は楽だ」
「も、ってことは鈴木くんが含まれてるわけね」
「山下もだ」

確かに。
俺は雑に生きてるから細かいこともごちゃごちゃしたことも嫌いだ。
俺からしてみれば佐藤も大分面倒な部類だと思うが。
頭が悪い奴等は単純に生きてるのよ。
溜め息をついてる佐藤の視線の先はやっぱり何事もなかったように一緒にいる吉田と中村で。
なんとなく、本当になんとなく、ピリピリした空気を感じるけど他には何もない。
憶測だけなら中村の浮気が一番しっくりくる。
でも吉田は中村が浮気したぐらいじゃ怒らないしな。
多少の嫉妬はするが独占欲はないらしい。

「佐藤くん。どうして君は嫉妬しないのかね」
「恋愛感情がないから」
「鈴木くんが別れたいと言ったらどうするの?」
「元の友達に戻るってのが理想、でも鈴木も俺もソレは無理。だから離してやらん」
「放し飼いのくせに逃がしはしないわけね」
「俺天才ブリーダーだから」

可哀相な鈴木くん。
コイツのどこがよかったのかしら。
顔だけだろ、顔。
顔だって死んだ魚の目してんだろうよ。
肌だってなんか青白いだろうが。
絶対俺の方が格好いい。

「俺のがイケメンだ」
「ちょっと、なに人の心読んでんの?」
「しおりちゃん、俺と原田どっちが好き?」
「えー・・・佐藤くんかなー」
「だよねー」
「しおりちゃんひどーい。弥生ちゃんは俺だよねー?」
「えー原田くんチャラいからなー」
「そんな・・・!」
「でも最近佐藤くん遊んでくれないから原田くん」
「目を覚ますんだ弥生ちゃん!」
「フッ!ざまぁ!」

近くにいたしおりちゃんとやよいちゃんに意見を伺う。
そう言えば佐藤最近女の子とも遊んでないよなぁ。
ホントコイツこそ鈴木でよかったのかしら。

「・・・佐藤、手」
「あ・・・」

ふと唇に手を当ててしまうのはヤニ切れサイン。
無意識らしい。
いやはや、随分と我慢していらっしゃるようで。
それだけ吉田と中村の仲は深刻なのかしら。
傍目にはわからないけど。
終わるにしろ終わらないにしろ早く済めばいい。
俺だって無関心を装うにも限界があるからね。
佐藤程でないにしろ俺だって今の関係が崩れるのは避けたい。

「見てみろよ、原田」
「んー?」
「鈴木が山下に鼻フックしてるぞ」
「あのドM野郎!綾平の顔になんてことしてんだゴルァ!!!」
「あはは、イケメンが台無しだな!」

あぁ、毎日これだけ平和ならいいのに。
紙の上の平和ばかりが目に映る。




※無断転載、二次配布厳禁
この小説の著作権は高橋にあり、著作権放棄をしておりません。
キリリク作品のみ、キリリク獲得者様の持ち帰りを許可しております。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -