お姫様#

俺の誕生日、なのに一番浮かれていたのは大地だった。
日付が変わった瞬間、誰よりも先に祝ってくれた。
もう何年も前から俺の誕生日は大地が一番始めに祝ってくれている。

「はっぴばーすでーみっきやー!」
「・・・真夜中にケーキって」
「序の口!明日は俺が手作りしてあげる!」

イチゴの小さなショートケーキに2つのロウソクが刺さっている。
俺はめでたく10代を終えてしまった。
あぁ、後は細胞から何から退化するのか・・・肌のケアをしよう。

「消して消して!」

大地に言われてふぅっと息を吐けば2本のロウソクは綺麗に消えた。
消していた電気をつけてケーキからロウソクを抜く。

「あぁっだめだめ!今日は俺が全部するから!」
「ロウソク抜くぐらいいいだろ」
「だめ!みきちゃんはいつも俺のお姫様だけど今日はもっとお姫様なの!」
「・・・日本語を話してくれないか」

頭にティアラを乗せられては大地の膝の上に移動。
なんだこの羞恥プレイ。
とりあえず俺は何もしてはいけないらしい。
ケーキすら自分で食べてはいけないらしく、口元に差し出されたフォークに刺さるケーキを咀嚼するだけだ。
なんともむず痒い。

「はい、あーん」
「あー・・・ん。うん、うまい」
「そか。よかったー」

あぁ、恥ずかしいと殴ってやろうと思ったのにそんなに笑われたらどうしようもない。
くそー・・・20歳になったらまずはシャンパン解禁しようと思っていたのに。

「シャンパン飲みたいとか考えてるんでしょ」
「・・・そんなことはない」
「嘘ばっかり!駄目だよ、寝酒はよくない!」
「でも買ったし・・・」
「明日とは言ってももう今日だけど、夕飯はシャンパンに合う献立にしてあげるから、ね?」
「・・・久々にスペアリブが食べたい」
「作ってあげる。はい、あーん」
「あーん」

大地が作るスペアリブのためにシャンパンは明日まで我慢しよう。
おいしいかとか明日他に何が食べたいかと聞きながら俺の口にケーキを運ぶ。
しばらくすれば小さなショートケーキは全て俺の胃におさまった。

「明日のケーキはイチゴとチョコ、どっちがいい?」
「チョコにイチゴ入れて」
「またむちゃな・・・」
「お願い」
「頑張ってみるよ」

大地はケーキの皿を片付けにキッチンへ。
その隙にティアラを外してやろうと思ったけどなんとなくやめた。
そのまま近くに置いてた映画雑誌を取って、大地が持ってきたアイスココアを飲む。
こんな時間にコーヒーは飲めないからな。

「みきちゃんみきちゃん、眼鏡はずして」
「何すんの?」
「美容パック!母さんにもらったんだー」
「俺の肌はいたって健康だ」
「ひんやりするよ?絶対気持ちいいから!」
「気持ち悪かったら取るからな」

眼鏡をはずして少し上を向けばべちゃりと美容液たっぷりのパックが乗る。
まぁ確かにひんやりはしてるし気持ちはいいが健康な肌に使うものではないだろ。
今度はそのまま風呂場へ移動。
浴槽に腰掛ければ今度は丁寧に足を洗われる。

「・・・おばさん韓国にでも行ってたのか?」
「アタリ!ちなみにみきちゃんのお母さんもだよ」
「え、聞いてない」
「俺もたまたま聞いたんだよ。韓国帰りに店に来たから」
「お土産は?」
「辛ラーメンたくさん」
「食べたい!」
「駄目!辛ラーメンはまた今度!明日までは俺が考えた献立!」
「うわわわっ!ちょ、くすぐったい!」

大地に擽るように足を洗われる。
この野郎!
調子に乗ってる!

「やめろ!」
「ぎゃんっ!」

ギリギリと鼻を摘まんでやる。
季節外れの赤っ鼻にしてやって、ついでに頬まで赤くしてやった。
大人しく足を洗っている大地は心なしか笑っているようにも見える。
眼鏡がないからイマイチわからないけど。
俺は足まで洗ってもらって、パックまでされて肌はつやつやだ。
・・・思ったより肌が荒れていたことは多少ショックだが。

「はー・・・生き返った気分」
「じゃあ次は歯磨きを」
「さすがにそれは自分でやらしてくれ」
「え゛え゛えっやだやだぁ」
「気持ち悪っ!でかい図体で何甘えてんだ!」
「歯磨きしたいっ指で磨きたい!」
「お前最早何がしたいのかわからねぇよ!」

ぎゃんぎゃんうるさい大地は無視して歯を磨く。
・・・恨めしそうに鏡越しに俺を見ないでほしい。
俺的にはティアラをつけたままで歯を磨いているだけで大分譲歩しているんだ。

「・・・歯磨き」
「・・・・・ぺっ」
「みきちゃっちょっ顔が!可愛い可愛い顔が大変なことに!」
「あぁ、すまない。少し軽蔑しただけだ」
「け、軽蔑・・・!」

口を濯いで歯の健康チェックも完了。
大地も口を濯いで歯の健康チェックをしている。
歯の健康チェックは幼稚園からのクセだったりする。
なんか虫歯予防の為だった気がする。
よく覚えていないがおかげさまで大地も俺も未だに虫歯はゼロだ。

「じゃ寝ようか。明日2限からでしょ?一緒に行こうね」
「んー・・・」
「なんか用事でもあった?」

大地は自分の部屋のドアノブを握ったまま俺を覗き込む。
全く、こーゆー時ばっかり紳士ぶりやがって。

「なぁ、一緒に寝ない?」
「え?!」
「ちなみに俺は明日は1日中家でごろごろする予定なんだけど」
「うおぉぉ・・・理性の壁が危うい・・・!」

ドアに額をつけて唇を噛みしめている大地の後ろへ移動。
最近また厚くなった胸板に腕を回して背中に張り付く。

「今日の俺は?」
「お姫様です!」

どうやら理性の壁はあっさり崩れたらしい。
吐くほど甘い俺の誕生日は始まったばかり。

「明日サボりなら3回は余裕だよね?」
「待て待て待て。お前の3回に付き合ってたら俺の腰がだな」
「誘ったのは?」
「・・・」
「お姫様、でしょ?」

にっこりと笑う大地を見て、俺は顔が引きつった。
どうやら俺が誘ったのは王子様ではなかったらしい。
あぁ、失敗した。
せめてこの王子様モドキがお姫様に優しいことを祈るとしよう。



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