1つの林檎

アダムとイブが食べた禁断の果実は何だったのか。
よく絵では林檎で記されるあの果実。
そして俺達は林檎の罠にかかるのだ。

「身体は大丈夫なのか?」
「うん、平気。風邪で入院ってのが大袈裟なんだよ」
「おばさんに家で倒れたってきいたけど?」

昔から体が弱くて、いじめられ俺に守られていた幼なじみ。
高校生の頃に身長こそ抜かれたが二十歳を過ぎた今でも身体は弱いままで。
大学にも満足に行けず、入学はしたものの一年と立たずやめてしまった。

「大学はどうなの?」
「内定ももらったし、後は週末に卒論だして終わり」
「さすがだね、ユタカはすごいな」
「他にやることねーから」

俺は見舞いに持ってきたフルーツ篭をベッドに置く。

「何が食べたい?剥いてやるよ」
「じゃありんごとバナナ、メロン」
「オイオイ、そんな食べれんのか?」
「あっオレンジといちごも!」
「はいはい、わかったわかった。」

俺の前じゃいつも無理して食べてるのを知ってる。
少しでも強くみせたいって意地。
いつも後々胃薬を飲んでいるのを知っている。
バカな奴。
俺は指定されたものを一つずつ、ただしメロンだけはカットして残りは冷蔵庫に。

「俺も食っていい?」
「ならもう少し剥いたら?」
「そんな食わねぇよ」

全て一口サイズにしてトレイに並べていく。
プラスチックのフォークも取り出して渡してやる。

「ほら、よく噛めよ。あんまり果物ばっか食べるのもよくねぇんだ」
「ありがとう」

身体を起こしたイツキにカーディガンをかけてやる。
少しでも無理をするとすぐ悪化するからだ。

「ありがとう」
「かまうな。別にいいよ」

俺もプラスチックのフォークを手に取り、アイツが無理する前に食べ始めた。
少しずつ、それでも確実に胃に収めていく幼なじみ。

「・・・俺あとどれぐらい生きていられるのかな」

林檎を食べながらボソッと呟いた。

「知るか。変なこと考えるんだったら寝て忘れちまえ」
「思うんだ。満足に働けもしないし、一年の半分は病院で過ごしてさ」
「何言ってんだお前」
「いつか、いつか・・・ユタカに会えなくなったら」
「イツキ!」

涙ぐむイツキを怒鳴ると目をパッチリ開いた。
目から涙がこぼれる。

「1年、365日毎日俺に会ってるだろ?」
「ごめん」

涙を拭いてまたもそもそと林檎を食べ始めた。

「でもね、でもいつまでも一緒じゃない」
「は?」
「いつかユタカだってかっ彼女とか作って、結婚しちゃう」
「・・・そんなんイツキだって同じだろ」
「同じじゃない!」

唇をかみしめて俺を睨むイツキ。
手は震えて、目には涙をためて。

「ユタカは俺とずっと一緒じゃない!いつかいなくなる!でも、でも俺はユタカがいなきゃ生きていけないし、俺・・・ユタカと一緒にっずっと一緒にいたいんだ・・・」
「イツキ・・・」
「ごめん。・・・忘れて」
「イツキ」
「嫌だ嫌だ!もういいよ!もういい!」

下を向いたまま顔を上げないイツキ。
涙をこらえて、おそらく病院生活で情緒不安定になっている。
いつも入院すると癇癪を起こすのだ。

「ずっと・・・ずっとユタカが好きだった」
「俺もイツキが好きだよ?」
「ユタカの好きとは意味が違う!」
「イツキ、お前」
「嫌だよ。ユタカと離れたくない。ユタカがいないと嫌だ」

イツキは俺を抱きしめて、離そうとしない。
痛い程に身体を抱きしめられて、身動きもとれない。

「イツキ、離れろ」
「嫌だ嫌だっそしたらユタカがいなくなる」
「イツキ」

強く名前を呼べば身体がはねて、俺から離れた。
顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで。
昔と何ら変わらないイツキの泣き顔。
俺は迷わずにその泣き顔に口付けた。

「・・・え」
「なんだその顔。キスが下手とか言うなよ、したことなかったんだから」
「だ、だって」
「俺はずっとイツキのそばにいるよ」
「うっぅぅ・・・」
「泣くなって」
「でも、俺といたらユタカが大変だよ」
「慣れたよ。どうにでもなる」

涙が溢れる瞳を閉じて、イツキから俺に優しい口付け。
唇は震えていて、長い長いキスをして。
再び瞼を開いた時には泣き止んで鼻水すすりながら笑うイツキがいた。

「俺っ、ユタカ幸せにするからっ」
「バーカ。そら俺の台詞だろ。イツキは家にいて俺を待ってろ」
「うんっ!」

そしてまた長い長いキスをした。
俺の旦那様は病弱でひ弱な彼。
だから俺が働いて旦那様を幸せにする。
たくさんの時間を一緒に過ごせるように。

「続きは退院してからな」




※無断転載、二次配布厳禁
この小説の著作権は高橋にあり、著作権放棄をしておりません。
キリリク作品のみ、キリリク獲得者様の持ち帰りを許可しております。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -