先輩と先輩の子供たち

我が姉ながら素晴らしいと思った行動力。
仁くんが来た翌々日には残りの仁くんの荷物が届いた。
差出人のところに書かれた住所は姉と仁くんが住んでいたアパート。
一応アパートに行ってみたけど案の定すでに引き払われた後、もぬけの殻だった。
姉の職場に問い合わせて見たがやっぱりいなかった。
仁くんに学校の事を聞けば普通に公立中学に通っていたそうなんだがそれだと俺の家からじゃ通えない。
宇宙飛行士はどうしたんだって思うよりも先にやることはいっぱいだ。
友達のことも考えて俺が引っ越そうかと思ったのだが仁くんは転校すると言った。
別に絶対会えない距離でもないから構わないって。
気を使ってるとは思ったけど通勤距離を考えると俺も今の家の方がいい。
そーゆーわけでいきなりすぎる転校になってしまった。
制服だってないし通学鞄も指定のものを買わなきゃいけない。
だって人と違っていじめられたりとかしたらもうおじさん学校乗り込んじゃうよ!
とりあえず会社の先輩の息子さんが通ってるから心配はないとは思うんだけど・・・。



校長室で校長先生と担任の先生にに挨拶。
よかった、優しそうな先生だ。

「じゃぁよろしくお願いします」
「お願いします」

仁くんを連れて校長室を出るとダイくんが待ってた。
噂の先輩の息子さん。

「廉兄疲れてんね。GW終わったんだぜ?シャキッといないとさっちゃんに怒られるよ」
「そうだね・・・君のお父さんホント鬼なんだ」
「さっちゃんに言っとくね」
「やめて!大学から知ってるけど一応上司なんだよ!俺今日時間休もらうのも大変だったんだから!」
「そらそうでしょ。わざわざ中学転入初日にあいさつなんかしにこないし。この前も来たじゃん」

仁くん冷たい。
だって仁くんがちゃんと中学校通えるか俺心配だったんだ!

「仁くんだっけ?今日家来いよ」
「うん」
「駄目だよ。俺定時で帰るから」
「無理だと思うよ。さっちゃんが廉兄に残業させるって朝言ってたもん」

中学入学祝いしようと思ってたのに・・・!
あの人っ、こ、この野郎・・・!

「仁くん何組だった?」
「1年4組だって」
「俺3年1組だから寂しかったら俺ンとここいよ!」
「うん。じゃぁおじさん会社いってらっしゃい」
「うん!俺頑張ってくるね!」

残業なんてさっさと終わらせて帰るんだ!
そしてあわよくば先輩より先に帰って達弥さんのご飯を御馳走になるんだ。
大丈夫、下心とかちょっとしかないから。
待ってて、先輩の子供たちと達弥さん!
俺先輩は怖いけど皆は大好きだよ!!!

なーんて思ってたのがバレたとしか思えない量の仕事が降ってきた。
人事だからこの時期仕事多いのはわかってるんだけどね。
でも配属場所通知を作るのは俺でなくてもいいと思うんだ。

「先輩・・・これ俺じゃなくても・・・」
「黙れ。この時期に休みがほしいとか言うからだ。GWもお前何連休取ってんだ」
「だって・・・」
「お前のせいでマナと約束してた買い物に行けなかっただろうが!また口聞いてくれないんだぞ!」
「それ俺のせい!?埋め合わせとかしたらいいじゃないですか!」
「お前は小学6年生の女の子がどれだけ難しいか知らないんだ」
「達弥さんには懐いてるじゃないですか」
「黙れこの野郎。お父さんは大変なんだ」

先輩がものすごくイライラしている。
や、やつあたりだー!
部長のくせに!
人事部部長のくせに!
子供とうまくいかないからって部下に八つ当たりしてるよ!
もっとマナちゃんに嫌われちゃえ。
そんなこと考えてたら頭にファイルが落ちて来た。

「痛い!パワハラですよ!」
「・・・お前今俺の悪口を考えてただろう」
「なんでわかったんですか」
「お前は昔からそーゆー時ムカつく顔してるんだ」
「痛い!」

もう日常風景になってるこの行為を咎める人は誰もいない。
皆でまたやってるよーぐらいにしか思っていない・・・!
俺が所属している人事部は先輩で成り立ってるしな。
この人子供引き取るって決めてから頑張ったんだよ、ものすごく。
社労士の資格とったり企画ばんばん出したりして会社にいなきゃ困る人なんだ。
だからゲイでも誰も文句言わないし若いのに部長できてるしすごいなーって思うけど怖い。
達弥さん騙されてるよ、この人と結婚したの間違ってる!
部下にパワハラするんですよ!
入力ミスしたらめっちゃ怒るんですよ!

「佐々木さん、ここ間違ってるよ」
「あ、すみません」
「いいよいいよ。直しておいてね」

アレ、俺にだけ?
分かってるけどね、分かってたけどね。

「先輩」
「つーかお前先輩言うな。ココ会社」
「遠藤部長」
「なんだ」
「今日の夕飯なんですか」
「今必要か?ソレ」
「俺のモチベーションにかかわります」
「何だったかな。リュウがエビフライ食べたい言ってたからエビフライなんじゃないか?」

わーい、俺めっちゃ頑張れる!
達弥さんのエビフライをリュウくんとナオくんに挟まれて食べよう。

って思ってたのにまだ終わらない。
マニュアルの用意が終わらない。
今年度から新しくしたマニュアルを各部署で分けてるんだけどね。
明日配るから用意しなきゃいけないんだけどね。
でもこれも俺じゃなくていいと思うんだ。

「達弥さんのエビフライ・・・」
「下心もって達弥に近寄るな」
「持ってないです、たぶん」
「うわー・・・上司の奥さん狙うとかひくわー」
「達弥さんだって俺の方が・・・!」
「ないな」
「ですよねー・・・」

達弥さんは浮気とかしないっていうか先輩が大好きだからな。
っていうかそれよりも仁くんがいじめられてないか心配だ。
カズくんが仁くんにハァハァしてたらどうしよう!
リュウくんに鼻フックとかカンチョーとか悪戯されてたらどうしよう!
小学1年生なんて学校行き始めはろくなこと覚えてこないんだ。

「あ、滝沢」
「なんですか?」

差し出されたケータイ、達弥さんからのメールらしい。
仁くんもいるから先にご飯食べてるってメール。
添付されている写真にはめっちゃ笑ってる仁くん。

「可愛い・・・!仁くん可愛い!笑った顔初めて見た・・・!」
「お前、懐かれてないんだな」
「そうですね、先輩とマナちゃんみたいな関係です」
「昔はパパっ子だったんだ・・・!」

机をダンッと叩いて先輩は沈んだ。
思ったよりダメージがでかいらしい。

ようやく仕事を終えて先輩と2人で仲良く先輩の家まで帰宅。
全然嬉しくない。
先輩の家について中に入ればお風呂あがりのリュウくんが出迎えてくれた。

「パパお帰り!」
「ただいま。いい子にしてたかー?」
「おう!廉次お兄さんこんばんは!」
「こんばんは。ちゃんと挨拶できて偉いねー」

先輩に抱えられたリュウくんは満足そうだ。
先輩に案内されてリビングに行けば皆リビングに勢ぞろい。

「ほら、やっぱり残業させられてたっしょ?」
「本当だな。久しぶり、廉兄」
「カズ君また大きくなったね。お兄さん抜かれちゃったかも」
「もうたっちゃんよりは大きいよ」
「滝沢久しぶり!ちょっとまってね、ご飯温めるから」
「達弥さんこんばんは!俺待ってます!」
「相変わらずだなぁ。聡はスーツ皺になるから着替えて来て。リュウおいで」
「あの、仁くんは・・・」
「今ナオとお風呂入ってるよ」

お風呂だと・・・?

「ナオが珍しく人に懐いてね、相手してくれてる・・・ってか聞いてる?」
「はい!仁くんお風呂ですね!俺少し見て」
「こなくていいでしょ。やめて、気持ち悪いよ」

達弥さんにすごい顔された。
俺めっちゃ傷付いた。

「その趣味をとやかく言うつもりはないけど・・・っていうか顔どうにかしなよ」
「いや、子供たちが可愛いくて仕方無くて」
「マナ、ルリ、廉次お兄ちゃんに近づいたらいけないよー」
「「はーい」」
「そんな・・・!」

先輩には懐いてないけど達弥さんには懐いているマナちゃんとルリちゃんが俺から距離をとった。
ついでにカズくんとダイくんも距離をとった。
4人で仲良く心理テストをして遊んでいるらしい。
お兄さんも混ぜてほしいなぁって思ってたのに・・・。

「廉次お兄さん、ごはん!」
「ありがとう、リュウくん」
「今日はな、リュウが好きなママのエビフライなんだぞ!」
「そうなのかー、お兄さんもママのエビフライ大好きなんだー」
「うまいぞ!」

リュウくんからエビフライが乗ったお皿をもらって達弥さんが温めてくれた味噌汁とご飯をいただく。
先輩もリビングに戻ってきて、一緒にエビフライを食べる。
あー・・・この喧騒が幸せだよなぁ。

「俺この家に住みたい」
「お前みたいな息子はいらん」
「俺パパでいいです」
「え、殴ろうか?」
「聡、子供たちの前でそんなこと言わないで。見えないところで言って」
「すみません。後で寝室でやります」
「そうして」
「見えないところで何かされる・・・!」

達弥さんが子供向けに作ったタルタルソースでエビフライ食べてたら仁くんの声がした。
リビングに入ってきた仁くんは大きめのパジャマを着てナオくんの手を引いている。
一言で言うならドストライク。

「ちょっと、顔」
「滝沢、気持ち悪いぞ・・・」
「あ、おじさん来てたんだ」
「うん。いじめられなかった?」
「皆優しくしてくれたよ」
「そうかー、よかったなー」
「ってかおじさん、顔気持ち悪いんだけど」

俺の心が重傷を負った。




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