21:ランドリールームでの1時間弱

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新人戦を間近に控えての練習、いつもよりハード。ようやく練習が終わって甲斐さんの合図が出るのと同時に一斉にウェアを脱ぐ。汗だくでべちゃべちゃになったウェアなんて誰ひとりとして1秒たりとも着ていたくないのだ。

「お前等風邪とか引くなよー」
「先生こそ気を付けなよ!」
「教師が半裸でうろつかないでよ!」
「先生だってお前等と一緒で暑いんだ!」

夏木先生もジャージを脱いでロッカーに入ってくる。教員用のシャワーブースもあるのだが夏木先生はもっぱら部室棟のシャワールームを使っている。部活に慣れて来てだんだんわかってきたが夏木先生は生徒と仲が良い。先輩達なんかもう友達感覚で接している。

「柏木、シャンプー貸して」
「先生―・・・もう置いてたらいいじゃないですか」
「教員用のシャワーブースから持ってくるのが面倒で」
「ホント面倒くさがりですよね!」

シャンプーを夏木先生に渡して自分もシャワーを浴びる。
今年のゴールデンウィークは学生には優しくない三連休×2、ほとんどの生徒は実家に帰らずに寮に残っている。ミツルは前半の三連休で実家に帰ったらしいが今回は寮に残っている。中等部からこの学園に通っている委員長や西くんや変態野郎はわざわざ帰るほどでもないと寮に残っている。俺は新人戦間近で実家に帰れるような身分ではない。これでも部活動推薦で入学した部活動特待生なのだ。
シャワーが終われば肌のケア。この時期のケアを怠ると身体中が大変なことになるからそれはそれは入念に。夏木先生にシャンプーを返してもらってからシャワーブースを出る。
べちょべちょのドロドロになったウェアや靴下やアンダーをビニールバックに全て放り込んで寮へ帰宅する。少し急ぎ歩きになっているのはミツルが待っているから。朝から委員長と出掛けているのだ。本当は俺も行きたかったんだけど半日練習じゃどうしようもなくて行けなかった。最近はミツルや委員長と会う時間より部活やっている時間の方が多い。部活が強化指定だから午後は練習とかそーゆーのも普通にあったりするのだ。

寮についてとりあえず洗濯。ちょうどランドリーにいた先輩と一緒に洗濯ものを放り込み洗濯機を回す。先輩に後よろしく!なんて言えるわけもなく終わるまでの1時間弱はランドリーにいる羽目になった。

「ミツルと委員長待ってるかな―・・・」

帰ってきたらとりあえずミツルの部屋に行く約束だったんだけど。ガンガン音を立てながら回っている洗濯機を見つめて早く終われとばかり考える。

「あれ、柏木君じゃん」
「あ、西くん。部活おわったの?」
「今日は俺等練習ないんだよねー。柏木君と違って新人戦レギュラーじゃないの」
「バスケはレギュラーの人数がサッカーの半分ないじゃない」
「それでも柏木君ならレギュラー取るでしょ」

ソレには愛想笑いを返す。たぶん取れてはいただろうけど今はバスケ部じゃないからバスケ部のレベルなんてわからないし。
西君は大量の洗濯物を洗濯機に放り込んでからスイッチを押す。

「同室の子の分も?」
「そうそう。何日か分まとめてやらないとやってらんないじゃん」
「俺毎日だよ・・・。同室もいないのに・・・」
「サッカーは泥がねー、お疲れ」

バスケ部もウェア消費は半端ないとは思うんだが泥が付いていない分まだまし。サッカーなんて放置してたらバスケ部の倍ぐらいのスピードでカビっていうかなんか腐ってくるんだ。
西君も洗濯が終わるまで待つらしい。雑誌拡げて俺の横に座っている。

「そういえば委員会どうだった?委員長と一緒に行ってたよね?」
「うん。1年代表の委員は町田だよ」
「さすが委員長。生徒会長になるんだもんねー。西君も生徒会はいるの?」
「うーん・・・入りたいなぁとは思うけど選挙がダルい。公約とかわかんないし」
「西君責任感に欠けてるもんね」
「あ、わかるー?」

本当は委員長をやっているのも柄ではないらしく、何事も程々に適当らしい。そのしわ寄せが変態野郎に来ているらしいのだがなんだかんだ真面目らしいので全部やっているらしいのだ。俺の場合は全部委員長がやってくれているので俺を含めミツルも何も仕事はない。

「あ!やっぱいた!西君も一緒!」
「ミツル!委員長も!部屋で待っててくれればよかったのに」
「さっき帰って来たの!グラウンド寄ったらもういなかったから!」
「それからついでに洗濯もしようかなーって」

ミツルと委員長も一気に洗濯ものを放り込んでいく。そして西君が一気に無口になった。

「ヨシキまだかな」
「ヨシキくんも来るの?」
「うん。洗濯一緒にやっちゃおうとおもって」

しばらく遅れて変態野郎の登場。寝癖がついたままの髪をガシガシ掻きながら大きなランドリーバックを持っている。

「げ、おはよう」
「げって何、げって。おはようよりはこんにちはの時間だけど?」
「うるせーな。寝てたのに起こされたんだよ」

変態野郎も洗濯ものを放り込んでミツルに洗剤の入れ方を教えている。どうやら今まで洗濯当番は変態野郎だったらしい。ミツルそーゆーの全然できないもんな・・・。
西君は委員長に話しかけたいらしい。挙動不審になりすぎて可哀相になってきたから助け舟を出してあげる。

「委員長、今日は何買ったの?」
「タオルとか日用品。ストックしておかないといざってなったら買いに行くの面倒だし」
「わかるわかる。俺この間シャンプーの詰め替え2つ買ったもん。西君もこの間買い物行ったんでしょ?何買ったの?」

頑張れ、西君!

「俺は服買った!今度柏木君の応援行くときに着ようと思って」
「え、制服で行かないの?」
「あ、暑いかなーって」
「でも部活動の応援する時には基本制服で行くのが決まりだよ?」

西君撃沈。委員長真面目だから・・・結構オシャレさんだけど真面目だから・・・。

「制服ってジャケットじゃなきゃいけないの?」
「中間服で行けばいいんじゃないか?中間服ならシャツに校章入ってるし」
「それでいいと思うよ」
「俺も中間服で行く・・・」

西君がすごく凹んでいる。きっと新しい服は委員長と出掛けるからって買ったに違いない。別に私服で行くことが違反ではないから私服できてもいいはずなんだけどな。まぁ3人が制服って言うなら制服なのかな。俺はサッカー部ジャージだけど。

「あっそう言えば西君ジーンズ好きだよね?」
「うん」
「セレクトショップの新作カタログ出てたよ」
「見せて見せて!」

委員長が無自覚のフォローに入った。たぶん西君はジーンズが好きなんじゃなくて委員長の為にチェックしているんだろうけど。全身ユニクロのミツルとジーンズよりはスリムパンツにハマってる俺じゃ話は合わないしな。変態野郎はジャージとかカーゴとかでうろついているのしか見たことがない。

「あ、はい、コレイッセイに!」
「ん?何?」
「あけてあけて!」

黒い箱を渡されて、開けて出て来たのはタオル。

「アディダス好きでしょ?試合頑張ってね!」
「俺、俺めっちゃ頑張るから・・・!」

アディダスの黒いタオルを拡げて俺感動。頑張ってレギュラー取ったかいがあった!ミツルからタオルもらっちゃった!どうしようこれ使わないと悪いのはわかってるんだけど俺としてはもう額縁に入れて飾っておこうかなみたいな。

「ミツル、俺には?」
「ヨシキもレギュラーとったらね!」
「俺ナイキがいい」
「ミツル、100均にもタオルって売ってるんだよ?知ってる?」
「オイオイオイ、そのタオル燃やすぞナルシスト」
「できると思ってるの?」

綺麗に箱に納めて膝の上に。手をのばしてきたら骨折ってやる。ベッキベキにしてやる。
手元にあるタオルの箱を見て、今度の試合に絶対持っていこうと思った。

ランドリールームでの1時間弱、たわいもない会話をして皆で洗濯ものを畳んで。ミツルの下着を持って帰りたい欲求に勝った俺は菩薩になれるんじゃないかと思った。イヤ、マジで目の前にミツルのパンツとかあるのに触れないってホントすごい苦行だったから。



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