不条理演劇

好きになった奴は男だった。
俺も男、ちんこついてる。
でも、どうしても、ソイツが好きで好きで大好きで。
どうしたらいいかって考えて。
俺は女になろうと思った。

「え・・・何その格好」

全身の毛を剃って、身につけたのはスカート。
まっ平らな胸にはCカップのブラジャーと詰め込んだ計6枚のパッド。
さすがにちんこ切り落とす勇気はなくてまだぶら下がってる。
髪は急に伸びないからうさぎがついたヘアピンを留めた。
所謂女装ってやつ。

「女になろうと思って」

開いた口がふさがらないらしい目の前の親友。
これが俺の好きで好きでたまらない男。

「全って、そんな趣味があったの?」
「趣味ってわけじゃない」
「じゃぁ何その格好。毛どうしたの?ツルッツルなってるけど」
「剃った。触ってもいいよ」
「嫌、触りたくない」

ソッコーで拒否しなくてもいいじゃん。
やっぱちゃんと女にならないと駄目か。

「着替えたら?気持ち悪い」
「そこまで言わなくてもいいじゃん」
「だって、・・・・何でもない」

草はなにか言いかけたけどソレを飲み込んでまた読んでいた漫画を読み始めた。
こっちを見向きもしない草はほっといてグーグル起動。
女になるのっていくらかかるんだろ。
やっぱタイに行くべき?
おっぱいつけんのどれぐらいかかるんだろ。
ホルモン剤ってどこで買えばいいんだろ。
気持ち悪いって言われたって、変だって思われたって、それでも草の側にいたいんだ。
そのためならおっぱいだって膨らませるし筋肉だって無くすしちんこだって切り落とす。
親友のままで満足なんか出来るもんか。
いつか、いつの日か、誰かが草の腕を掴んで、草が俺に向かって

「全、俺コイツと結婚するんだ」

そんなこと言う日が来る。
そんな日を迎えた日には俺は自殺する。
間違いなく自殺する。
耐えられるもんか。
今ですらこんなに辛いのに。
先に進めない状況が辛いのに。
そんな日を迎えるぐらいなら俺がその女になる。
一生、死ぬまで、ずっと、俺だけが草に愛してもらうんだ。
だからそのために俺は女になる。
戸籍も変えて、結婚できるようにして、でも名前だけはそのままで。
いつか草に

「全、愛してる。結婚しよう」

って言ってもらうんだ。
そのためにかかる費用なんか何をしてでも手に入れてみせる。
顔だって草が好きなように変えてもいい。
でも名前だけはせめてそのままで。
過去も現在も未来も全って呼んでほしい。
自分のアイデンティティをそこに残して、他は全部草のための人形でもいい。
俺以外が草の横にいるなんて未来はいらないんだ。
だから俺は女になる。

「うわっ・・・ホントに女になるの?」
「うん。どんな女が好き?」
「強いて言うなら綾瀬はるか」

綾瀬はるか、俺の骨格でできるのかな。
丸顔はいじりやすいのかな、縦長にするためにはどうしたらいいんだろう。
髪の毛はロングのがいいのか。

「女になりたい奴がスカートはいてるのに胡坐はないんじゃないの?」
「横座りキツいんだもん」
「似合わないって。脱げ」
「ちょ、嫌!離せ!」
「その胸にブラがホントムカつく」

ロンTを脱がせようとする草の腕に抵抗するようにロンTを引っ張る。
ロンT脱いだらブラジャーに詰め込んだパッドがこぼれる。

「嫌だ嫌だ嫌だ!俺は女になるんだ!」
「それはさ、なりたくてなるわけ?」
「当たり前じゃん」
「理由は?今まで一度もそんな話聞いたことないし、女言葉だってつかったことないし、女とも付き合ってたでしょ?」
「うっさい!草には関係ねぇよ!」

その言葉を叫んだ瞬間に頬を殴られる。
口の中切れた気がする。

「いてぇな!何だよ、別にいいだろ!」
「関係ないなんて、いきなりなんでそんなこと言いだすわけ?」
「俺にだって草に言いたくないこともあるんだよ!」
「俺は納得いかない!今まで何でも話してくれてたじゃん。なんでそんなこと言うんだよ」

一歩も引かない攻防戦。
頑固な草の性格は知っている。
だから先に折れたのは俺。

「好きな、好きな奴が、男なんだよ」

見開かれた草の目。
だから言いたくなかったのに。
でもいい。
引かれたなら次会う時には綾瀬はるかになって草のところに行くから。

「その男が、女になれって言ったの?」
「・・・草?」

草を見ればぐしゃぐしゃに歪んだ顔をしていた。
その顔のまま俺の肩を掴んで、俺に向かって叫ぶ。

「全に女になれっていったの?女の全がいいって言ったの?」
「っ草!痛いって!」
「そんなんで女になるの?その男のどこがいいの?その男は全のこと好きじゃないじゃん!」
「っいいんだよ!そんなの!」
「全然よくないだろ!」

壁に身体をぶつけられて視界が歪んだ。
肩を掴む腕に力が込められてギリギリと爪が食い込む。

「なんで、なんで、その男なの?どうしてそのままの全を愛せないような男なんかを好きになるの?」

ゆっくり腕が離れて、草はその場に崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。
見開かれたままの目からは涙がボロボロこぼれている。
いつ振りに見ただろ、草が泣いたところなんて。
草は頭を抱えて小さくなっていく。

「俺だったら、俺だったら、そのままの全を愛してあげられるのに・・・!」

耳に届いた声は小さくて小さくてとても聞きとれるような大きさではないのに。
俺の耳は一言一句、全てを聞き取った。

「・・・え?」
「全、嫌だ、女になったら嫌だよ。いつかその男連れて来て、それで俺になんて言うの?」
「そ、草、待っ」
「聞きたくないよ、絶対嫌だ。そんな男やめなよ、俺はそのままの全を愛してあげる。たくさんたくさん愛してあげる。だから、だから」
「草!」

名前を叫べばビクっと身体が跳ねて、さっきよりもぐしゃぐしゃになった顔が俺を見る。
いつもムカつくぐらいヨユーな顔してるくせに、すましてるくせに。
可笑しいったらない。

「草は、今の俺でいいの?ちんこついてるよ?おっぱいないよ?」
「それの何がいけないの?全は昔っから男でしょ?」
「草は女のほうが好きなんじゃないの?綾瀬はるか好きなんでしょ?」
「それはどんな女がいいか聞かれたから答えただけで、俺は全がいい」

絶句、沈黙、無音。
どうやら長いこと親友をやってると考え方まで似てくるらしい。
なんて悲劇、そして喜劇。

「俺、草が好きだよ。草が他の女連れてくる前に女になって、それから草の横で、草の腕を掴もうって」
「・・・え?」
「だから、草の腕掴むために女になろうと思って、それで」
「それがコレ?」

草の指が俺の格好を指す。
お互い笑い始めるまでそんなに時間はかからなくて、気付いた時には腹が捩れるほど笑っていた。
毛を剃って、ブラジャーにパッド詰めて、女装までしたのが一気にばかばかしくなる。
同じ所で悩んで悩んで、ちゃんと告白することもしないで何この状態。
胸の奥底に閉じ込めていた感情は溢れだしたら止まらないものなんだな。
一通り笑って、目尻に溜まった涙を拭う。

「全、やっぱその格好似合わないよ」
「そうだね、気持ち悪い」
「俺は、そのままの全が好き、愛してる」
「俺も草が好き、愛してる」

親友から恋人になった俺等の笑えるラブストーリー。
ホントちんこ切り落とす前に気付いてよかったって話。




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