コーヒーとアールグレイ

人の愛は4年しか続かない。
一目惚れは脳のちょっとロマンチックな間違い。
僕の恋もたぶんちょっとした寄り道。



僕は目の前の男に乱暴にカップを差し出す。
綺麗な赤い色、アールグレイ。
この間カフェに行った時に美味しいの見つけたのだ。

「俺コーヒーのが好きなんだけど」
「知らないよ、そんなの。僕は紅茶が好きなの」
「はいはい」

せっかくうまく淹れられたのに砂糖とミルク入れ過ぎ。
ホント最低な人。

「ウチにいていいの?」
「別にいいんじゃないの?」
「よくないでしょ。さっさと帰れば?ヤることヤったじゃない」
「いいだろ、今日ぐらい」
「今日だからこそでしょ」

結婚式の前の晩に僕の家にいるってどういうつもりなわけ?
ホント信じらんない。
お互い一目惚れして付き合い始めて。
付き合って4年目の朝に、いきなり結婚するって言われて。
別れたのに別れてもウチに来て。
僕には新しい恋人もいてそこそこに幸せな毎日を過ごしてるのに。
ホント嫌な人。
人の気も知らないで、勝手に浮気して、勝手にいなくなるくせに。

「お前明日は?」
「行かないよ」
「来ないの?」
「当たり前でしょ。招待状も不参加で返事したはずだよ」
「俺は見てない」
「奥さんにでも確認すれば?」

逆玉だかなんだか知らないけどなんでも奥さんに任せすぎ。
明日は新しい恋人とドライブデートの予定。
少し遠くまで遊びに行く。
どこに行きたいか考えてて言われたからドライブ雑誌を広げる。
豚しゃぶ、お漬け物、ご当地ソフトクリーム・・・あ、食べ物ばっか。
食べ物以外・・・足湯?
目の前に広がる、鼻につく臭い。

「ちょっと、タバコやめてくんない?」
「なんで?つか灰皿は?」
「捨てた。僕吸わないし。今カレはタバコ吸わないの」
「お前男いたの?」
「言ってなかった?タバコ吸わないし優しいし良い人だよ」
「セックスは?俺よりうまい?」
「自分がうまいと思ってんなら世話ないよね」

ニヤニヤ笑って僕を見てどうなのとか聞いてくる。
セックスなんか比べるものじゃない。
愛があるかないかで感じるものも違うんだから。

「そろそろ帰ってよ。明日早いんでしょ?」
「俺と一緒にいれる最後の夜なのに冷たい奴」
「そうでもない。ホント帰って、タバコの臭いがつく」
「はいはい、帰りますよー」

タバコをくわえて手を振りながらいなくなる。
扉が閉まるまで、扉を見つめる僕。

「じゃーな、愛してたよ」

扉が閉まる音がひどく大きく響いた。
ホント大嫌い。

「僕も、僕もっ愛してたっ・・・!」

二度と開かない扉に鍵をかけて、僕はその場に泣き崩れた。




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