ピットとアンジー

「岸、なんか賭けようぜ」
「ハァ?」

テスト直前、友人の神田が変なことを言い始めた。
次は神田の得意科目の英語、逆に俺は大の苦手科目だ。

「無理無理、俺神田に勝てる気がしない」
「俺が勝ったら俺の頼みを1つきけよ」
「お前は俺の話を聞けよ」

神田は俺の言葉を無視して前を向いた。



そんなくだらん話をしてから1週間あまり、すっかり忘れて神田を家に招いた。
つい最近自分用にBlu-ray&DVDプレイヤーを自腹で購入したのだ。
TSUTAYAで見たいBlu-rayとDVDを借りてきてウチで見ようってやつ。
親がいないのをいいことに友達招いて明日は学校サボりコースだ。
ついでに飯やら菓子やらジュースやらをコンビニで買って部屋にこもる準備はバッチリだ。
神田を自分の部屋に案内して、部屋に暖房を入れる。

「何から見る?」
「ナイト&デイがいい」
「お前キャメロン好きだよな。俺アンジーのが好き」
「今度ジョニデと新作出るよな」
「広告だけ見た」

TSUTAYAの袋からナイト&デイを取り出してセットする。
広告がでてる間にカラムーチョと買ったコーヒー牛乳を開けて飲み始める。
神田もミルクティーを開けて飲み始めた。

「思ったより面白くないって話だがどうだろうな」
「期待しすぎると何でも面白くないから期待しないで見ようぜ」
「そうだなー。あ、アルフォート開けていい?」
「いいよ」

カラムーチョ貪りながらアルフォートを開けていく。
横では神田がカリカリ梅を開けていた。
甘いもの買うとしょっぱいものも買いたくて仕方なくなる衝動にかられてやたらに菓子を買ったのだ。

「なぁ、お前英語何点だった?」
「68、一気に平均下がったわ」
「俺92、勝った」
「うわっえげつなー。92とか相当いいだろ。今回平均63だったらしいぜ?」

実力テストだから平均点が低いにも関わらず92点だなんて。
俺英語だけは苦手なんだよなぁ。

「俺の勝ち」
「わかったってば、なんだよ」

じりじりと、薄ら笑いを浮かべてにじり寄ってくる神田。
近い、ウザい。
頭を手で押さえて足で近寄る足を押さえる。

「言うこときいてくれるよね」

ここでようやくあの約束を思い出した。

「俺、金ないよ」
「え」
「PSPとか買ってあげらんないから」
「大丈夫、金いらないから」
「じゃあ何よ」
「俺にちゅーして」

幻聴が聞こえた。

「・・・は?」
「岸から俺に、ちゅーして」
「脳みそ腐ったか?」

何が悲しくて、俺が神田にちゅーしなきゃいかんのだ。
付き合い長いし仲が良いとはいえ友達なんだぞ!

「はやく、してよ」
「嫌だって」
「なんでー?」
「なんでじゃないだろ!」
「1回ぐらいいいじゃん」

ほら、と促されてできるものではないのだ。
今の関係を保てなくなったらどうしてくれんだ。
またこちらに力を入れて近寄る神田。
引く気は一切ないらしい。
くそー、くそー・・・。
なんでこうなるんだ。

「・・・目瞑れ」

腹をくくって神田に言えば大人しく目を瞑る神田。
俺も目を瞑って、勢いに任せてキスをした。

「ん゛!」

後頭部を掴まれて頭が動かない。
目を見開いたらよからん事を考えているときの神田がいた。

「ん゛っふ、ばっんぅぅ・・・!」

口にまで入ってきた舌に焦って身体を押し退けようと神田の肩を掴む。
ガチャガチャと音がして何かと思えば股間に神田の手が触れた。

「だ、んんっちょっ・・・・ぶは、っオイ!待て!何するつもりだ!」
「え、聞いちゃう?」
「お前っそもそも願いを1つだけきくって話だったろ!それに映画見に来たんだろ!もう始まるだろ!キャメロン出てる!」

ビシッと俺を指さす神田。

「キャメロン」
「は?」

ビシッと自分を指す神田。

「トム・クルーズ」
「ウオオオイ!何だソレ!お前のどこがトム・クルーズだ!ふざけんな!つかソレは俺が女役やれってことなわけ?!」
「えー・・・」
「えー・・・じゃないだろうが!」

うおおお・・・ヤバいぞ、俺のケツがヤバい!
もがいていたらはっとした顔をして俺に向き直る神田。

「お前アンジー、俺ブラッド・ピット」
「何一つ変わってねぇだろうがあああ!」
「だって俺お前掘りたくてしかたないもん」
「なんてこと言い出すんだ!アホか、友達やめるつもりかボケェ!」
「大丈夫、恋人になれる」
「ぎゃあああ!脳みそどこに忘れてきたんだ!触るなあああ!」
「たっぷり楽しもうぜ、アンジー」
「ヒィィィ!ケツぐちゃぐちゃにされんのはいやだよ、ピットオオオ!!!」

決めた。
好きだなんて絶対言ってやらん。




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