悲恋
その他 13/05/14

好きだって言って欲しいとか、もっと夜の営みをとか、俺に望まないで欲しい。俺からしたら君と一緒にいることで精一杯。君の前で赤面しないことがどれだけ大変か君はわからないのだ。その思いを言葉にしようとしただけでいっぱいいっぱい。だから、俺の我儘を。俺のスローペースに付き合ってください。

君は誰にでも優しい。等しく平等でいるから、俺は君の特別なのだと思わせて欲しい。好きだと言って、たくさん抱いて。でも君は嫌そうな顔をする。それからスローペースに付き合って欲しいと。君は知らないんだ。その一言で俺がどれだけ不安になったのか。その一言で君を疑うにどれほど十分だったのか。

君が俺から離れた。とてもゆっくり離れたような気もするけれど、俺からしたらそれはロケットよりも速いスピードで。俺が手を伸ばしても君の背中すら見えなくなった。鳴らないiPhoneを見つめて幾日か。久々の君からの電話に心臓が跳ねたけれど、別れ話が怖くてその電話に出ることはできなかった。

本心を聞きたくて、電話をした。本当は直接会いたかったけれど、他の事を優先されるのが怖くて電話にした。長めのコール、38秒。結局君が電話に出ることはなかった。ほんの数日、ほんの少しの時間、ほんの38秒。君の本心が、君の声が、聞きたかっただけだった。絶望を感じるには十分過ぎた38秒。

どこにいても君の姿を探してしまう。電話に出られなくてごめん、と。怖かったんだ、と。正直に話そうと心に決めて家を出た。そのはずだったのに、君を探してもいたらどうしようという恐怖に襲われてまともに前が見れなくなる。もしそこに俺以外の誰かが横にいたら。怖くて君を探す事もできなくなった。

好きだという気持ちに限りはない。その気持ちが大きければ大きい程、絶望という穴も大きかった。きっと君は俺以外の誰かと一緒にいてきっと俺に接する時と同じ顔をして笑うのでしょう。好きだと言わない唇は誰しもが平等だと語る。そんな君の特別になりたいと思った俺は悪魔か何かだったのでしょうか。

俺が君のiPhoneを鳴らすという考えが浮かんだのはつい先ほど。俺は優しいとよく言われる。でもそれは不誠実の裏返しなのだと思った。君が鳴らしてくれていたから、鳴っていたiPhone。君が鳴らさないから、俺のiPhoneは電池でも切れたみたい。ほら、不誠実な俺はまた君のせいにした。

ずるずると別れ話ができなかった。こんなに君を好きなのに、君のことを信じられない俺は最低だ。君のスローペースがわからない。君の考えもわからない。遠くに見つけた君を追いかけて、君の腕を掴む。あぁ、そんなに嫌そうな顔をしないで。今、君を解放してあげるから。「もう全部終わりにしましょう」

君は嬉しそうに笑っていた。俺は嫌そうな顔をしていたと思う。「そうだね、そうしよう。ありがとう」別れない、とは言えなかった。笑っている君を見て、この言葉を正解だと言い聞かせて、せめて最後は笑おうと必死で。俺の腕を掴んでいた手が離れ、ゆっくりと距離が開く。「さようなら」大好きでした。

笑った君を見て、君の笑顔はそんな笑顔なのかと思った。思えば笑った顔なんてのは付き合い始めてから見ていなかったと気付いた。君の姿は見えなくなった。もう二度と、あんな風に笑う君を見ることはないのでしょう。俺も君に笑うことはないのでしょう。好きだとは言わない唇、さようならは言えたのか。

追いかけてきてはくれなかった。それはそうだろう。俺は君になんでも望みすぎだとようやく思った。ようやく後ろを振り返った時には誰もいなくて、iPhoneも鳴らない。きっともう声も聞くことすらないのでしょう。目を閉じて、瞼の裏に君の笑顔を思い浮かべて、零れない程度の涙で眼球を湿らせた。

涙が出ない理由はこの結末を随分前から想像していたから。予行練習とでもいうのか、慣れてしまったのだと思う。発着信履歴を埋め尽くす君のアドレス。消さないと今すぐにでもかけてしまいそうだった。だから全部まとめて消した。これで俺と君は終わったのです。「もう会うこともないでしょう」きっと。


すれ違いと思い違いから始まった収集がつかないさよならの話でした。
悲恋は嫌いだ。

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