「師匠のおかげで少しずつ慣れてきました」
「よ、よか、った」

白く、何もない訓練室の中で辻とナマエは見つめ合う。右腕を付け根から切り落とされた状態であるにも関わらずふわりとナマエが笑えたのはトリオン体だからであった。切り口から漏れてくるのは真っ赤な血液などではなく黒いトリオンだ。氷見に頼んだ訓練室の設定のおかげでナマエがトリオン切れでベイルアウトすることはない。師弟はそれぞれの苦手克服のために訓練に勤しんだ。



「お疲れさまー、ナマエちゃん」
「犬飼先輩。お疲れ様です」

訓練室から出ると二宮隊のメンバーは揃っていて、ナマエの前にココアが差し出される。いきなり現れたそれにナマエはよろめきつつも溢さないように両手で受け取った。
そういえば換装体って太りやすいんだったっけ。
換装を解いて見慣れた制服に戻る。

「二宮さん、ありがとうございます」
「ついでだ」

自分のコーヒーのついでとはいえ、ナマエのためにココアを入れてくれたことには変わりない。へらりと笑うナマエを見て二宮は軽くため息を吐いた。
ココアが二宮隊に常備されるようになったのは自分が来てからだということをナマエは知っていた。そしてそれはナマエがココアとミルクティで迷うことが多く、自販機で買う時はミルクティを買うことが多いことを辻が伝えて、それを聞いた二宮がココアを買ってきたというようにナマエは認識していたし、それは正解だった。
自分の隊の隊員には出さないのに、その隊員の弟子には好物を出すことに犬飼は笑ったが、二宮がナマエを気に掛けるのは、辻がナマエを大事にしているからだと思った。

「そろそろ普通に訓練してもいいんじゃない?ナマエちゃんも慣れてきたでしょ」
「はい!師匠のおかげで!」

辻はナマエと少し距離をあけて椅子に座る。その手に持っていたのはココアで、クールな顔をしながら女の子が苦手だったり、甘いものが好きだったり、これがギャップ萌えって言うんだなぁと一人頷いた。

「犬飼先輩。ミョウジさんはお、俺の弟子です」
「あー。ごめん辻ちゃん」

訓練・・・・とは言っても右腕を切り落として後は話していただけなのだが、の疲れからか一瞬にして中身の消えたマグカップの横に新しくなみなみとココアが注がれたカップが滑ってくる。恐竜がプリントされているそれは自分の師匠のもので、首を傾げて隣を見ると、吃りながら飲んでもいいと伝えられる。お礼を告げると震える手が頭の上に乗せられた。驚いて身を引きそうになるけれどこれは師匠が女の子に慣れるための訓練であると察して、大人しくその手を受け入れた。

「イチャついちゃってー」

揶揄うような犬飼の声で自分の頭の上の手はびくりと揺れて、その体温が離れていく。寂しいなと思うけれどそれはナマエの勝手な都合だ。その思いを伝えることなくマグカップに口を付けた。

「ナマエちゃん、今日うちの隊ランク戦するんだけど来る?」
「見たいです!」
「ぁ、ミョウジさん、きょ、今日は夜の部だし、その後は用事があって送れないから、は、早めに帰った方が、いい・・・・」
「あ・・・・分かりました」

ナマエとしては一人で帰れるのだが師匠に心配をかけるわけにはいかない。大人しく返事をしたが、その姿は誰がどう見ても未練たらたらだった。

「・・・・俺がコイツを送る。・・・・お前もくればいい」

意外にも助け舟を出したのは二宮だった。いくら師弟関係でも隊で行く焼肉に勝手に弟子を誘うわけにもいかなかったが、隊長の許可がでた。それどころか直々に送ってくれるという。ナマエが喜びの声をあげれば辻が断れるはずもなく、それなら・・・・と頷いた。

「だ、だけどミョウジさんのことは、俺が送る、から」

なので、大丈夫です。と普段なら言わないような二宮に対する小さな反抗。成長したなぁと氷見は頷いた。







真っ直ぐ綺麗に伸びる旋空孤月は敵チームの一人を腹から真っ二つにした。辻の攻撃はポイントが高いとは言えないナマエでさえも無駄な動きが少ないことが分かるもので、そんな人に師匠になってもらっていることを誇りに思った。3人ともベイルアウトすることなく試合が終わり、二宮隊がB級のトップから落ちることはなかった。



「師匠!流石です!かっこよかったです」

貧相なボブギャラリーからは自分の思っていることが十分の一も伝わらないことが残念で仕方がない。ナマエは興奮気味に辻に駆け寄った。俺は?と尋ねてくる犬飼にもすごかったです!と跳ねて、その後ろから出てきた二宮にもそれを伝える。もちろんオペレーターである氷見のこともすごいすごいと褒め称えた。
やっぱり隊っていいなぁと思うけれど、今の自分のレベルでは迷惑をかけてしまう。師匠からたくさん教えてもらわなくては!と気合を入れた。
周りからははしゃぐ子犬を見るような目で見られていたが、ナマエがそれに気づく事はなかった。

「お前、玉ねぎ食えるのか」
「・・・?食べれますよ?」

完全にナマエを犬扱いする二宮に、実は犬を飼っていない犬飼は吹き出した。









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