まただ。またやってしまった。切り離された自分の足が目に入った瞬間に怯んで、その隙を狙われた。いつも・・・・とまでは言わないまでも私の負け方のほとんどがそれだった。なら手足を取られないようにしよう!と思ってもそう簡単にいくわけもなく、失うことばかりを考えて踏み込みが甘くなってしまう。今日はいけるかも!なんて根拠もない自信のままに早朝のランク戦に挑んでみたが、結果は引き分け。最後に負けたから気持ち的には敗北。手足が無事であれば勝率も高いため、幸いここ最近大きくポイントの変動はない。しかし変動がない、ということは強くもなれていない、ということなのだ。はぁ、とため息をついてベイルアウト用のベットから起き上がる。どうすれば自分の手足が切り離される恐怖に勝つことができるのだろう。いくら考えてもどうしようもなかった。対戦用ブースから出て、ジュースでも飲もうかな、と自販機へ向かう。平日の放課後とは違い隊員が少なくて、なんだか変な感じだった。ミルクティにするかココアにするか、数秒悩んだ末にミルクティを選択する。

「あ、あの・・・」

ガタンとペットボトルが落ちてきた音にかき消されそうなほど控えめな声だったけれど、人がいないせいでその声はよく響いた。取り出し口からミルクティを取らないまま振り向き、え、と声をあげる。
声をかけてきたのは、ログで何度も見た二宮隊の辻新之助だった。同じ孤月使いでマスタークラスということもあり、ナマエは辻を尊敬していた。そんな尊敬している先輩から話しかけられて信じられない気持ちでいっぱいだった。もしかして今の対戦を見てアドバイスでもしてくれるのだろうか。アドバイスされるまでもなく自分の弱点は分かっているのだが、教えてもらえるに越したことはない。ナマエは辻の言葉をじっと待った。そして自分の耳を疑う。

「お、俺の、で、弟子にな、りませんか?」











「師匠、お疲れ様です!」
「お、お疲れ、さま」

自分の師匠は女の子が苦手だと知ってからナマエは一定の距離を保った。元々人との距離が近いナマエにとっては少し寂しかったが、こればかりは仕方ない。氷見先輩とは慣れたから話せるようになったって言ってたし、たくさん接してればきっと話せるようになるよね・・・・?幸いにもナマエは師弟関係で繋がっているため関わる機会はそれなりに多い。持ち前のコミュニケーション能力の高さは、二宮隊の作戦室に自由に出入りをして良いという許可を二宮からもらえるほどで、それなりに自信があった。
きょろきょろと視線を彷徨わせる辻と仲良くなりたいという気持ちは見せつつ無理強いはしないナマエの会話に癒され、作戦室の空気は柔らかかった。

「師匠何の訓練をするんですか?」

ナマエは初めての師匠、初めての訓練にワクワクが止まらなかった。ボーダー用の携帯端末で、訓練の日時を聞いてからというもの夜も眠れないくらいだった。ソワソワと師匠、師匠と纏わりつくナマエを見る目は暖かかったが辻の一言で作戦室の空気が凍りついた。

「・・・・手足を、お、落とします」


二宮さえ絶句した。犬飼は辻とナマエの間に割って入ったし、氷見はナマエを守るように抱きしめて隠した。緊張のあまり言葉が足りなかったことに気付いた辻も慌て出して、二宮隊作戦室は大混乱だった。
ナマエのみ辻の伝えたいことを正しく理解してだらだらと汗を流した。辻の言っていることが自分の課題に対する一番の解決策であることは理解していた。

「そ、それは師匠が落としてくれるということですか?」
「ぅ、ん」
「わかりました!」
「ちょ、ちょちょ、待って!どういうこと!?」
「あ、」

理解が追いついていない犬飼達に辻が説明すればやっと作戦室が和やかな空気を取り戻し、師弟の間にいた二人が離れる。

「辻くんも女の子克服するチャンスかもね」

氷見が辻に訓練の詳細を尋ね、訓練室の設定を細かくいじる。ナマエの師匠は辻一人だというのに二宮隊全体で協力してもらって、師匠がたくさんいるみたいだな、と思った。

「ひゃみさん、えっと、ちょっと見られるの恥ずかしいから、見えないようにしてもらえたり・・・・」
「・・・・まぁ辻くんだし大丈夫か」

何を恥ずかしがるのかは分からなかったが師弟二人の成長のために氷見は頷く。緊張した面持ちのナマエの背中をぽん、と叩いて励ました。ナマエも覚悟を決めて、訓練室に入った。






「ぃ、くよ。ミョウジさん」
「はい!」

孤月が腰にあるというのに攻撃できないのは気持ちが悪かった。しかしこれも訓練だと割り切って硬い地面に横たわる。四肢を落とすのであれば一思いにやって欲しいものだ。辻の持つ孤月がカタカタと小刻みに震えた。ナマエはごくりと生唾を飲み、しかし、目を瞑らないように歯を食いしばる。大丈夫。これはトリオン体だから、大丈夫。軽く孤月が左腕を掠り、トリオンが漏れる。動いていないのに一気に腕が落ちなかったのは辻の覚悟が足りなかったからだった。ふぅ、と二人の呼吸が重なる。

「し、師匠」
「ひっ!ひゃい!」

刃を向けられているのはナマエだというのに自分より緊張しているように見えて、少し笑う。

「一気に!お願いします」
「ゎ、かった」

ぐっと辻が歯を食いしばる。ナマエも覚悟を決めて光る孤月を見つめた。
逸らしたらだめ。逸らしたらだめ。きちんと見ないと!
ずっと見つめていたのに目では追えないほどに早い斬撃でナマエの右腕が落ちた。それを見てどくどくと心臓が音を立てるけれど、痛みがないことを確認してほっとする。
続いて、左手、右足、左足と視線で追う暇もなく飛ばされる。

「い、意外と・・・・大丈夫、です」

孤月が鞘の中に収納されて、ふぅ、と息を吐く。そしてその視線を鞘から自分の師匠に移してギョッとする。

「だ、大丈夫、ですか!?」

自分よりひどい状態の辻を心配するが四肢のないナマエは触れることさえできない。真っ赤な頬と潤んだ瞳はいっぱいいっぱいの様子で、どちらとも入り口のパネルに触れることができない状態だったためになかなか訓練を終えることができなかった。
文字通り手も足もないナマエと泣きそうな切り落としの犯人は数分間意味もなく見つめ合うこととなった。





後の、別に四肢を切り落とさなくたって片手だけとかでもよくない?という犬飼の言葉でこの四肢切り落とし訓練は無くなった。




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