研磨はずっと私と一緒にいてくれる。研磨だけは私の味方でいてくれる。助けてくれる。愛してくれる。私には研磨だけ。
なのにどうして?どうして私を置いていったの?
暗くなった校舎の中で私の足音だけが響く。私の周りからいなくなったクロが卒業して、研磨も部活を引退した。毎日一緒に学校に来て、ご飯を食べて、帰って一緒に眠った。一日たりとも研磨が私の前からいなくなった日はなかった。だから待っていた。教室にはいなかったけど、他の用事で呼び出されているのかもしれないと思って。
しばらく待っても来なくて、靴箱を見にいったら靴がなかった。それでもやっぱり信じていたかったから研磨の教室に戻って、いつも研磨が座っている席に座った。なんだか疲れてきて少し泣きながら眠った。
目が覚めたら外は真っ暗だった。部活をしていた時でさえ、研磨がこんなに遅くなった日はなかった。心の中にぽっかりと穴が空いたような、お腹のなかがスースーするような感覚になった。冷たい机に頬をぴたりとつけて何もする事がないから机の中に手を突っ込んだ。入れっぱなしにしていたらしいタオルが入っていた。重たい腕を上げて頭に被せれば研磨の香りがした。いつもは落ち着く香りなのに今日は胸がザワザワした。
あぁ。気持ち悪い。
人影一つ見当たらない教室はまるでこの世界に私一人だけみたいだった。
お腹がなった。あれ?私今お腹空いてるんだっけ?分からない。私の帰る場所はどこだっけ?分からない。おばあちゃん、待ってる。本当に?
本当に、私のこと待っていてくれる人なんて、いるの?
「ナマエと一緒にいるの、飽きた」
そんなこと研磨は言わない。頭の中で何度も、何度も何度も何度も捨てられて、いらないって言われて、辛くて苦しくて、なんだか、痛い。
もう私なんて、いらないのかもしれない。立て付けの悪い窓の鍵を開ければギギギと拒絶するような音が聞こえる。無機物にまで拒絶されるなんて。なんだか少しおかしかった。
冷たい風が頬を撫でて、おいで、おいで、と呼んでいるような気がする。もしかして、ここから飛び出したら私を受け止めてくれるんじゃないかな?
研磨の机を踏み台にして窓に身を乗り出す。
もう少し。もう少しで・・・・・。
「ナマエ!」
愛おしい人の声がした。