鎖は重く足に絡まっている。だけど逃げたいとは思わない。痛くも、煩わしくもない。この鎖は私が愛されている証拠だから。


足に絡まる鎖がジャラ、と音を立てた。柔らかなベットに沈んでいた体を起こすと、いつもは隣で寝ている研磨の姿が見えなかった。

「けんま。けんま!」

呼べば聞こえる返事は返ってこなくて広い部屋はしん、と静まり返っていた。
ベットから降りてリビング、お風呂、トイレ、キッチンと歩き回る。人の気配を感じなくて背中にぞくりと寒気が走る。

「けんま!どこ!?」

眠っていてしばらく使っていなかった声帯を刺激してごほ、ごほ、と咳が出る。
物置部屋まで見て家の中に研磨がいないと焦り始める。厳重に鍵をかけられた玄関が視界に入って一歩踏み出す。鎖の長さが足りなくて盛大に転んでしまう。

「けんま…」

筋肉の落ちた腕で這いずるとガチャガチャと慌ただしい音が聞こえた。

「ナマエ!」

どさっと何かを落として靴を蹴り飛ばすようにして脱いで家の中に入ってきた研磨に抱きしめられる。

「けんま、やだよ。ひとりにしないでよぉ」

フッフッと過呼吸気味になりながら研磨に縋り付く。温かい体温にほっとして力をぬいてくたりと研磨の体にもたれかかる。

「ごめん。ナマエ、熱出してたから色々買いに行ってた」

袋からこぼれ落ちているのは冷えピタや風邪薬で、言われてみれば熱っぽいことに気付いた。それでも起きて隣に研磨がいなかった不安は大きくて涙が止まらない。
ぺろりと零れ落ちた涙を舐められて研磨を見上げると膝裏に手を回された。ふわりと体が浮いて、ベットの上に下ろされる。離れようとした研磨を震える手で引き止める。

「行かないで…」

「…大丈夫だよ。薬取ってくるだけだから」

困った顔をされて手を離すと頭を撫でられる。
言った通り研磨はすぐに帰ってきて、袋からゼリーや薬をとりだす。ぺりぺりとゼリーの上蓋を開けると慣れた手つきでそれを掬って口元に持ってきてくれる。口を開くとスプーンが差し込まれ、咥内に流し込まれたのは小さい頃から熱が出たら食べていた桃味のゼリーだった。

「ごめん。俺が料理作れたら良かったんだけど…」

「このゼリー懐かしくて美味しいよ」

「…そっか」

ゼリーが全て胃の中に消えると今度は薬の箱を開ける。研磨は錠剤を2つ自分の口の中に放り込む。小さく口を開いて待っていると水を含んだ研磨の唇がおりてくる。錠剤は嫌いだ。でも研磨が飲ませてくれるなら我慢出来る。
ごくっと流れ込んできた水といっしょに薬を飲み込むと零れた水をタオルで拭われた。
袋の中にゴミを入れ、もそもそと布団の中に入ってきた研磨はここにいるよ、と教えてくれるように私を抱きしめた。

「おやすみナマエ」

ぽかぽかと暖かくなって瞼がおりてくる。私から離れないでという気持ちを込めて抱きしめ返すと薬の影響もあったのかすぐに眠りに落ちた。




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