「伏黒くんちょっといい?」

控えめに扉を叩く音がして、部屋の前にいるのは間違いなく乙骨先輩であることにホッとする。五条先生や狗巻先輩だとどんな悪戯をされるか分かったもんじゃない。
唯一俺が純粋に尊敬できる乙骨先輩を待たせないように急いで扉を開けると穏やかに微笑む先輩の後ろに見慣れない女がいた。

「新しく入ってきた子だよ。伏黒くんと同級生らしいから・・・」
「ミョウジナマエです。呪符を書くのが得意・・・らしいけど、身体能力は人並みだし呪術に関する知識もまだまだだから色々教えてくれると嬉しいかな」

全く聞いていない同級生の存在に驚くが五条先生のことだからな、と納得する。丁寧な自己紹介を聞く限り乙骨先輩と同じくらいの常識人に思える。呪術という言葉が入っていなければ非術師にさえ見える。こいつ生きていけるのか?

これからよろしくお願いします、と渡されたのは呪符だった。低級の呪霊になら不意打ちで攻撃されても何なく防御されるレベルの。乙骨先輩とさらに後ろにひっそりと隠れていた狗巻先輩にも同じものを渡したらしく、二人は彼女を褒めちぎった。確かにこのくらいの効力を持つ呪符を大量に生産できるのであれば優秀な類だと思う。一般的な呪符は式神の召喚や簡単な結界術の発動、強力な呪物の封印などに用いられるのだが彼女のものは種類が多いらしい。俺が出した玉犬を気に入ったらしく一緒に寝るために何枚もの呪符を出してくる。初心者だと言う割にはマイナーどころか初めて聞く種類のものを手渡してくるのだから驚く。しかしそれとこれは別だ。いくら呪符を貰えたとしても式神を出し続けるのは疲れるし俺が寝れない。こんなことなら式神を見せなければよかったと思いつつも思いの外喜ばれたためたまになら、本当に極稀になら見せてやってもいいかと考えるのだった。









「それ大丈夫なのか?」

呪術師にしてはかなり短いスカートを見て顔を顰める。少し激しい動きをしたら絶対に中が見える。うっかり見えてしまって変態扱いされたらたまったもんじゃない。

「パンツスタイルでお願いしてたんだけど・・・」

伏黒はその一言で察した。五条先生だな。その考えは当然のように当たっていて、カスタムに横槍入れた甲斐があったー、とニヤニヤと口角をあげてこちらを見てくる彼を睨んだ。

初心者だと言っていた彼女は呪術高専の制服は自分の好きなようにカスタムできることを知っていたらしくデザイン自体は元のものとそこまで変わっていないらしい。術式に関係するわけでもなさそうなのにやはり女子は可愛さを求めるのだろうか。彼女の制服は軍服をアレンジしたようなデザインでコスプレのように見える。軍服はどちらかというと男が憧れるものだと思っていたが、かっこよさに惹かれたのだろうか。









ミョウジの授業態度は真面目でそれに応えようとしているのか五条先生もしっかりと教えていて、安心した。本当に初心者なのかと疑っていたが彼女の質問する内容には初歩的なこともあってやっと納得する。

「恵の術式なんかは特に優秀だよね。玉犬とか」

ミョウジが気に入っていることを知っていてわざわざ例に出してくるあたり本当性格悪いと思う。授業中に、しかも座学中に出して良いのかよ、と思いつつもこれ以上二人対応することが面倒になり、玉犬を出してやった。
悪意がないことが分かっているからか玉犬も満更ではない顔をしているような気がする。
動物(式神だが)にきゃあきゃあと喜んでいる姿は普通の女子高生にしか見えなくてやはりミョウジは本当に呪術師として生きていけるのかと心配になる。術式は間接的なサポートができるものなのに、彼女は自分が現場に赴くらしい。死ぬか確率を上げたい物好きなのか、軽く見ているのかは分からないが目の前で死ぬのだけはやめて欲しいと思う。

「じゃ、そろそろ行こうか!」

ぽん、と肩に手を置かれ声を驚く二人。視界がぐわんと歪む感覚にどこかに飛ばされたことを悟る。構える間も無く攻撃を受けたのに傷一つ負っていないのはミョウジの呪符が効力を発揮したからだろう。

「どういうことですか・・・?」
「どういうことも何も呪霊に攻撃されたんだよ。恵がナマエを見て不思議そうな顔してたからさー」

頭の中をすかして見られているようで気分が悪い。失礼なことを考えていた自分に非難の声をあげるナマエを他所に玉犬に呪霊を食わせる。


「ってことで恵とナマエにはこれからここにいる呪霊を全て祓ってきて貰いまーす」
「はい?」

一体祓ったはずなのに複数の呪霊の気配。一人であればなんとかなるかもしれないが運動神経は一般人と同等だと豪語していたミョウジがいる。守りながらとなると相当きつい。

「呪符は?」
「結界はあんまり持ってきてない」

ミョウジも俺が同じことを考えたらしいが手持ちは少なかった。いきなり座学中にいきなり連れてこられたのだから当たり前だろう。これに関しては五条先生が悪い。しかし文句を言おうとした時には姿を消していてあまりにも早い逃げ足に苛立つ。

「一応地面とかにその場で書けないこともないけど・・・」
「書けるもの持ってきてないだろ」
「うん・・・」

その場で戦う手段を作り出せない、というのも伏黒がナマエに対して現地に赴かないで欲しいと思う理由の一つだった。

「祓えるような呪符も一応何枚かあるよ」
「とりあえず俺の後ろにいろ。もしもの時にとっておけ」
「はーい」

素直に頷くミョウジの後ろを黒に、自分の前を白に守るようにして呪力が濃いところへ向かう。一つの扉の前でウロウロしている蠅頭を素手で祓う。ミョウジもそのくらいならできるようだ。

「開けるぞ」

小さな声をかけると彼女はこくりと頷く。扉を開いた先にいた呪霊は一体でこちらに背中を向けている。不意打ちで玉犬が飛びつくとすぐに祓うことができ、ほっと息を吐く。

「まだ気を抜かないで!」

小さな影が自分の前に飛び出たかと思うとぼっと炎が燃え盛る。熱風が顔を掠めた。影にもう一体潜んでいたらしい。炎はミョウジの呪符の効果らしくかなり熱く感じるが火傷を負うものではなかった。

「悪い」
「うん」

今度こそその場にいる呪霊は全て祓ったというのにピリピリと肌を刺すような緊張感は解けない。

「お前任務には結構行ってたのか?」
「任務は行ったことないよ。入学するときに一度試験で祓っただけ。・・・あと一体上にいるみたい」

ほとんど初めてのようなものなのに俺より呪力感知が精密なのか。天才術師と持ち上げられてきた伏黒だがこいつこそ天才なんじゃないかとナマエを見る。すでに腰につけたポーチから呪符を数枚取り出している。

「お前何級だ?」
「三級だよ。伏黒くんは二級なんでしょ?すごいね!」
「いや・・・」

本当に駆け出しの呪術師らしい。しかし話しながらも警戒を解かないナマエに自分がしてたのは余計な心配だったな、と少し安心するのだった。




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